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パパ、娘と美術教室に行く。

はじめての習い事

長女が5歳になり、そろそろ習い事にでも通わせてみてはどうだろうか、そんな話を妻としていた。
親の勝手な考えでは、泳げる方が何かあった時の為になるということでスイミング、将来の役に立つし早い時期に始めた方がいいということで英会話、これらが最有力候補として挙げられていた。
もちろん決めるのは娘なので何となく尋ねてみると、まずスイミングは即座に拒否、英会話は少し迷いを見せていたので、両親が徐々に誘導するも、一旦保留の体となった。
スイミングは保育園の他の子も結構通っている子が多く、時たま帰ってくるとそんな話をしてくるので、てっきり興味があるのかと期待したのだが、プールに両親がいないのは嫌だというのと、自分で好きに泳ぎたいというのが行きたくない理由らしい。英会話は外国人の先生がドキドキするという、大人と同じような理由だった。
その後も「ピアノはどう?」とか「体操は?」「書道は?」「空手は?」とか、様々な提案を試みるもどれにも興味を示さない。同じクラスには3つも4つも習い事をやっている子がいると教えてくれたが、そういったことが好きかどうかはもちろんその子によるところ。
「習い事なんてね、最初は親が強制的に泣いてでも連れてくもんなのよ!慣れてきたら好きになったりするんだから!」とは妻の友人の談。しかし我が家ではそんな勇気(?)もなく、乗り気でない子どもを連れていくまでの熱量は夫婦共々ない。
まあ興味ないなら仕方ないなと、そのうちまた声をかけてみようとあきらめかけた。しかし娘から意外な提案がなされた。
長女「絵を描いたり、何か作ったりとかはやってみたいな」
夫婦「え!?」
あからさまに喜ぶ私と妻、「いいねいいねいいね!」となぜか拍手して娘を褒めちぎる。まさか自分からやってみたいことを話してくれるとは、いやいや、もうそれならそうしようとすぐさま近所の美術教室を探索、調査、厳選した。

いざ美術教室へ

家から割と近いところに美大があるからなのか、自宅周辺には美術教室が思いの外たくさんあった。
選ぶ際は基本的に教室のwebサイトを熟読し、後は雰囲気と月謝などの費用面で選ぶのだが、うちの場合は教えてくれる先生が女性かどうかが重要なポイントとなる。これは世の男性講師たちに申し訳ないが、どうしても初対面では優しそうな、できれば少し若めの女性の方が長女は心を開きやすい傾向にあり、これまでも「その人は女の人?男の人?」と気にかけることが多々あったので、今回は女性の先生に絞らせてもらった。良さそうなところがいくつかあったので、そのうちの1つの体験コースにさっそく応募し、日曜日の午前中に行くこととなった。

その美術教室は、どこにでもあるごく普通の木造アパートの一室だった。
「アトリエ◯◯」と綺麗な彩色で描かれた小さな看板を、おそらくキッチンに付いていると思われる廊下に面した小窓の格子にぶら下げており、それ以外は特に目立った装飾や形跡も何もなかった。見た感じでは建物の築年数はそれなりに経っているようで、娘は驚きなのか訝っているのかわからないが、何か想像していたものとは違ったらしいということだけは見て取れた。けれどそれで落胆している様子もなく、「ここでやってるの?」とだけこちらに聞いてきた。私は頷き「楽しみだね」とだけ伝えてインターホンを押した。
予定よりだいぶ早く来てしまったので少し慌てた様子だったが、笑顔で出迎えてくれた先生は、娘が割と話しやすそうな、若くて優しい雰囲気の方だった。

中に入ると、外観とは違ってどうやらリノベーションされたらしい、非常に綺麗なリビングがあった。狭いながらも背の低い子ども用の机がいくつかセットされていて、作業できるスペースがきちんと確保されていた。画材や工具が几帳面に棚に整理してあり、部屋のあちこちに生徒が作ったらしき工作や絵の成果物、先生が自分で描かれたらしい大きく素敵な絵画が飾られていた。
娘は部屋を暫く見回していたが、その表情からは(わあ…素敵)と声が漏れ聞こえてくるようだった。
私はというと、映画「ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌」という作品に出てくる、まるちゃんと仲良くなる絵描きのお姉さんの部屋を思い出し、(わあ…懐かしい)と全然関係のないことを考えていた。

さっそく先生は今日どんなことをやりたいか娘に尋ね、これまで生徒が作った物を見せながら、「こんなのはどうかな?」と様々な提案をしてくれた。娘はすでに緊張モードで何ら言葉を発することができず、頷くことのみで先生とコミュニケーションを取っていた。
そのなかでどうやら興味を示したらしい今日の課題は“センサリーボトル“というものだった。
色をつけた水と、また違う色をつけた油を、一つの容器に入れ、2つの液体が混ざらない特性から二色が分離され、綺麗なバイカラーができあがるという工作だった。
私はまったく知らなかったが、元々はモンテッソーリ教育で知られるマリア・モンテッソーリが子供に作ったメイソンジャーというものが起源になっているらしく、眺めると気持ちが落ち着くような、子供向けのスノードームのようなものだった。

先生が用意してくれたのは精製水と油代わりにベビーオイル。それぞれをボウルに取り出し、食紅で色をつけていく。娘は自分の好きな二色を選び、液体をかき混ぜながら自分好みの濃淡を調整していく。元々集中すると無言になるタイプではあるが、緊張はなかなか解けないようで、先生への受け答えは相変わらず頷く一方だ。けれど工作にのめり込んでいく様子は、後ろ姿からでもはっきりとわかった。

実際に作っている様子

先生が水と油を入れるかわいい容器をたくさん出してくれて、ボトル選びもまた真剣に楽しそうに行っていた。選んだ小さなボトルに、慎重に液体を注いでいく。入れ終わると今度は星やハートなどの小さなラメを入れ、飾り付けていく。仕上げにはプラ板に好きなイラスト描かせてくれて、オーブントースターでボトルに入るサイズまで縮めていく。娘は熱されて形を変えていくプラ板の様子を笑いながら眺めていた。一つの作品を作っていく工程で、こうして様々なことを経験させていただけるとは、親として非常にありがたかった。時間が過ぎるのはあっという間で、約1時間半の授業が終わり、作品は完成した。

完成したセンサリーボトルたち

はじめて見たというのもあるが、短時間でそれも簡単に、こんなに綺麗な物ができあがるとは驚きだった。
娘も外光に透かしてはうっとりとした様子でボトルを眺めていた。
先生も出来栄えを褒めてくれて、娘も嬉しそうだった。

帰り道、娘に「今日どうだった?」と尋ねると、すぐさま「楽しかった」と返ってきた。親としては予想以上に充実した体験教室だったので、月謝と内容を考慮しても少しも高くないなと思った。
「じゃあこれからもまた、あそこに行ってみようか?」
すると娘は、
「いや、それはいいや」
と即答してきた。
(え?)
思いがけない反応に少々困惑していると、別段先生が嫌だとかつまらないとかそういうことではないと教えてくれた。
(だったらなぜ…)
娘からすると親にはわからない何かがあるらしい。それこそいわゆるフィーリングというものなのかもしれないし、思いのほか疲れただけなのかもしれない。
「じゃあ他の美術教室とかまた行ってみる?」
とダメもとで聞いてみると、
「え?別のところあるの?行きたい!」
とそれ自体は前向きだった。

親としては何か興味のあるものが見つかるだけでも嬉しいので、ひとまずホッとしつつ、とりあえずセンサリーボトルをリビングに飾って、しばらく眺めて、うっとりしていた。

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