【読書メモ】今週読んだ3冊
『青の炎』貴志 祐介
・母親の元夫のクソ男の殺害を企てる少年のお話。このあらすじだけで分かる通り全体的に暗い話だけど、ときどき同級生と繰り広げる和やかなやり取りと、湘南という爽やかな舞台設定のおかげで中和できている。かも。ちなみに男女物。
・化学の授業で習ったことが犯行計画に影響したり、国語の授業で習う『山月記』や『こころ』の内容が主人公の心情とクロスオーバーしたりと、高校生主人公ならではの展開がある。主人公の属性を思う存分活かしているなーと。
・犯人を応援したくなるミステリ。なぜなら犯人が主人公だから。犯人視点で事件が進むので、探偵視点とは違って絶対にバレてはいけない緊張感があるのでスリルが段違いに感じる。けれど物語が進むにつれて主人公の身勝手さが際立つので、感情移入から脱落する人も多そう。
・いまこの瞬間にも刑事たちが家に押し入ってくるんじゃないか、家族の目の前で手錠を掛けるんじゃないか、という殺人犯の心理描写が細やかで、余計に手に汗握る。
・(異性愛)セックスシーンがあるので苦手な人は注意。
・「ハートトゥハート」という看板にハートマークをあしらったコンビニが登場するんだけど、もしかしてスリーエフがモデルなのかしら。あれもコンビニにハートマークあったし。
・女に甘いだけの男を「フェミニスト」と呼ぶ懐かしの表現に遭遇。貴志祐介作品ではこれで『ダークゾーン』に続いて2回目。編集さんでも誰でもいいので、その「フェミニスト」の使い方は間違ってるって先生に教えてあげて。
『虚構推理』城平 京
・ノックスの十戒のなにがしかに抵触しそうなミステリ。男女物。
・鉄骨を担いで夜の街に現れるアイドル、という脳裏に強烈なイメージが湧く怪異の設定が上手いな~と。こういう、読者のイメージをかき立てる設定を作れるようになりたい。
・このミステリにはバトルシーンがある!
・まとめサイトが話のキーになっていることに時代を感じる。今ではまとめサイトもオワコンになってると思うんだけど、実際どうなんだろ。
・かまいたちについての話が興味深かった。かまいたちは現在では元の妖怪よりも真空によって肌が切り裂かれる「真空説」のほうが有名になっている。実際は地球上でそうそう真空が発生するわけがなく、よしんば発生したとしても皮膚を切り裂くほどの威力は無いので真空説も実は否定されている。現在では寒冷地でのあかぎれが正体という説が有力だが(証明はされていない)、「かまいたちの正体はあかぎれ」ではなんともインパクトが無い。なので真空説が今でも浸透している。人はより面白いと思ったものを信じる、という話。妖怪説よりも真空説の方が知られているのは、そっちのほうがより面白いから。
・良くも悪くもB級なミステリ。怪異がトリックとかではなく実際に発生していて、ネット上で「そんな怪異いないよ」という風説を流布することでそいつを弱体化する、というトンデモ展開がある。・『虚構推理』というタイトルの通り、推理パートはあろうことか嘘八百。虚構が人々のあいだで増幅して都市伝説として力を付けた怪異に対して、主人公はあの手この手で仮説を立てて怪異の存在を否定する。こじつけや詭弁を交えながらも筋は通った推理は、他のミステリでは色んな意味で見られない名シーンだと思う。人間の犯行説、アイドルの自作自演説などの仮説を立てて怪異を追い詰める。仮説ひとつ取っても作品が一つ作れそうな贅沢な作り。
・胸のサイズいじりがあるのが気になった。しかもしつこい。巨乳キャラの胸が大きいことがあまりにも幾度となく描写される。ミステリでは設定や描写に必然性がなければならないと聞くけど、この女性キャラの胸が大きくて何回も描写されることにもちゃんと必然性があるんだよね? と思いながら読んだ。結果、胸が大きいことに大した必然性はありませんでした。まる。
☆おすすめ!『オーブランの少女』深緑 野分
・ほどよい謎解きがあるミステリ短編集。
・表題作と『片想い』という作品が百合。不思議なサナトリウムでの奇妙な日常の中で、ツンツンした感じの少女との関係を築いていく親友以上百合の表題作。昭和初期の女学校を舞台に、寮の同室の美しい少女の秘密を紐解くエス百合の『片想い』。どちらも主人公たちに異性愛要素は無し。百合ミステリやっぱいいわあ。
・少女の感情の機微が余すことなく描かれていて、すごく読み応えがある。少女が心に秘めている毒も絶妙なスパイスとなっていて、物語を一層盛り上げる。毒のある女の子、いいよね。
・昭和初期の日本、ヴィクトリア朝のイギリス、戦中のヨーロッパ。レトロな雰囲気とミステリが相乗効果を生んで、すごくイイ感じ。(語彙力)
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