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【連載小説】金をする男と愛をはく女【第十一話】

第十一話 再会

後日俺は教えて貰った住所へと向かった。着いた場所は20歳の一人暮らしとは思えない、いわゆる高級タワーマンションだった。若くして成功している人もいるだろうが、俺の知る華子はそういった素振りはみせていなかった。

恐る恐る入り口を探し、教えて貰った部屋を探そうとするが俺はオートロックというものを知らず、第二のドアの前で立ち止まっていた。
俺は開かないドアに戸惑っていると後ろから話しかけられた。

「あのー、ここの住民の関係者ですか?」

振り返ると派手な髪色とバッチリメイクの女性が不審者を見るような表情で立っていた。

「あっ、友達に会いに来たんですけど…」

一瞬だけその女の顔をみると、俺は気まずくなり顔を伏せてしまった。明らかに不審者ぶってしまったことにまずいと思いながら、めんどくさい誤解をされそうだったので出直そうと思い、引き返そうとすると俺は突然腕を掴まれた。

「ちょっと待ちなよ!」

語気の強まる言葉に俺はこれから起こるめんどくさい展開を想像した。

「怪しいものじゃないんですけど…」

俺は自分で言った台詞がもろに怪しいやつのものであると思ったが、ここまできたら堂々としなければいけないと思い、はっきりと顔を見た。
最初に気付いたのは女のほうだった。

「あれ?もしかしてイチロー?」

女は俺の名前を呼んだ。

「えっ?そうだけど」

俺はその女の顔をまじまじと見てしまったが、誰だかわからないでいた。

「やっぱり!あたしだよ!めっちゃ久しぶりだね!」

俺のことを知っているようだがどうしても思い出せずにいると、一方的に話しかけてくる。

「まぁでもわからないのも当然かー、とりあえず立ち話もなんだからうちでコーヒーでも飲んでく?」

さっきまでの不審者を見る目から一変し、懐かしの友人を迎えるような目で問いかけてくる。
俺が思っていためんどくさい展開とは違うものになったが、不審者扱いされるよりはマシだと思った。
とりあえず促されるまま女の部屋へと案内されると、教えて貰った華子の部屋の隣だった。
俺は女の正体と、隣人の華子のことも聞けると思い部屋へと入った。

高級そうなソファーに座ると、コーヒーを淹れてくるといった女はキッチンのほうへと足を運んだ。
その間に改めて部屋を見渡すと、ブランドに疎い俺でもわかるような高級感が伝わってきた。そんな空気感に俺は不安になってきた。何か騙されていて、怖いお兄さんが登場するのではないかと。

「お待たせー」

高級そうなコーヒーカップに緊張したが、一口飲むと懐かしい気持ちになった。というか実際に思い出したことがあった。

「これ、ガブガブコーヒー?」

ガブガブコーヒーとは俺の地元では有名なご当地コーヒーでミルクと砂糖がたっぷり入ったものだ。たまに学校給食でも出ていた。

「そうそう!懐かしいでしょ!あたしも好きでよく取り寄せてるんだ」

「地元が一緒?」

俺が問いかけると、女はケラケラ笑っていた。

「地元が一緒どころか、家が隣だったっしょ」

「えっ…?美幸(みゆき)…?」

俺の家の隣に住んでいた美幸は小さい頃からの幼馴染で中二の時に引っ越すまでよく遊んでいた。ただ引っ越す前の最後の記憶は最悪なものだった。

「正解ー、みゆきだよー」

正体が解っても腑に落ちない点がある。

「みゆき…でも顔が…」

俺はじっと顔を見てしまった。

「あー、整形したからさ わかんないのも無理ないね
今はキャバでNo.1やってる」

話し方とケラケラ笑う雰囲気は確かに昔の名残を思い出させる。

「そうなんだ、No.1って凄いな」

俺は嫌なことを思い出しながらも、それを悟られないようにニコニコしながら話した。

「そうそう、おかげさまでお金には困んないし毎日充実してるよー」

俺は美幸があの時のことを覚えているかが気になっていたが、今の現状が幸せそうならそれで良かった。

「イチローは何してるの?てか友達に会いに来たんだっけ?」

「あぁ、まぁ俺はフリーターみたいな感じだな」

「ふーん、それでここに友達?まっイチローなら不思議じゃないか」

美幸の言葉は普通の人にとっては嫌味に聴こえるかも知れないが、俺にとってはあの時のことを覚えていると捉えた。

「今日は偶然だけどイチローに今のあたしを見てもらえて良かったー まぁある意味イチローのお陰って今では思ってるからー」

俺は複雑な気持ちになっていた。

「ごめん…」

俺はつい謝ってしまった。あの日のことを思い出して。あれは中二の夏休みで、美幸の母親が亡くなる一ヶ月前のことだった。

続く

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