【読書メモ】今週読んだ6冊【発達障害関連】
今週は発達障害関連の本を読みました。当事者として学びになるところがあったり、逆に「なんじゃそりゃ」と思うような本があったり。
発達障害者の生活・仕事において役立つ実用的な本、「当事者向け・ライフハック系」
周りに発達障害者、もしくはそうかもしれない人がいるひとに読んでほしい、「定型発達者、またはグレーゾーンの人向け」
発達障害を社会課題として論じる、「その他 新書」(生活面での実用性は低い)
の、三本立てでお送りします。
当事者向け・ライフハック系
『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本』安田 祐輔
・小説の勉強を始めた発達障害者として、「発達障害」「勉強」の二つがフックになって読んでみた。
・載っているのは基本的に資格試験を想定した勉強法。そのため、私みたいに資格試験・受験以外の形で勉強をしたい人にはあんまり当てはまらない章もある。試験までのスケジュールの立て方や、模擬試験のやり方。試験当日に遅刻しないための対処法など。試験のたぐいを受ける予定のない人は読み飛ばしてもOK。もちろん、試験をする人以外にも役に立つスキルがいっぱい載ってるので読んで損はなし。
・本書を読んだ私は、とりあえずスマホのTwitterアプリを「抑制力」と名付けたフォルダに入れた。発達障害特有の衝動性に負けてTwitterを開きそうになった時、フォルダ名が目に入ることで抑制力が働いてグッとこらえられるように。そういう感じのちょっとしたテクが詰まっている。
私は衝動性が強いからこういう対処法を取ったけど、人によって注意欠陥や多動性など困りごとは異なってくる。それぞれの特性に合わせたシチュエーションごとの具体的な対処法が載っている、実用性が高い一冊。資格取得や受験合格を目指している発達障害の人にオススメしたい。
・発達障害を理由とした悩みについて「変えられるものは変えられる、変えられないものは諦める」というスタンスなのが気に入った。どんなに努力しても無理なものはムリ。なんとかできるところだけなんとかすればいい。
『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』太田 晴久
・発達障害ライフハック本、こんどは仕事との付き合い方。
・オフィスでのデスクワークを想定したシチュエーションが主なので、肉体労働など他の業種に就いている人には当てはまらないページが多い。けれども「相手との距離感の測り方」「雑談のやり方」「感情のコントロール方法」など役に立つノウハウもけっこうあるので、参考にどうぞ。
・外出の予定を立てる時は、トラブルが起きる前提で余裕をもってスケジュールを組むこと。仕事は100%の完璧な出来を目指そうとせず、70%くらいで肩の力を抜いてやること。などなど、こちらも色んなテクが載っています。
・毎章で「発達障害あるある」という当事者の困りごとの具体的なエピソードを挙げて、それに対するこれまた具体的な対策を示してくれる実用的な一冊。
『発達障害かも? という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』姫野 桂
・発達障害者の仕事や生活で役立つノウハウが詰め込まれたライフハック本。本書では「発達ハック」と呼ばれる。韻を踏んでいて響きがよい。
・まずは自分の苦手分野を見つける。それを踏まえて仕事をやりやすくするハックを紹介。日常生活や人間関係の困ったことを減らす取り組みも掲載。
・この記事で紹介している他の本と比べてページ数が半分以下で短くて読みやすいので、一冊持っておけばいざという時に使いやすい。
・「苦手なことは可視化せよ」「やることには優先順位をつけろ」。これらは本書に限らず色んな発達障害関連の本で言われているので、やっぱりそこ大事なんですね。
定型発達者、またはグレーゾーンの人向け
『発達障害の人が見ている世界』岩瀬 利郎
・「あなたの周りに空気の読めない人や、何を考えているのか分からない人はいませんか? その人は実は発達障害者かもしれません、本書を読んで理解を深めましょう」といったコンセプトの本。発達障害当事者としては「理解してもらう」というアレにはこそばゆいものを感じます。
・自分に発達障害の特性があるかどうかを知ることができる簡易的なチャート付き。もちろん医学的な診断にはならないので、そうしたことで悩み事がある人はお医者さんを受診しましょう。ちなみに私はだいたい当てはまりました。
・周りに発達障害者がいる人には、本書を読んで付き合い方のヒントを得てほしい。
その他 新書
『発達「障害」でなくなる日』朝日新聞取材班
・DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)が定める基準によると、発達障害的な特性が見られるだけでは発達障害とは認定されないらしい。その特性によって何らかの困難が生じている場合に発達障害と認定されるのだという。つまり、発達障害による困難が消えれば発達障害は障害ではなくなるだろう、というロジックを本書は唱える。もちろん今すぐ「発達障害は障害ではありません!」と宣言するわけではなく、いずれそういう日が来てもおかしくはないだろう、というニュアンスである。
・「発達障害も個性!」と言われると「なに甘っちょろいこと言ってんだこっちは本気で苦しんできたんだよ」と臨戦体制になるけれど、「発達障害も個性! ・・・と言えるような社会にしていきましょうね!」だと「そうだよね!」と握手を求めたくなる、ちょろい私。
・発達障害による困難は男性よりも女性の方が多い。めっちゃ分かる・・・。「家事育児は女性がやるもの」という風潮は未だに強いし、「女性は気配りができて優しいもの」という謎のイメージも根強い。ADHD女性を追いつめるモノは何か、という出発点から本書は生まれたという。
・発達障害の女性は同じく発達障害の男性と比べても、うつ病罹患率、離婚率、非正規雇用の割合が高いとの研究データを示す論文がある。日本人女性は「おしとやか」「一歩引いて男を立てる」ことが求められるので、その対極に位置すると言える発達障害の女性に対する世間や家族の風当たりは強くなる。本来、そういうことはあってはならないけれど。
・発達障害者当事者の具体的なエピソードはもちろん、発達障害者の家族を持つ定型発達者が障害と向き合う話や、学校や会社に合理的配慮を求める話など、当事者が社会を生き抜くことがいかに波乱万丈かをヒシヒシと感じられる一冊。
・発達障害者が発達障害関連の本を読むと、当事者の具体的なエピソードが出てきた時に自分の古傷をほじくり返されて「ウッ」となることがあるので注意。いまの私みたいに。
・「障害者への合理的配慮により組織や社会の仕組みが変わると、これまで見直されてこなかった無駄なルールが是正されて障害者以外の人にとっても生きやすい社会になる。合理的配慮を突破口に無駄なルールや慣習を見直す、という発想が必要」と、放送大学の川島聡氏は語る。
私はそれも一つの戦略だとは思う。だけど、よく言われる「障害者に優しい社会は健常者にとっても生きやすい社会である」という考え方にはなかなか賛同できない。それは「健常者のご機嫌を伺わなければ障害者の困難は解消されない」の裏返しだと思うから。
・巻末に、最近になって発達障害と診断されたニトリ会長のインタビューを収録。妻に言われたという「あなたは誰でもやれるようなことがやれないで、誰もやらないことがやれる」という言葉がなんかめちゃくちゃ好き。
・ここからは本の感想からは外れて、私の余談を書くね。
余談その1。「ニューロダイバーシティ」という概念がある。ASDやADHDを障害というよりも、脳の仕組みや働きが異なるだけの多様性の一種と捉える考え方。それもポジティブな捉え方の一つだし、そういう考え方をすることでエンパワーメントされる当事者もいるでしょう。
その一方で、シリコンバレーあたりのテック系では発達障害者を「個性的で才能あふれる人材」として捉える動きがあると、今週ちょうどラジオで聞いた。発達障害者を生産性という資本主義的な価値観で「寛容」に迎え入れる。それは障害者の権利運動からは切り離された、なにか別のモノ。
発達障害者が「障害」でなくなる日が来るのなら、それはとっても理想的。だけど、障害から切り離された先に待っているのが資本主義的な価値観で値札を付けられる未来なら、なんかとってもイヤだなあと思った。(参考:『荻上チキ・Session』2024年6月3日放送回)
・余談その2。「合理的配慮」は広く使われている言葉であり、本書でもその呼称が用いられている。しかし最近では「合理的調整」のほうが現実に即した表記であるという指摘がされており、私もそれに同意する。「配慮」と言うと定型発達者側からの上からで一方的な「してあげてる」感があるけれど、実際に現場で行なわれていることの多くは職場内での相互コミュニケーションによる「調整」だと思うから。
『普通という異常 健常発達という病』兼本 浩祐
・こちらは、これまで紹介してきたものとは毛色の違う本。
・「健常発達(本書ではある理由から定型発達をこう表記する)」も生きづらさを抱えてるんじゃないの? という問いから始まる一冊。他人からの「いいね」を求める承認欲求、「いじわる」を含んだ独特のコミュニケーション作法、などなど。
・確かに「普通」も生きづらいところがある。しかし「定型発達も生きづらいんだよ」という主張には、発達障害の生きづらさを相対化して矮小化してしまう危険性もあると考えた。「普通」が生きづらいと思うなら発達障害を引き合いに持ち出さないで、「普通」のほうのフィールドだけで論じてほしい。
・あと、帯に「ADHDやASDを病と呼ぶのなら」とあるけれど、発達障害は病(病気)じゃなくて障害だよ。病気と障害は別のもの。医学的な誤解を広めるような帯はやめてね。
・Audibleで聞いたけど「対人希求性」「宿痾」などの耳で聞いても分かりづらい難しめなワードが多くて、実のところ内容は一度聞いただけでは半分くらいしか理解できなかった。しっかり読みたいなら文字の本のほうがいいかも。Kindle Unlimited対応だし(2024/6/7現在)。ただ、あんまり読み返す気にはならない本だったかな・・・
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