サカナ・トラジディ
何か大事な物事を控えている時、3日ほどまえから私は魚を食べないようにしている。これは家に伝わる風習というわけでもなく、私個人の話なのですが、実家暮らしの時は否応なしに家族も巻き込まれます。別に家族は嫌な顔をすることはない代わりに、にやにやしながらチクチクと思い出の古傷を刺激してはくるのですがね…
ありふれているようで滅多にない話ではあると思う。確か高校2年生の春だったか、ある日の夕食に焼いたホッケの開きが出ました。脂の乗った分厚い身が美味しく、我が家では人気の焼き魚であるホッケ。しかしそのホッケがこの時に限って災いをもたらす。
「なんか喉にホッケの骨刺さった気がする」
喉に魚の骨が刺さるという経験はこれが初めてでした。魚の骨を取ることに関しては割と神経質な私ですが、どこに紛れ込んでいたのか。
「とりあえず水飲んでみたら?あとはご飯飲み込んでみるとか」
母の助言に従ってみるものの、なかなか取れないし結構痛い。もしかしてちょっと太いかも?とりあえず次の日に町の耳鼻咽喉科へ行ってみることにしました。
1日中痛みと違和感を抱えながら過ごしたのち、病院で診てもらいました。まあ魚の骨が刺さるなんてよく聞く話ですし、そんな大ごとにはならないだろうと思っていましたが…
「うーん…これはうちでは取れないところに刺さってますね。喉の奥、舌の付け根の舌根というところに刺さってて、これを取れる設備がうちにはないんですよ」
…そんなことあるのか?たかが魚の骨ではないか。
「明日、日赤で取ってもらってください。紹介状書きますから」
明日、というタイミングが当時の私にとっては絶望的でした。次の日は春の遠足が待っていたからです。明日じゃないと駄目なのかと聞くと、明日を逃すとゴールデンウイークに入ってしまい、病院が休みになってしまうとのことでした。泣く泣く学校に連絡を入れ、母と日赤に向かいました。
皆が香川の金刀比羅宮でうどん作り体験や散策をしている間、私は日赤の待合で3時間待ち、処置室で鼻からアーム付きカメラを通されてやっと骨を抜いてもらえました。まさか、これが手術扱いで、保険金が下りるとは私も母も思ってもみませんでしたが。
次の日の学校に行きたくなかった。行きましたけど。
「休むなんて珍しいやん。なんかあったん?」
「あー…日赤で魚の骨抜いてもらってた…」
昨晩、新しい歯ブラシで歯を磨いていました。新しい歯ブラシで歯を磨くのは心地よいので嬉しく思っていた矢先、口の中に違和感が。なぜか新しい歯ブラシなのにブラシの繊維が1本抜けてしまっていました。魚の骨のようにそれを取り出してみると、すっかり最近焼き魚を食べないせいで忘れていたあの記憶を思い出してしまって何とも言えない居心地の悪さを味わった。あなた様もぜひ、魚の骨にはご用心を。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?