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1-5*背水の陣

見るときっと、ハマってしまうからと遠慮していたドラマをうっかり見てしまった。実習中なのに。だから、土曜日は金曜の日誌を終わらせて、ドラマを見ることに。牧がんばれって。応援しながら。
それで、私も頑張ろうって。

『6月後半から7月前半で空いている日とかありますか?』
『一緒におでかけしたいだけなので、ご飯じゃなくてもいいんです』

前回の、黙りこんで必死で不格好な笑顔作ってしまったご飯が頭をよぎる。もう、行ってくれない?

『基本空いてるよー』
『映画でも見る?』
返信に嬉しくなる。
平日と休日と、2日ずつ候補日をだす。どうせ、Iは選択を私に委ねるから、私の好きなバンドにちなんだ7/4にしようか...なんて思いながら。
『じゃあ、7/4で』
Iからの返信は意外にも日付を決めるLINEだった。

LINEに一喜一憂するのに疲れていた。だから、ここで、白黒つけようと思っていた。そう、7/4はXデー。

「私さー、YちゃんからIさんのことすきって聞いたことないんだけど」
夜、電話越しにTから言われた。そう。私は、いまだにIのことをすきだと認めてなかった。
「んー、もっと知りたいしもっと仲良くなってみたいけど、これがすきって気持ちなのかはわからないもん」
駄々をこねる私にTは何度ため息を漏らしたことだろう。

でも、怖かったんだ。すきと口に出してしまうと、認めてしまうと、もう、引き返せなくなるから。

でも、もういいんだ。

何も決めずに行って失敗した前回の反省を踏まえて、映画は何を見るのかあらかじめ決めていた。
とはいえ、なかなか返ってこないLINEで決めていくのだからスローリー。
そのくせ
「すきなの選んできていいよ」
7/3のバイトの閉店作業中にIが私に何か買ってあげると言ってくる。
でもね、私は閉店作業しなきゃ。あなたへのアタックに使った冷蔵棚のナイトカーテンも閉めなきゃいけないし、農産部の野菜を引き込んだり新聞かけたりしなきゃいけない。
「いらない?」
「ほんとにいいの?いる!」
悩んで、カップに入っているケーキを買ってもらう。帰ってすぐに、登録だけして見る専用と化していたインスタを開いて、初ストーリー。浮かれてた。

7/4。運命のXデー。
あいにく、私は昼過ぎまで授業。今回は県で一番大きい都市の駅で待合せ。
Iは知り合いの手伝いで先に駅にいるらしい。早く着きそう、と連絡すると
『おっけー。じゃあビックカメラ集合で』
わかったのスタンプを押しながら、地下の改札を抜けて一番街に目もくれずにビックカメラの入り口に進む。
『ついたよ。地下の入り口のとこで待ってます』
ぼんやり地上から駅へ、駅から地上へ向かう人々を眺めながら、緊張する気持ちをなだめるために眼鏡を外す。裸眼のままぼんやり待っていると、待ち焦がれた彼が通った。
「Iさん」
「お、一瞬わかんなかった」
行きなり名前を呼ばれて驚く彼と前回も訪れたイオンモールへと歩き出す。

私が絵本を見たいと言っていたから、彼を絵本屋さんに連れていって。
映画は見た目は子ども頭脳は大人な某アニメ。
ご飯は彼が高校時代によく行ったという、小さいなお好み焼きやさん。

前回、話せなかったぶん、今回はたくさん話して。
帰りの電車もバイトのことを中心に会話が途切れないように、場を暖めて。
話しているうちに、私の最寄りの駅。
「今日は、ここでは降りないんです。次の駅で降りるんです」
次の駅で降りて、あなたにすきと伝えるんです。

こうでもしないと、私は告白できないから。背水の陣。