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【百合掌編】お台場の夜

 お台場でデートした帰りに。


「どのへんが多様性(ダイバーシティ)なんだろう。資本主義で一色じゃんか」
「店員さんは外国ルーツの人も多かったから、人種的多様性はあったと思うぞ」
「そんなの今どき珍しくもないでしょ。東京ならなおさら」
「あー、確かにな」
「それとあの看板。Diversityで一つの語なのにダイバーとシティで分かれてるのはヘンだって」
「そもそも綴りが違うだろ。こっちは直訳で『ダイバー都市』ってとこか」
「このへんダイビングスポットなの?」
「やめた方がいい。トイレの味がするとのウワサだ」
「多様性を名乗りながら、レインボーフラッグの一つも無いとは思わなかったよ」
「店に入るたびに中をキョロキョロしてたのはそれか」
「外国のお店もいっぱい入ってるからワンチャン期待してたんだけどね。ダイバーシティならレジ横にレインボーフラッグのちっちゃいのをさりげなく立てとくぐらい、いいじゃん。見た範囲では一つも無かった」
「レインボーブリッジなら近くにあるが」





「どのへんがレインボーなんだろう」
「レインボーになった時もあるらしい」
「6色?」
「そ、ちゃんと6色」
「それ見て意味わかった人、どれくらいいるんだろ」
「結構いたんじゃないか。・・・お、パートナーシップ制度開始に合わせて、だとさ」
「無いよりはマシだけど、必要なのは法的な庇護なんだよね」
「ここでこんな話してるの、アタシらだけじゃないか」
「いいじゃん、場違い上等」
「まあ、みんな景色に夢中で他人を気にしてる様子もないか・・・」
「でも、人が増えてきたね」
「ああ、人間ってのは日が落ちると灯りに群がるらしい。蛾と同じだな」
「口が悪くなってきた。人酔いしてる証拠。・・・場所変える?」
「助かる」


「みんな、薄情だよね」
「なにが」
「モールにはあんなに人がいたのに、外に出て少し歩けば人っこ一人いない」
「なんにもないからな」
「海があるよ」
「トイレ味の海が、な」
「買い物する場所なんて東京ならいくらでもある。海はこの辺りにしか無いのに」
「大衆の消費行動は幼稚園児のサッカーだから」
「そのココロは?」
「みんなそろって一ヵ所に集まる。バラけるということをしない」
「でも。・・・そのおかげで、二人きりになれたよ。・・・君と。」
「急にムード出してきた」
「・・・いや?」
「いやなわけ、あるか」
「嬉しい。」



 ぷは。
「・・・目、閉じるんだよ」
「やだ、もったいない。君の顔が見れないのは。」
「至近距離でガン見されたらムードもへったくれもないだろ」
「ラーメン味のキスしておいてよく言うよ」
「あんたが連れていったんだろうが」
「君が私の選んだ味に染まるの、なんかクる」
「ああ。彼女色に染まるのも悪くない。こんなアタシになるなんて思わなかった」
「・・・もっと、染まってみる? 今度は目とじるから」


「・・・ラーメンの味、まだするか?」
「いや。なんか、多様性なキス。今日食べたり飲んだものの総集編というか」
「キスの味を分析するな。なんだ多様性なキスって」
「多様性ってあくまで権利が保証された結果であって、目的とは違うよね」
「話を戻すな」


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