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【読書メモ】今週読んだ4冊



☆おすすめ!『レイアウトは期日までに』 碧野 圭


契約を切られた崖っぷちデザイナー × 毀誉褒貶激しい天才装丁家
同い年27歳、凸凹の二人が新大久保に事務所を設立
最強パートナー爆誕⁈
職を失った赤池めぐみが就職したのは、天才、気まぐれと噂話の絶えない業界の有名人・桐生青のところだった。
憧れていた同年代のスターと一緒に仕事ができると胸がはずんだめぐみが直面したのは、机なしパソコンなし、迫りくる納期と催促の電話、修正に次ぐ修正……。
そして、大きなプロジェクトの依頼が二人に届く。
果たして、二人の仕事は? デザイン事務所と未来は?
累計50万部超

『書店ガール』シリーズ著者が

明日への希望を込めて贈る

令和版お仕事バディ小説

Amazon商品ページより

・文芸書の装丁や雑誌のレイアウトなど、デザイナーの仕事を通じて女性ふたりが心を通わせてタッグを組む、大人バディ百合小説。GL(恋愛百合)ではないが、異性愛要素は無し。
・ヒロインのキャラが最高。不器用で素直になれないツンデレで、主人公にホットケーキを作ってもらうと全力で喜ぶ27歳児な可愛い一面を見せる。その一方で秀でたセンスを持つ天才デザイナーであり、主人公にとってはデザイナーとしての先輩にして十年来の憧れ。確実に結果を出して成果を積み上げる、そんな凄い人。だけど生活力がゼロで主人公に頼りきりになっちゃうところもある、いわゆるギャップ萌えが惜しげもなく散りばめられている。
・Audible版で聴いたけれど、青(ヒロイン)のサバサバハスキーボイスがめっちゃ良かったな~。ちょっと拗ねてるシーンは声もしっかりちょっと拗ねてて可愛かったし。朗読者さんグッジョブ。
・「天才デザイナーのセンスが炸裂するシーン」を書けるのはすごいな、と思う。作者もその天才の実力を描写できるだけのセンスを持っているってことなので。もちろん取材や下調べはしたと思うけれど、それを書き表せるかどうかは、やはり作者の腕次第だから。
・若い女性がデザイナーをやっていると、仕事上の付き合いがある男性たちから「どうですか、二人きりでお食事でも」と誘われることが多くある。それを断ると「あいつは融通が利かない」と仕事の関係者に陰口を叩かれる。やり手のデザイナーとして生きてきた青は、そういう経験を幾度となくしてきた。めぐみ(主人公)は同じデザイナーでも比較的良い環境で働けてきたが、職場を辞めたことでやがてそういう男と出くわすことに。この時にめぐみを守ってくれた青がめっちゃイカしてるのよ。不埒な男から女を守る女はやっぱりカッコいい。
・本の装丁のこだわりや、活版印刷が紙面に醸し出す風味、オフセット印刷の質感。そうした本のディープな作り方が物語に絡ませながら詳しく説明されるので、非常に読み応えがある。なのだけれど、電子書籍・オーディオブック派の私にはいまいちピンと来ないのがなんとも寂しいのであった。


『インドの食卓: そこに「カレー」はない』 笠井 亮平


インドの文化・歴史・宗教に精通する南アジア研究の第一人者が14億人を支えるインドの「食」を読み解く!
日本人にもおなじみの「カレー」は、イギリスが植民地時代のインドに押し付けた概念である。インド人は「ダール」「サンバル」「コルマ」と細分化して呼ぶのだ――南アジア研究者がインド料理のステレオタイプを解きほぐし、その豊穣な食文化世界を案内する。【カラー写真多数!】
★内容紹介
カレーを「スパイスを用いた煮込み料理」と定義すれば、そこには数えきれないほどたくさんのインド料理が含まれる。日本でイメージされる「カレー」とはかけ離れたものも少なくない──在インド日本大使館にも勤務した南アジア研究者がインド料理のステレオタイプを解き、その実像を描き出す。インド料理店の定番「バターチキン」の意外な発祥、独自進化したインド中華料理、北東部の納豆まで。人口世界一となった「第三の大国」のアイデンティティが、食を通じて見えてくる!

Amazon商品ページより

・「インドでは毎日カレーなんでしょ?」という人たちのインドの食文化への解像度が、ブラウン管テレビから4Kにまで上がる一冊。インドの”今”を知ることができるカジュアルなものから歴史的背景を探るディープな話まで、幅広いトピックを取り上げる。
・いまで言うような「カレー」という概念はインドにはもともとなく、複数の名称で細分化して呼ばれていた。それらをまとめて「カレー」と呼ぶのは、(これは私が考えたたとえ話だが)ニンテンドウ64もプレイステーションもセガサターンも「ファミコン」と呼ぶ90年代のお母さんのようなものだった。しかし「カレー粉」というイギリスが作り出した便利な即席スパイスが普及したことも手伝い、「カレー」という概念は国際的に定着することとなる。
・バターチキンカレーは今でこそ有名な人気メニューだが、その歴史は意外と浅く70年ほどしかない。インドの長い歴史の中ではホンの最近である。
・インド人はベジタリアンの割合が高い。それは近年必要性が高まっている気候変動対策というよりも、宗教的な理由が主となる。ジャイナ教では不殺生が定められているため肉食を避ける風潮があることと、ヒンドゥー教では牛を神聖な動物としているため牛肉を食べないことが挙げられる。
 なお、ベジタリアンにおいては動物由来食品を一切摂らない完全菜食主義者(ヴィーガン、またはピュア・ベジタリアン)の他に、「乳製品、卵、魚は食べるベジタリアン」という概念がある(乳製品と卵は食べる人はラクト・オボ・ベジタリアン、魚も食べる人はペスコ・ベジタリアンと呼ばれる)。このことは私も本書で初めて知った。暮らしている国や地域によっては、それらを摂れないとタンパク質の摂取が難しいという食料事情が理由の一つとして挙げられる。彼ら彼女らを「中途半端」とあざ笑うような資格は、特に何かやっているわけでもない私たちには無いだろう。
・インドの食料品では肉を使っていないものに「ベジ」、肉を使っているものには「ノンベジ」という表記が入る。肉を使わないほうを「ノンミート」と呼ぶのではなく、肉を使うほうに「ノン」と入ることから、むしろベジタリアン仕様がデフォルトとなっている。この点でもインドにベジタリアンの食文化が根付いていることが窺える。ベジ/ノンベジはアイコンでしっかり表記されており、視覚的に分かりやすくデザインされている。肉の使用の有無が、宗教的にとてもセンシティブな事項として扱われる国ならではの仕様である。
・人口が世界第一位に躍り出たインドを大手外食チェーンが放っておくはずがなく、マクドナルドやバーガーキング、日本企業もCoCo壱番屋やすき家が出店している。前述の通りインドでは牛肉を使えないため、マクドナルドは「マハラジャマック」というチキン/ベジバーガーが看板メニュー。すき家ももちろん看板メニューの牛丼を封印し、代わりに鶏丼を提供している。カレーの本場であるインドに乗り込んだCoCo壱番屋は最初こそ日本人の客が多かったが、今では現地のインド人にも受け入れられてきているようである。
・本書で紹介されるパーニープーリーというお菓子がめっちゃ美味しそうだったので、いつか食べてみたい。
・本書の後半では日本で食べられるインド料理店の情報がグルメガイドさながらに掲載されている。私たちが普段イメージする「本格インドカレー」はもっぱら北インド料理であるが、本書では南インド、西インド、東インド料理を味わえる店の情報を紹介する。「インド料理といえばカレーとナン」という認識をまるっと塗りかえるインド料理が味わえるはず。私も、とりあえず「バンゲラズキッチン」というところに行ってみたい。


『カササギ殺人事件』上・下 アンソニー・ホロヴィッツ (著) 山田 蘭 (翻訳)


アガサ・クリスティへの完璧なオマージュ×イギリスの出版業界ミステリ
ミステリ愛に満ちた瞠目の傑作
1955年7月、サマセット州にあるパイ屋敷の家政婦の葬儀が、しめやかに執りおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけて転落したのか、あるいは……。その死は、小さな村の人間関係に少しずつひびを入れていく。燃やされた肖像画、屋敷への空巣、謎の訪問者、そして第二の無惨な死。病を得て、余命幾許もない名探偵アティカス・ピュントの推理は――。現代ミステリのトップ・ランナーによる、巨匠クリスティへの愛に満ちた完璧なるオマージュ・ミステリ!

Amazon商品ページより

 事実は小説よりも奇なり。

・舞台は1955年、イギリス。とある村の有力者の屋敷にて、家政婦が死体となって発見される。最初は事故かと思われたが、関係者の話を探るうちに村人たちが抱える秘密が徐々に明かされていき、殺人事件の疑惑が浮上する。そんななか第二の殺人が発生し、探偵の推理が冴えわたる―——
・という、クラシックな探偵小説の作中作が上巻で繰り広げられる。この『カササギ殺人事件』というミステリ小説は、人気絶頂の作家の手によって華々しく出版されて大ヒットを遂げるはずだった。しかし、本作の結末は闇に葬られることになる。なぜか。それは、作者が謎の死を遂げたから。担当編集である主人公は作家の死の真相を探るべく聞き込みを始める。そして彼の周辺人物と『カササギ殺人事件』の登場人物の奇妙な一致に気付きはじめたことで、フィクションと現実が交差する事件に巻き込まれていくことになる。
・長大な上巻がすべて「前フリ」であり、現実世界に戻った下巻で物語が本格的に動き出すという大胆な構成となっている。すごいよ、これ。作中作と現実の二つの事件がリンクして読者を真実へと導く、今までにない読書体験を味わえた。作中作を物語の演出として挿入する作品は珍しくないけれど、分厚い上巻が丸ごと作中作というのはちょっと読んだことがない。上巻がちょうど盛り上がるところで終わって、いざ下巻! と思ったらいきなり「現実」が始まる、この衝撃よ。古典的ミステリな上巻と、メタ的要素を多く取り入れた革新的な下巻との対比も美しい。
・現実は小説のように理路整然とはいかない。そして主人公は探偵ではなく、優れた推理力があるわけではない。それでも、目の前の現実とミステリを重ねずにはいられない。ミステリ好きによるミステリ好きのための小説なんだな、と。私はミステリはまだ古典もロクに読めていないのだけれど、それでも胸にクるものがあった。ミステリが好きな人はもっと深くハマるんだろうな~。
・物語のトリックの一つとしてアナグラムが使われるんだけど、なんと日本語訳でもしっかりアナグラムになっている。翻訳者さん、すごい。


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