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音楽と一体化する記憶

ふと、どこからか懐かしいThe Doobie Brothersの「What a fool believes」が聴こえてくるなと思ったら、TVコマーシャルだった。サントリー「クラフトBOSS」の新CMである。

この曲は私にとって思い出の曲の一つで、耳にするたび懐かしい気分になる。


ワーホリでNZのオークランドに滞在していた20代のある日、語学学校の授業中にこの曲がラジオから流れてきた。

南半球の5月といえば、徐々に秋が深まってくる頃。この日は朝から天気が良く、教室の窓越しに眩しい日差しが降り注いでいたのを覚えている。そんな清々しい天気にぴったりな軽やかなメロディーだった。日本でも何度も聴いたことがある曲に、自分でも少し気分が高揚するのを感じた。

当時の担任は南アフリカ出身の女性の先生で、名前は「クマリ」といった。明るくてユーモアがあり最高にノリが良くて、国籍や性別を問わずクラスの生徒全員からとても慕われていた。

この時、テキストにある問題を解いている最中だったのだが、どうしても気になった私は見回りに近寄ってきたクマリに、

「ねぇ、クマリ。これは誰のなんていう曲なの?」

と小声で尋ねた。するとクマリが「これはThe Doobie Brothersよ!」と小声で教えてくれた。音楽に合わせて身体を揺すりご機嫌な様子に、あぁ彼女もこの曲がお気に入りなんだなと私も笑顔になった。

クマリとは年齢が1、2歳しか違わなかった為、普段から親近感をもって接していたのだが、好きな音楽が同じと知ってなんだか嬉しかった。


こんな風に、音楽はその当時の記憶を蘇らせる。

これ以外にも記憶と紐づいた曲はいくつもあるのだが、この「What a fool believes」は特に強烈に印象に残っている。あの時の感覚が、今でもリアルに蘇ってくる。少しこそばゆいような、不思議な感覚。外国での生活がやっと一か月過ぎた頃の自分を思い出し、甘酸っぱいような気持ちになる。


人間とは、過去の記憶を思い返すたびに美化して、都合良く書き換えてしまうのだそうだ。

そうだとわかっていても、この曲がトリガーとなってあの頃の自分にタイムトリップするのを止められない。

クマリやクラスメイトのみんなは、今頃どうしているのだろう。




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