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【創作】草生えるw 5/5【小説】

■本編 最終章 金曜日

◆急浮上。
金曜日の朝。
本来なら今日はまだ休みではなく、出勤しなければいけない日だ。
数え切れない程に繰り返された、あと少しのところに幸せをチラつかせる厭らしい朝に、喜びでは無く微かにイラつき腹を立て、気分にがく、重く沈んでいるはずの朝だった。

しかし今日の俺はいつもより1時間早く起き、カーテンを開けて朝の光を部屋に招き入れ、買い置き冷凍している美味いパンをトーストし、はちみつをかけ、ドリップコーヒーを淹れた。
晴れやかな気持ちで。

ああ、美味い!小麦とバターとハチミツの味!コーヒーと最高の相性だ。
眼の前の食べ物が輝いている。世界が輝いている。
普通の物を普通に食って、味を普通に感じられるって素晴らしい。
なんてことないはずの今が輝いている。

本当に、なんで毎日こうじゃいけなかったのかね?

◆知ってた。

「うん、これは駄目だ。」

朝食を食べ、食器を洗い、家電の電源プラグを全て抜き、貴重品と家にある食料と空のエコバッグを持って外に出た俺の感想…と言うか声出し確認だ。
ちなみに、これは別に意図した💩語録じゃないからね?

歩道はもう草で埋まっている。
行政が必死に除草している車道部分もアスファルトはひび割れまくって、ひびのあちこちから肩の高さの草が生えている。

ネットで確認したから電車も(流石に)止まっているのを知っている。
分かっていたからウキウキで朝食を食べたし、スーツではなく山歩き用の厚手の長袖シャツと厚手のズボンとショートブーツを穿いている。


遅れたが、俺の名は「幌別(ほろべつ) 曽我(そが)」だ。
糞みたいな会社で働く糞どうでもいい歯車、それが俺。

◆職場に休みの連絡を入れた。
例の💩上司から「電車が止まっていてもバスがあるだろ!」と言う基地外発言をいただくが、道が崩れていてそこまで行けないと告げて着信拒否する。
「会社に泊まった人も居る(やっぱりねw)のに、お前は…!」とも言われた。
寒けするwww

念のため、本社の方に休んだ事と事情、上司に出勤強制された事をメールした。
もし万が一、災害復旧した時に悪者にされないための根回しだ。
会社に人が居るとは思って無かったのに返信が来た。テレワでメールだけ見てるのか?
会社としては出社の強制も要請もしていないとの事だった。
(と言っても、事実上黙認放置してるんだがな。)

やはり。無理やり出社して「いつも通り」業務を回したがってたのは完全に💩のスタンドプレイだったようだ。
迷惑な話だ。

まあ、あの人アレだから家に居場所無いんだろうな。
会社なら家と違って役職のお陰で表立ってダメ出しする人間居ないからな。
「病気じゃなくて、僕はちょっと情熱的なだけの真面目で努力家の素晴らしい大人なんだ!」劇場の邪魔されないもんな。
変な劇場背負って生きてるヤドカリ妖怪多すぎ問題。

まあもういいどうでも。
これにて公用&仕事用スマホの電源オフ。
バイバイ!
私用スマホの電源オン。
最近、公共料金から役所の手続きから会社の連絡までスマホ使わされるから、金は無いが流石にスマホは公私で分けた。

«お前らに、スマホと言うパーソナルなスペースに入って来て欲しくない!»

来て欲しくないが、社会全体でこっちの意志を無視してグイグイ来るから、ならパーソナルスペースから切り分けて、こっちにとって不要な時には物理的にオフにする。

て事で、今日はお休みラララララ〜♪

◆美しい街へ。
俺は休日になると2駅ほど離れた、まあまあ近場の港街によく行く。
漁港ではなく、観光船(と貨物船)が発着するレトロでお洒落な建物が多い観光街だ。
美しい街並みの中に居るだけで気分がアガがる。
実は昨日の夜、その街のホテルを予約した。
世界がこんな事になってから、流石にホテルの予約はキャンセルが増えているらしく安かった。
一人暮らしをそこで始めて、初めて生活の中に安らぎを感じたアパートに愛着はあるが、俺の部屋は2階だから、丈夫な建物の高層階に避難できるならしておきたい。

上司に言われるまでもなく、バスなら動いているのは調べてあったので港街へ向うバスの停留所に向かう。
低山ハイク時に念のため買ったが、結局特に必要を感じなかった杖を使って邪魔になる草を掻き分け、地面の状態を探りながら車道の端を歩く。

〜脈略もなく、紛争地域に産まれる事を思えば、お前達は全然幸せだ!甘えている!と爺さんが若い奴隷に向かって吠える絵面が浮かんだ。
紛争が維持されるのは兵士が供給され続けるからだ。
兵士が居なければ物理的に争いなんて続けられない。
では、奴隷と貴族の社会が維持されてしまうのは…?
十中八九幸せになれないと判っている世界に平気で人は人を産み落とす。

…歩くと脳が活性化されるのか、気付くととりとめの無い思考をしている事がある。

◆バス停に着いた。
が、そこは出勤者と思われる人達で大混雑していた。
まだ働かせるのか。そして働く気なのか。病気だ。

まあいい、それなら街まで歩こう。
実は趣味でよく歩くし。
普段は体力ありません面をしているが、男だろうとか言われて契約に無い力仕事させられる体力がありませんと言うだけで、遊ぶ為の体力なら無い訳では無い。
街までは、大通りと川沿いを歩くルートがあるが、せっかくだから景色の良い川沿いの遊歩道を行こうと思い、港街へ続く川を目指す事にした。

〜我々は配られたカードで勝負するしかないんだ、なんてカッコつけて言う間抜けがいる。
それは「私は良い奴隷です。」と言うセリフと同等だなと思った。
糞みたいなカードを配るイカサマ糞ディーラーと、そいつに都合のいい糞ゲームに付き合う必要がどこにある?
糞カードなんか放り投げて一人遊びする方が楽しいなら普通にそうする。
卑怯者に卑怯者呼ばわりされる事なんかどうでもいい。

…川の近くまで来て驚いた。
ジャングルか。
蔦に低木中木高木これでもかと葉を茂らせ森のようになっていて、その奥が見えない。
川横の遊歩道には近づけそうもない。
と言うか、遊歩道は多分草で埋まっている。

そうか…、水が豊富な場所だとこうなっているのか。

ここら辺りの川は汽水域なのに、それでもこんなになるんだな。
川に近づけないから想像だが、元々生息していた汽水域で繁殖できる植物が川から水を吸い上げて、蒸散やらで周囲の汽水は利用できない植物達へも水分を分け与えている形になっているのではないだろうか。

橋に続く道路も閉鎖されている事だし、これ以上は諦めて大通りへ引き返す事にした。

◆異世界探検。
川から離れた大通りは大型車両の通行ができる状態に保たれており、そこを区間制限しながら運行中のバスやら物流トラックが速度を落としながら通っている。
稀に田舎の実家にでも避難するのかな?と言った感じの、荷物を積んだ車高の高いオフロード車も通る。

ネット情報たが、草の侵食が激しくて家を壊されたり住めなくなった不運な人が地域の避難所へ避難し出しているらしい。
たがまだそんなに数多くはないようだ。

学校や会社が休みになったらしい人々がブラブラしている姿を道の端にチラホラ見かける。
買い出ししたり、無駄な草刈りをしたり、家の修繕をしたり、異世界探検をしたり様々だ。
割りとまだ皆呑気に見える。
俺もだけどな。

◆嫌いであっても攻撃するつもりはない。助けるつもりもない。

植栽された中央分離帯の植物の影で子供が面倒事に巻き込まれているのを目撃した。
おそらく日常的に無用心にひとり歩きをさせている家の子供が、呑気に異世界探検していたところ災難に見舞われたのだろう。

…そうか、ちょっと俺も舐めてたかもな。
もうそこまで来ているのか…

これは、自分自身が面倒事に巻き込まれない内にホテルに着く必要があるなと判断。
足を早める。

〜何故いつまで経っても適切でない養育をされている子供や、そもそも養育放棄されてるような子供を積極的に施設で育てるようにしないのだろう。
施設での子供の虐待撲滅に本腰を入れないのだろう。
下らない「家庭や子供を持つことはね?素晴らしい事なんだよ?それが幸せという物だよ?」アピールに税金使ってる場合か?
滅びたくないならそれが最優先だと思うんだよな。
子供時代が楽しく無かった頭まともな人間は、他所から何言われようが家庭を求めないし、子供も作らないから。

ああ、「優しいボクが寂しくて飢えてる可哀想な子供に優しくして唯一無二の尊敬と愛情を得る物語」みたいな妄想をしているみっともないクズにとっては、つけ込める「可哀想な子供」が居なくなるのは嫌なのか。
寂しいのも飢えてるのもお前なのにな。
お前が詐欺師にでもつけ込まれてろ。

◆街。
普段なら1時間かからない道を2時間かけて歩いて、いつも休みの日を過ごしている大好きな街に到着した。
ジャングル化しかけている木々の合間から覗く洋風でレトロな美しい建物の数々。
エルフの里的な風景とか、北欧の森のそばの街風とかポジティブに見られない事もない。
どっちも見た事無くて雰囲気で物言ってるわ。
こんな事になっても、ここの街並みは美しい。
どこもこうならいいのにな。
看板ベタベタのブサイクな雑居ビルとか蔦に絡まれて死んだらええ。

最期に街を散歩したかったが、そろそろ本格的にヤバそうなのでサッサとホテルにチェックインした。
取水制限のお陰で風呂はNG。シャワーの使用時間に一応の制限がある以外は問題無しだ。

ここへの道すがら、開いているコンビニやスーパーを見かけたら立ち寄って、水と弁当とサンドウィッチとスナックを買ってリュックとエコバッグに詰めて持ってきた。
物流まあまあ滞ってる上、懲りずに一部買い占めに走ってる勢もいるせいで品薄だったが、まあまあ食べ物を確保できた。
家から持ってきたドリップやインスタントのコーヒー、ティーバッグもある。
2、3日は楽しく籠城できるだろうし、その後もまあ1週間くらいは飢えでは死なないだろう。
ホテルの予約は明後日までだが、その後があるとしたら、まあ人道上追い出される事は無い状況になっているだろうな。

「この期に及んで働いてる奴ヤベー」とか言ったけど、その人らのお陰で最期にホテルの窓から好きな街を見ながらコーヒー飲んで過ごせてるんだよな。
いたしかゆし。

スマホでニュースサイトを見ると、異常繁殖どころか変態した植物が犬猫などの小動物を絡め取って養分を吸い取るようになったと報じられていた。

うん、知ってた。
ここに来る途中で無用心にひとりで異界探検ごっこしていたらしい子供が元街路樹っぽいのに冬虫夏草されてたの見たからな。
冬虫夏草って言うと死体からきのこ生えてる状態と誤解されるか。
植物が上から獲物に覆いかぶさって根だか蔦だかみたいなので雁字搦めにして生きたままなんか吸い取ってる感じだった。
あんまり良く見ず逃げたけど、血も出てたから根だか蔦だがにはトゲみたいなのも付いてたのかもな。
まだそんなに高い運動能力は獲得して無いっぽいが、この進化速度だとまあ、ね…

それでは皆さん、良い終末を。

〜終〜


■後書き

◆世界観
オタク気味弱男を主人公に令和プロレタリア+滅ぶ世界。
…みたいな事をやろうとしました。
  
◆キャラクター
【幌別 曽我 ホロベッ (ク)ソガ】
体格小さい、細身、童顔舐められフェイス、高卒、薄給。
尊重されず粗末に扱われて育つ。預けられっ子。
スマホは持たせて貰えなかったが、SNSとか無くとも普通に同級生との格差は見聞き感じながら育った和室界隈出身者。
闇バイトに走らない程度には知能と警戒心が高いありがちZ世代。

作中ほぼ描けなかったし、オタク設定要らなかったかな。
エンタメに飢えてた反動で多趣味なので、その趣味の中に漫画ゲームアニメがあるくらい。
プロレタリア世界観の主人公ならもっと耐えるタイプの方が良かったかも知れない。
本人の性格と口が悪いせいで悲壮感イマイチ。

次作的なものを書かないで終わると描写する機会が無いのでここで書いてしまうと、滅びを招くナニカの依代になっている。
本人に自覚はあるような無いような。

◆AI作画
文で伝えきれないイメージを伝えるためにやっぱり画像も欲しいと思って挑戦。
スマホ環境なので学習ファイルとか無。
丸描いてちょんの指示原画とプロンプトでi2i。
困った事は、AIさんどれだけネガティブプロンプトぶち込んでも萌え絵に寄せる!ほほ染める!目をデカくする!
AIさんの癖と自分の修正の衝突事故で変にアクの強いイメージが固定される。
変なアクを抜きたくてフィルタ加工したら挿絵風になったのでこれでいいやと妥協。
全身とかポーズのある絵とか無理。

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