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あなたの後ろにできた道は

今、目の前にいるその人が
“今”に至るまでにどのような人生を歩んできたのか

そんな話を聞くことが、私は好きだ。

笑顔で微笑んでいる人ほど、たくさんの涙を隠している。

外見だけではみえない物を、それぞれが背負って生きている。

*…*…*

数年前、丁度今のような梅雨の時期
なんの用事だったかな…私はその日ハローワークにいた。

待合室、私の斜め前に座っている男性。
金髪で身体が大きい。
腕や首にたくさんの刺青が入っていて、耳には大きなピアスが1、2、3………。

年齢は50代程だろうか。

ピアスが好きな私は、その人の立派なボディーピアスを観察していた。

『拡張するの大変だったろうなぁ。(ピアスホール)』
『こんな田舎にピアススタジオなんかあったかなぁ。』
『自分であけたのかなぁ。』

気になり始めると、話しかけてみたくなる。
私の妙なクセの1つだ。
(話しかけはしないけれども)

男性は寸分の狂いもなく半分に畳まれた
“介護職員求職情報”と書かれた紙を
熊のように大きな手でそっと握りしめていた。

『あら、もしや未来の仲間かしら……』

そうなると今度はピアスよりも人柄が気になってくる。

思いきって顔を見てみると、つぶらな瞳をしていた。

厳つい身体のオーラとは全く不釣り合いなその瞳からは
優しさ光線が放たれていた。(ような気がする。)
なんだか満たされ納得した私は、鞄から本を出して自分が呼ばれるまでの時間を潰した。

5分程そうしていると男性が呼ばれ、更に5分程後に私も呼ばれた。

運命か。
何故かブースがとなり同士。
その空間が楽しくなってしまった私は自分の用事より
男性の挙動が本格的に気になってしまった。

男性と職業相談員の会話は佳境に入っていた。

長い間ご自身のお母様を介護していたが、半年程前にそのお母様も亡くなったこと。
お母様を看取った際、残りの人生は福祉の仕事に従事したいと思ったこと。

そんな話をしていたと思う。

男性が不安気に相談員に質問する。

「あの…自分のこの…タ…タトゥー?…ファンデーションで隠して面接に行った方がいいっすかね…?」

少し考えてから、厳しくそれでも優しい声で

「いえ、ありのままの◯◯さんを知ってもらいましょう!あ、でも、髪の毛は黒く…」

相談員はそう返事をしていた。

「髪の毛、黒くします…!ひげも剃ります!!」

「えぇ!頑張りましょう!」

「はい……!!!!」

そんなやり取りを隣のブースでひっそりと聞き
全くなんの関係も無いのに勝手に目頭を熱くさせながら

『なんだよぉー!!一緒に働きたくなっちゃったじゃんかよぉー!!!』

と、私は心の中で叫んでいた。

外見だけではわからない事がたくさんある。

だから人は面白いし、愛しいのだと私は思う。

*…*…*

振りかえって見た道が
例えいびつで、曲がりくねっていたとしても
それは、あなたが一生懸命歩んできた道。

だから、間違えなんて1つもないよ。

これまでも、これからも。

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