6歳息子の「結婚したい」宣言
「ぼくね、結婚したいひとがいるんだよ」
あっぶっね。
持ってたスマホ落として足の指スコーン!とやるとこだった。
息子の突然の「結婚したい」宣言。
なんつーか、フリーズしたよね。マジで。
頭ん中、真っ白。完全にホワイトアウト。
もう季節は春に移ろっているというのに、わたしだけけっきょく南極大冒険。
いや、いつかはそんなこと言う日がくるかもなーとか、
そんなことを想像することもあるけれど、いやいや、早すぎ早すぎ。
何?まだひとりでカップラーメンも作れない分際で、
所帯持ちたいってどういうことよ。
「だれだと思う?」
だ れ だ と 思 う ?
ずいぶんな余裕じゃないか。
ようし、ここはビシッと当ててやろう。
「お母さんかな?」
一縷の望みに賭けて言ってみた。
恥はかき捨て。はらたいらさんに全部。
「違うよー」
あっさりと、じつにあっさりと否定された。きっつ。
「ぼくはね、◯◯太くんと結婚したいんだよ」
◯◯太?
あー、
いいじゃん。
あの子、素直だし。意地悪とかしないし。
そんでもって面白いことやってくれるし。
いつも大きな声で挨拶してくれるし。
◯◯太、最高じゃん。
息子め、ひとを見る目があるなあ。
「◯◯太くん、いいね。結婚、楽しみだね」
そう言うと、息子はうれしそうにうなずいた。
-
そんなことがあった数日後、息子を保育園へ送りに行くと、
玄関先で◯◯太くんを預けていそいそと出勤していく◯◯太くんのママに会った。
挨拶がてら「息子が◯◯太くんと結婚したいって言ってるー」と話してみる。
「あ!そうなんだよね、◯◯太が言ってた!ぼくも息子くんと結婚するって!」
え、
あ、
え?
なに、息子。プロポーズ成功してんの?
学歴なし、職歴なし、親が稼いだお金で遊んで暮らしてる身なのに、
結婚してくれるひとがいるなんて、どんだけ人生イージーモードなの。
「でもね、」
◯◯太くんのママが息子に向き合って言う。
「息子くん、結婚は、ちゃんと考えてしなきゃダメだよ」
せ、正論ーーーーー!!!!!
それな。ほんそれ。
一時的な感情だけで突っ走っちゃダメだ。
もちろん結婚なんて、いやになったらやめちまえばいいよと思うけれど、
いやー、別れるのって大変なんだよねー。
「ほんと、そうだね」と笑ったら、◯◯太くんのママが言った。
「息子くんと◯◯太が結婚したら、いっしょにふたりの家に行ってお茶しようね」
うん、する。それ、絶対楽しい。
-
「ねえ、息子、結婚て何?どういうことを言うの?」
その夜、こっそり息子に聞いてみた。
もちろん◯◯太くんは息子の大切なお友達で、
息子が彼を大好きなことは知っているけれど、
それが「結婚」ということばに行き着く感情はどんなものなのだろう。
息子が何をイメージして「結婚」と言ったのか、知りたいと思った。
息子は「ええ!」と驚いてみせた。
きっと、知ってるでしょ?ってことなんだろう。
何せ、わたしは彼にとっていちばん身近な「結婚しているひと」のひとりだから。
「結婚てね、仲良しで大好きなひとと、ずっといっしょに暮らすことだよ」
あ、
「お母さんとお父さんもそうでしょ」
あ、やば。
泣きそう。
そうだ。どうして思いつかなかったんだろう。
息子のイメージする「結婚」は、「わたしと夫」なんだ。
-
そうだ、そうなんだよ。
息子に言われて思い出した。
わたしは夫のことが大好きで、ずっといっしょに暮らしたいと思ったから
このひとと結婚することを決めたんだ。
その先に、これほどのしあわせがあるなんて想像もせずに。
ただ、このひとといたい、そう思ったんだ。
息子が将来、結婚することなんてすこしも期待していない。
したけりゃすればいいし、したくなけりゃしなくていい。
ずっとそんな風に思っていたけれど、
わたしが夫に感じたような気持ちを息子がだれかに抱いたら、
きっとそれはとても素敵なことだ。
たとえ「結婚」という選択肢じゃなくてもいい。
大人になった息子のそばに、わたしにとっての夫のような、
仲良しで大好きで、ずっといっしょに暮らしたいと思うようなひとが
いてくれたらいいのになと思う。