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第五章:パパのお嫁さん

2022年3月3日。小竹楓5歳。


「カエねぇ!大きくなったらパパのお嫁さんになるっ!」

幼い身体が湯につかりながら、その遺伝子の半分を持つ父親にそう言った。




「あ、やっと上がったの。早くおひな様を片づけなさい。」
桃色のパジャマ姿ではしゃぎながらリビングに来た愛娘、小竹楓[かえで]に母は言った。
「え~嫌っ!かわいいからもっと飾っとくのぉ~!」
ぷっくりとした頬を、さらにぷくーっと膨らませ、駄々をこねる。
「カエちゃん。おひな様を早くしまわないと、その日にち分だけ結婚できる年が伸びていくのよ?3月3日を過ぎて1日しまわなかったら1年、2日しまわなかったら2年、3日しまわなかったら3年って。」
「えっ!?そうなの!?」
楓は、父、小竹正宣[まさのぶ]の方を涙目で見つめて言った。
「そうだぞ、楓。パパとも結婚できなくなっちゃうぞー」
「そんなの嫌っ!」
その声とともに、楓ひな人形をテキパキとしまい始めた。
先ほどまでの態度が嘘のようだ。



「楓~。今日遊べる??」
「あ、ごめん。今日バイトが…」
「そっか。じゃあまた今度っ。またね~」
「うん。またね」


2034年3月3日。小竹楓17歳、高校2年生。

いつもどおりの日常。
学校が終わり、まだまだ寒い通学路を歩いて、駅に向かう。
電車来て、人が降りるのを待ってから乗り込む。窓から見えるいつもと変わらない都会の住宅街。この窓からは死角になる家の向こう側、そこには何があるのだろう。そんなことすら、もう考えなくなった。子供じゃあるまいし。

電車に乗って一時間経つ頃。やがて家よりもビルが多くなってくる。そして下りるのはJR新宿駅。
駅ナカの適当なトイレに入り。制服を脱ぐ。
紺色のジャケットを脱ぎ、後ろで高めに結んだポニーテールに少し触れながら、少し長めに細工した暗めの赤いチェックのリボンを外す。
そして一つ一つ、丁寧にシャツのボタンを外していく。
窮屈そうに身を隠していた二つの乳房がブラジャー越しに顔をだす。
右にスカートを回し、チャックを下ろして脱いでゆく。ショーツがうすっらとパンスト越しに見える。
さて、制服を脱ぎきったところで、丁寧に結んだポニーテールを崩さないよう、白のケーブル編みニットを着てく。肩の部分は大胆に開いたデザイン。それによく似合う色のタイトスカートを履いて、ローファーから高めの黒のヒールに靴を変える。そして個室トイレから出ると、化粧台で濃いめの化粧をすればバイトの準備完了。

教科書と制服やローファーの入った重っ苦しい学生かばんを、駅のコインロッカーに放り込み、貴重品を移し替えた小さなカバンだけ持って、指定の場所に行く。


「お待たせ。パパ」
「遅かったじゃないか楓」
「ごめん」

平日の午後6時。夜のパパ活のスタート。

パパ活とは言え、相手は実の父親なのだが。

楓の両親は、楓が小学校4年生のころ離婚をした。きっかけは父親の不倫だった。父、正宣は大手企業の営業マンだった。そのため出張が多く、家にもほとんど帰ってこなかった。月に2~3度帰ってくる程度。母親もそれを承知で結婚し、子供を作った。正宣は母のその優しさに応えるように、帰ってきたときは、必ず子供と風呂に入るなどそれなりにいい父親をしてきた。だが、野に自由に駆け回ることを許されたオスの行動をきちんと予測できなかったようだ。

正宣は出張に行く先々で関係を持ち始めた。しかし関係がデキても、距離が遠く、なかなか会えない。そのため、気に入った女とは頻繁に連絡を取り合っていた。朝の「おはよう」から夜の「おやすみ」まで。それがあだとなったのであろう。家に帰ってきたときに、母はたまたま正宣のスマホの通知を目にしてしまった。母親は夫の正宣とは正反対で、浮気の一つもしていなかった。母親のあの時のキレ方は、まだ幼かった楓の心に衝撃を与えた。
話合いは一進一退だったが、最後は母親が勝ち二人は離婚した。


時は流れ、娘、楓はある夢をもった。パリへ留学することだった。もともとパティシエを目指しており、進学先は近場の専門学校と母親には伝えてあるが、どうしても、海の向こうへ一度行ってみたかった。母親に嘘をついているのは、留学できるまでの資金はシングルマザーの家には無いと、高校生ながらわかっていたからだ。
「無理なお願いを言って、母親を困らせたくない。しかも、父親がいれば叶ったかもしれないお願いを言うなんて。ん…父親…」
そう考えた楓は、数年ぶりに父会い、パパ活を提案した。会うまではとても緊張していたが、いざ再会し、ことを伝えるのはそこまで勇気は必要なかった。なんとなく父親から「これはイケる」というオーラを感じた。簡単に言うと、

「こいつは何でもいいからチンコを穴にぶち込みたくて仕方がないオスサルだ」

そう感じたのだ。


その日から、普段は家の近くの飲食店でバイトをして生活費と遊ぶためのお金を稼ぐ。そして月に2~3度、パパ活で留学資金を稼ぐ。そんな生活が始まった。不思議と、今までやる気の出なかったフランス語の授業も真面目に取り組むようになった。
パリへの留学資金は約110万。パパ活は一回5~10万程度。まあまあの額だった。それに、大手企業の営業マン。この年になるとさすがに女っ気もなくなってくる。わりと快く出してくれた。
ちなみに、母親には資金がたまってから適当な嘘を用意して説明しようと思っていた。


最初はさすがにかなり抵抗があった。実の父親の厚ぼったい唇。軽く加齢臭する、だらけた肉体。自分を生んだ使用済みの生殖器。ひと通り行為が終わったあと、タイミングを見てトイレに駆け込んだ。こんかぎり吐いた。リアルに吐いた。


しかし、だんだんと慣れていった。完全に仕事になった。彼もはや父親と言うよりもお客様だった。
だからと言って、他の男にまで話を持ち掛けるようなことはしなかった。単純に怖かった。ネット社会化がかなり進んだ2034年現在でも、やはり初対面の人と密室に行き、性行為を行い、金をもらう行為は楓には怖かった。
そのようなことをするならば逆に、近い存在の身内で、しかも自分の肉親である男性。つまり父親が一番信頼できる相手だった。


そして今日もお客様にご奉仕のお時間が始まる。
歓楽街の適当な店で、早めの夕食を食べた後、父と娘はホテルに向かう。

父であるお客様に導かれ、純白のベッドに寝転ぶ。お客様に優しくキスを許す。正直好みではないが、あいてはお客様だ。お客様は神様だ。
気が済むまでオッパイで遊ばせた後、その手が下の方に這っていく。
(大丈夫。準備は整っておりますよ)
割れ目の部分は充分に潤いを帯びてその手を待っていた。女のニオイをぷんぷんと漂わせながら。
外側のクリトリスから、徐々に中に愛撫の場所が移ろっていく。きちんとお客様のアレを入れられるように。
受け入れ態勢になった秘部に、屹立した男根が挿いってゆく。
「あぁっ…///♡」
さぁ、ここからが本番。遅漏気味のオトコに、いかに飽きることなく挿入を楽しんでもらうか。
女性側にもできることはある。膣の締め付けぐわいの調整、隙があるときに男性の乳首への愛撫。そして喘ぎ声とともにエッチなセリフをかけてあげる。一番人気は楓と正宣だからこそ響くこのセリフ。
「カエちゃん…大きくなったら…あぁっ…パパの…お嫁さんになる…っ///♡」
そして、ここまで言えたら合格。
「娘と…赤ちゃんつくろ?…♡」



お代を受け取り、終電に乗って家に帰る。
私服に学生かばんは違和感があるが、網棚の上に置いたりしていれば、電車の中はセーフ。電車を降りた後も、駅から自宅まで徒歩5分程度なので大丈夫であろうと楓は思っていた。

「あっ…」

学生かばんにつけていた、ディズニーのシンデレラのキーホルダーが、道にそって流れている水路に落ちてしまった。
「あー…「あ。落ちてしまったわね」
いきなり横から、女性の声が聞こえた。大人の声だ。少し低めで色気と品のある、いかにもイイ女の声だった。
「えっと…どちら様で…」
「でもいいんじゃない?今日はひなまつりよ。あなた知ってる?人形を流して邪気をはらう『流し雛』って。ひなまつりの本来のメインイベントだったらしいわよ」
楓の質問に答える気もなく、女性は一人で自由に話し始めた。
「きっと、あなたの邪気も払われるわ。そうそう、あなたが持っているのって、学生かばんよね?」
「えっと…とっ…友達と遊んでて…それで…」
楓は必死に嘘をついた。
「ふ~ん。そのわりにはメスのニオイが強いけど?」
「!/////」
楓は言葉を失ってしまった。
「うふふ。困ってる困ってるっ。かわいいわね。でも、安心して。おねェさんは警察でもなんでもないの。でもその代わり…イイトコロを紹介することはできるわよ?」

「そ、そんな話、乗りませんよ!?失礼しますっ!」
しかし女性は、帰ろうとした楓の手を一瞬で掴んだ。
その速さは、同時に鳴った女性のヒール音が耳に届くよりも早かった。
「まぁまぁ、とりあえず名刺渡すから、後で連絡頂戴♡待ってるわ」
そう言って名刺を渡すと、彼女は夜の闇に消えていった。
「電話なんてするわけ…」
しかし、名刺に記載してあった会社名を見て、彼女の口が止まった。

(ルナって…あのルナ…?)


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