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1-4*もう、しんどい

LINEが来なくなって10日。
プライベートで出かけた時に、隣を歩くことだけで嬉しくて、頭真っ白で何も話せなかった自分に不甲斐なさと後悔が募る。
バイト先では相変わらず仕様もないことばかりたずねて、話す機会を無理矢理つくって。そう、バイト中はいままで通り。

それでも、来ないLINEを待つのは苦しい。
ご飯に行った時に彫刻刀がほしいと言っていたことを思い出して、家にある兄のおさがり彫刻刀をこれ見よがしに、とダシに使って連絡した。
LINE気づいてなかったという言葉とともにテンション高く借りたいと返信が来た。
気づいてなかったなんて嘘なんだろう、と唇を噛みながらも、接する機会が増えるだけで嬉しかった。だって、貸すことで返してもらうという口実だってできるから。使わないから返ってこなくても構わないけど。

それからまたLINEを始めた。
本当はもう一度出掛けたかった。切り出す勇気はなかった。
それでも、当たり障りのない、主に業務に関わることしか話さない現状から1歩でも近づきたくて、LINEを続かせようと必死だった。彼がLINEが得意でないことを知りながら、良くないと思いながらズルズルと。
私自身もマメにLINEするタイプではない。あまり会わない友人とのLINEを2、3ヶ月あけて返してしまったり、毎日会っていても得意でなければ1週間以上あけてから慌てて返したり。
だから、彼とTは特別だった。

LINEの通知のランプは黄緑。チカッチカッとスマホが光る度に、Iかも!と浮かれてスマホを開く。だいたい、TからのLINE。残念な気持ちを片隅に、TのLINEセンスに笑ってしまう。

けれど、毎日毎回通知が来る度に嬉しくなっては現実を突きつけられて。来ないLINEに一喜一憂して勝手に傷ついていく。
笑っていても、熱風にも近い春風が吹いていても、心には冷たい風が吹き付けているようだった。

LINEひとつでこんなに心を揺さぶられて、私を占めてくるなんて、もう、散々だ。こんな気持ち要らない。
バイト中前のレジにいるIを睨みたいのに、睨んでいるのに彼を見る私は周りからみれば、Iを愛おしく見つめる恋する乙女なんでしょ?わたしだけ、バカみたい。

すきになってしまった気持ちを今さらなかったことにするにはLINEが来ないことなんてあまりにも些細すぎて、恋心は育ってしまう。哀しい花つける前に小さな芽を摘んでほしい。ジョバイロがこんなに心に染みることは残りの人生で何度あるんだろう。

後悔と自嘲と恋心との鬩ぎ合い三つ巴のなかで苦しんでいるのに、時間だけは平等に過ぎていき、梅雨も来ていないのに暑い5月になっていた。
また、実習が始まる。