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【読書メモ】今週読んだ5冊

 ノンフィクション強化週間。



『旅行者の朝食』米原 万里



その名を聞いただけでロシア人なら皆いっせいに笑い出す「旅行者の朝食」というヘンテコな缶詰や、数十年前たった一口食べただけなのに今も忘れられない魅惑のトルコ蜜飴の話、はたまたロシアの高級輸出品キャビアはなぜ缶詰でなく瓶詰なのかについての考察や、わが家を建てる参考にとはるばる神戸の異人館を見に行くも、いつのまにか食べ歩きツアーになっていたエピソードなど、ロシア語通訳として有名な著者が身をもって体験した、誰かに話したくなる食べ物話が満載です!

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・ロシアの食文化や風土について、ロシア語通訳者の著者が書き綴る一冊。
・「異国にいると日本食が恋しくなる」というエピソードがあるけれど、私はどうもピンと来ない。これまで何回か海外旅行をしてきたけれど、白米や納豆が食べたくなったことは一度もない。むしろ、異国の料理を現地で味わえるチャンスを逃してなるものか、と意気揚々としていた。それでも一つ譲れないものがある。それは牛乳。以前グアムに行った時、現地で手に入れられた牛乳がどれも砂糖を入れたものばかりで、あのスッキリとした飲みごこちが好きな私にとっては耐え難いものだった。私は日本食が無くても生きていけるけど、無添加牛乳が無いと生きていけない。そういう、飲食物に関する保守的な一面は程度の差はあれ誰にでもあるものなのかも。
・フランス料理で料理が一品ずつ出てくる形式が「ロシア式サービス」と呼ばれているのは初めて知った。ちなみに料理がいっぺんに運ばれてくるのが「フランス式サービス」と言うそうな。
・『ちびくろサンボ』は実はネイティブアフリカンではなくインド人であることも初耳。本作のトラがぐるぐる回ってバターになったものをパンケーキに乗せて食べる展開は有名だけど、よくよく考えればアフリカにトラはいない、生息地はアジアだ。そしてアフリカにはパンケーキの食文化もそぐわない、どちらかと言えばアメリカだ。そこで著者が調べたところ、実はもともとインド人が主人公のインドの話として書かれたものを、日本の出版社が挿絵をアフリカンに変えたという。そしてパンケーキではなく、おそらくナン。トラが高速回転してできあがったのもバターではなくギー。『ちびくろサンボ』はインド人がナンにトラのギーを付けて食べるお話だった。
・余談だけど、私は一回だけロシアに行ったことがある。レストランで「お水です」みたいなノリでウォッカが出てきてビックリした。危うく昼間から40度をガブ飲みするところだった。


『古代アメリカ文明 マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像』青山 和夫, 井上 幸孝, 坂井 正人, 大平 秀一


マヤのピラミッド、ナスカの地上絵、マチュピチュの祭祀、湖上都市テノチティトラン。最新知見から実像を描き、文明の見方を覆す!

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・古代アメリカ文明が語られる時には、とにかくオカルトの影がつきまとう。やれ生贄の心臓を捧げただの、セノーテに生贄を投げ込んだだの、オーパーツ水晶ドクロだの、2012年世界滅亡予言だの。なお、水晶ドクロはマヤ文明とは関係のない工芸品であることが明らかになっており、2012年12月に古代マヤ歴が終わっていたのは、単に長期暦の1,872,000日が一巡しただけ。大晦日を過ぎて元旦を迎えただけだった。
・古代アメリカの「神秘」は歪められて伝えられることが多い。オカルト番組やオカルト雑誌が良い例である。本書はそんな色眼鏡を外して、オカルトではなく学問として古代アメリカを正しく知ることができる一冊。
・そういう感じで、古代アメリカ文明研究者としての怒りがヒシヒシと伝わってくるまえがきでした。
・マヤ文明とアステカ文明の区別すら付いていなかった私でも、古代アメリカ文明が何となく分かるようになったから凄い。
・「世界四大一次文明」という概念がある。メソポタミア文明、中国文明、メソアメリカ文明、アンデス文明。これらは、もともといかなる文明も無かったところに生まれた全くのオリジナルの文明を指す。よく聞く「世界四大文明(メソポタミア、エジプト、インダス、黄河)」は実は学説ではなく考古学者の江上波夫が普及させた教科書用語であり、欧米では通じない概念だという。そして世界四大一次文明のうち二つを古代アメリカが占めているのだから、ここでの考古学がいかに重要かが分かるだろう。コロンブスが新大陸を「発見」して、スペイン軍にメチャクチャにされちゃったけど。
・古代アメリカの考古学の本を読んでいると「コロンブスは像をブッ壊されても文句言えんわな」と思えるよ。


『コンビニオーナーぎりぎり日記――昨夜10時からワンオペ勤務、夫が来たら交替します』仁科 充乃


シリーズ累計56万部突破!ベストセラー、日記シリーズ最新刊!30代でフランチャイズオーナーとなり、以降30年間にわたってコンビニの最前線で奮闘する著者による、怒りと悲哀と笑いの記録。「~昨晩10時からワンオペ勤務、夫が来たら交替します~」・・・・休日が取れなくなって、今日で1000日を超えた。もう3年近く、1日も休んでいない。近くにコンビニが増え、店舗の乱立で売上が激減。お客の取り合いばかりでなく、従業員も奪い合いとなり、今では時給を上げても応募はゼロ。オーナーである私たち夫婦は休んでなどいられない。(「はじめに」より)・・・。

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・コンビニオーナー、この方は1057連勤とのこと。参りました。
・あまり知られていないけれど、ペットボトルのフタは外してから捨てるもの。本作の舞台となるコンビニでも多くはフタを閉めた状態で捨てられており、そのままだとゴミ収集業者が回収してくれないためコンビニ従業員がフタを外すことになる。そのために大いに勤務時間を食われることになり、しかも真夏に炭酸飲料の飲み残しでも入っていようものなら開けた瞬間にフタが弾丸のごとく飛び出る。目に当たれば失明になるレベル。みんな、ペットボトルはフタを外してから捨てようね!
・お仕事ノンフィクション、めちゃくちゃ面白い。ヘタな小説よりずっと。個性的なお客への対処法に、万引き犯との対話、引きこもりの仕事デビューの手伝いに、ヤクザの忘れ物。別世界のエピソードを聞けるって、贅沢なものです。
・だけど引っかかる点も。「近くの精神病院の患者がよく万引きに来る」とサラッと描かれている。ひとつの現場のリアルなんだろうけれど、精神病患者や精神障害者への偏見を防止するエクスキューズな一文は欲しかった。
 なお、障害が理由で法に触れる行為をしてしまう障害者のことは触法障害者と呼ばれ、適切な支援が必要となる。
・あと、素人の私が見ても精神疾患を抱えていそうな客を「迷惑客」として面白おかしく紹介するのもどうなんだろうなーと。


『裏のハローワーク』草下 シンヤ


オモテがあれば、ウラもある。スーツを着て、定時に出社して、興味の持てない仕事をして食べていくのもひとつの生き方。しかし世の中には、そうでない仕事も多数存在する。マグロ漁船から、大麻栽培、治験バイト、夜逃げ屋、偽造クリエイターまで、世の中のあらゆる「危ない」「裏のある」仕事に密着。経験者から語られるあまりに生々しい手口のオンパレードにゾッとすること間違いなし。各職種ごとの「リスク」「収入」「労力」「犯罪性」「働き方」を掲載。読むだけでも楽しい、就職したいなら、いっそう役立つこと請け合い。大通りからは見えない裏路地の世界を、ちょっと覗いてみませんか?

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・いわゆるアングラな、いわゆるサブカル系。一般ピープルの「怖いもの見たさ」を満たすための本。
・文庫版で追記されたのか、一部の職業への差別を助長するような内容が含まれることに対して「差別の意図はありません」「不快な思いをさせたことをお詫びします」というダメな釈明ダブルパンチな一文があって、ダメだこりゃ。
・よく聞くような借金のカタでマグロ漁に来る人はほとんどいない。ただし船による。オーナーがヤクザの漁船にはそういう人もいるらしい。なお、マグロ漁よりカニ漁のほうがより過酷でより儲かる。真冬のいちばん時化る時に海へ繰り出すから。
・マグロのヒレで肌を切られることもあれば、マグロの代わりにサメがかかって指や腕を持っていかれることもある。海の真ん中なので病院は当然ない。船内で応急処置は出来るけど大けがなら当然命に関わる。酒を麻酔代わりに掛けながら患部を縫合したこともあるとか。
・とまあ、最初はマグロ漁や治験などの違法性の無い職業から始まって、示談屋、運び屋と違法性が増していき、最後には身分証偽造、臓器ブローカーとなる。文中で「本書には違法性の無い職業も含まれる」とお断りはするものの、マグロ漁と臓器ブローカーを同じ「裏の仕事」として扱うのはどうなの? とは正直思う。
・新聞拡張員の回でインタビュー相手から聞いた「イケメンの同僚が新聞勧誘で行った家の女性とヤりまくってた」という、どう考えても盛ってる話を疑いなく掲載しているのも問題だと思う。事実「新聞拡張員からクレームが来ましたスミマセン(要約)」と、これも本文中で釈明されている。


『裏のハローワーク 交渉・実践編』草下 シンヤ


裏社会は生き馬の目を抜く戦場である。
一瞬の判断ミスや煮え切らない態度が命取りにつながる。そこで土壇場での機転、前もって危険を回避する知恵、交渉で相手を丸め込む技術などが必要不可欠になってくる。
本書では、そんなあまりに実用的な「裏」の交渉テクニックを紹介。
ヤクザや事件屋、詐欺師、ヤミ金業者といった人々がどうやって稼いでいるのか?
その強引にして華麗な手口を、ご堪能あれ。

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・せっかくなので続巻もつづけて読んでみた。
・裏社会の対人スキルを紹介する一冊。表社会で使うにあたってマイルドにした使い方も併せて載っているので、実用性はあるかもしれない。私は使おうとは思わないけれど。
・ヤクザはなぜ恫喝するのか。交渉の場において、手綱を握るにはまず頭を叩くのが手っ取り早いから。大声で怒鳴り散らして相手の頭がカラッポになった隙に主導権を握る、そうすればこっちのもの。リアルでこんな人と出会ったらさっさと縁を切りましょう。
・「安くて軽くて頑丈な鍋」を売る時は、相手に合わせてキャッチコピーを絞る。お金が無い人なら「安いよ!」、腕力が落ちてきたお年寄りなら「軽くて使いやすよ!」、アウトドアで使う人なら「多少落としてもびくともしないよ!」。数ある長所を同列に並べても響きにくい。相手が何を求めているのかを見抜き、必要なことだけを伝えよう。
・東南アジアで怪しい人たちに観光と言われて船に乗せられて、帰りに逃げ場のない川の真ん中で案内料として大金を要求されたエピソードがある。その時の対処法は「とりあえず船を岸につけろ、そうしなければ払わない」と言い張ること。自分が不利な状況に追い込まれたら、とりあえず少しでも良い状況に傾けるようにする。
・ヤクザに弱みを握られて恐喝に来られたので「すみませんでした!」と大声で連呼して追い返したツワモノのカタギがいたらしい。そっちがその気ならこっちもこの気で、連日訪れては相手に大声連呼を繰り返させ、疲弊させて遂には折れさせて金をむしり取ったらしい。
・ヤクザが「いざという時には力になるから」などと優しい言葉を掛けてきたら、それは善意ではなく営業です。
・インディアンポーカーを300万賭けてガチでやる人たちがいることにビックリした。あれって学生が暇つぶしにやるものだと思ってたから。




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