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きみのくせはなんですか

もうかれこれ1時間だろうか。
家に帰ってきてから、ずっとじゃれている飼い猫もついにそっぽを向いた。遊んでいた猫じゃらしを片手に、寂しくなる。

付き合って2年目。彼女から別れ話を切り出された。なんとか粘って関係は維持できたが、今後も維持できるかというと、心許なさすぎる。

初めてキスをした時、家に泊まった時、手料理を振る舞ってくれた時、旅行した時、デートをした時…

彼女と同じものを見て、同じ気持ちでいると知れることが嬉しかった。同じ気持ちと伝えてくれることに安心していた。なのに、この気持ちのズレはどこから来たのか。皆目、見当がつかなかった。

「彼女のこと、わかんなくなっちゃったよ。」

寂しさを紛らわすために、手元から離れた飼い猫を探す。

いつもは遊び疲れたら、カーテンに隠れている。

が、今日はいない。一体、どこにいったのか。
1LDKの部屋なんだから、隠れられる所なんてたかが知れている。

分かったつもりでいたことなんて、どうやって気づけばいいのか。今、猫がいるであろうと思っていた場所を、ただただ見つめる。

思えば、彼女は僕のどこを好きになったのか。
好きじゃなくなったのか。
今、何をしているのか。

彼女は嘘をつく時、親指を隠す。好きじゃないと言った時に、親指を隠していたのは、何か言えないような大きな理由で別れたがっているんじゃないか。

っておめでたい考えが出てくるのは、僕も末期なんだろう。

結局、彼女の親指を隠す癖はなんだったのか。
分かったつもりで分からないことだらけだったことに今更気づく。

最初は彼女のことを知りたくて、知っていくことが嬉しかった。いつしか、彼女のことを知ったつもりになっていて、知ろうとすることを面倒くさがった。
同じような居心地の良さなんてただの言い訳だ。
僕と彼女が全く同じ気持ちでいるなんてことは、無い。

「親指を隠す時ってどういう時?」

別れ話をした日の夜のLINEが、こんな文章なんて、相手からしたらゾッとするだろう。

「なんのこと?」

ふっ。
案外、早くきた返事に笑ってしまった。

「ミー」

後ろから鳴き声がする。
彼女自身も気づいていない癖。
改めて彼女を知りたいと思ったのはいつぶりか。
何も状況の変わっていない中で、彼女がどんな時に親指を隠していたか、あれこれ考えながら猫を探す。まだ22時。


君の癖はなんですか。


(星野源「くせのうた」を聴きながら見るショートストーリー)
https://youtu.be/uYJS0O-9tIc



文:ぐっち 写真:ぐっちの姉

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