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まつ毛シリーズ

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脱線小説「まつ毛」
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【短編小説】まつ毛 〜第6話〜 [隆男とGOLF]

【短編小説】まつ毛 〜第6話〜 [隆男とGOLF]

「悪いなぁ・・・どうしても足が動かなくてなぁ・・・すぐ良くなると思ってたんだけど、もうお前には乗れなくなっちまったなぁ・・・」
山本は夜のガレージでそう独りごちた。


いいんですよ。ここに来て30年近く、あなたにはとてもよく可愛がってもらいました。日本人は一台の車にあまり長く乗らないから、私もすぐに買い替えられるんだと思ってました。・・・私が杖がわりになれたら良かったんですけど、こちらもドイ

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【短編小説】まつ毛 〜第5話〜 [海辺のプロポーズ]

【短編小説】まつ毛 〜第5話〜 [海辺のプロポーズ]

・・・そんなことがあったんだね。

隆男は、長い長いまつげの奥にある、ほんの小さな目に涙を浮かべながらそういった。




今日は2人の3回目のデートになる。

ここは海の見える広い公園の、その中にポツンとある素敵なレストランだ。

少し小高い場所にある板貼りの建物は、海側に大きな木枠の窓とパーゴラのついた小さなテラスがあり、その周りを何本ものユーカリとオリーブの木が覆うように配植され、周囲

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【短編小説】まつ毛 〜第4話〜[ブラッシー]

【短編小説】まつ毛 〜第4話〜[ブラッシー]

あーこの家か、まあ世話になるぜ

・・・ん?何を食べさせようかって?

俺は生まれてこのかた、食いもんを選んだことはねーよ
出てきたものは何でも食うから、そんな余計な心配するこたーねーぜ
うんうん、残り物でもうめーや

お、水浴びか
体がかゆいからありがてーな
なんだその泡が出るやつは
あー、悪くねーな、ついでに首の周りも頼むぜ
スッキリしたぜ、ありがとよ

寝る場所?そんなのどこでもいいさ
でも

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【短編小説】まつ毛 〜第3話〜[隆男]

【短編小説】まつ毛 〜第3話〜[隆男]

「工事の人ですか?」
と聞かれた。

「あ、いや、違いますけど、車ならすぐ退けます。」

すると「え?じゃあ隆男さんですか?」とその女性は言った。

お節介な後輩が、一度会ってみてくれという優香さんだ、きっと。

そろそろ初雪が降る頃
初めての顔合わせは、何故かサファリパークに行くことになった。





「・・・その辺でお茶すればいいんじゃないかなぁ」

「それじゃあ楽しめないでしょう?た

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【短編小説】まつ毛 〜第2話〜[優香]

【短編小説】まつ毛 〜第2話〜[優香]

「えーそうかなぁ」
「ぜったいこっちだよぉ」
「なになに、私もまぜてよー」
「あのね、ふふふ」
「なんなのよー、ちゃんと教えてー」
「あのね、この人たち彼女募集中なんだってー、きゃー!」
そこの写真には、スーツを着た3人の男性が肩を組んで写っている。

私たち3人は高校の同級生。
24歳になった今もこうして集まって、お菓子を食べたり、一緒にビデオを観たり、たまにはお酒を飲んだり。

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【短編小説】まつ毛 〜第1話〜

【短編小説】まつ毛 〜第1話〜

「隆男ちゃん、まつ毛だけは立派な良いまつ毛してるよねぇー」
子どもの頃、周りの大人たちに「まつ毛だけ」は褒められていたような気がする。小学校ではまつ毛にマッチ棒を乗せて戯けた。

55になった今、鏡に映った顔を確かめてみる。
幸いにして髪は十分あるけれど、日焼けした肌に厚いクマ、ほうれい線はどこまでも深く、長い。まるで腹話術のふくちゃんのようでもある。
まぁ加齢には逆らえないよな、と自分に言い聞か

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