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神子ケ浜だより

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豊島の神子ケ浜(みこがはま)に長老の住まいがあります。日本の原風景が残る、いつまでもこのままで残しておきたい秘境です。長老のことを書きます。
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世界一高いスパイス 2019

世界一高いスパイス 2019

豊島の長老宅から、球根を移したのは2018年のこと。
サフランは、長老が小さい頃、薬として飲用したと言います。
子どもの頃、お母さんが雌しべを摘み取り、火鉢の上に新聞紙を広げて乾かすのは夜なべ仕事。薬問屋が買いとり現金収入になったと聞きました。

大人になってからの長老は、豊島でサフランの栽培を広げようと、小豆島へ視察に行ったことがあると言います。

世界一高いスパイス、2019も咲き始めました!

牛を見ればどこの家の牛かわかる、とはどういうことですか、長老

牛を見ればどこの家の牛かわかる、とはどういうことですか、長老

豊島(てしま/瀬戸内海)の長老は昭和3年生まれ。数年前まで屋敷内の田んぼで不耕起栽培の米を作り天日で乾燥させ、家庭菜園を整え、一次産業に従事していました。長老の聞き書き、今日は牛の顔がわかるってどういうことですか?

「この牛、どこの牛じゃろな」
2019/11/4まで、土庄町旧豊島中学校に民俗資料が展示されていました。そのパンフレットを渡したところ、長老が言います。

■10月29日
豊島の民俗

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神子ケ浜の金柑&甘夏ベーグル

神子ケ浜の金柑&甘夏ベーグル

豊島の長老宅は、母屋の前と後ろに田んぼが広がり、牛小屋と果樹畑、野菜畑が広がる。南側には瀬戸内海、四方が見渡せる屋敷だ。

東側の斜面に梅、柿、夏みかん、ざくろ、金柑が育つ。秋には金柑の近くでサフランが、わずかな期間だけ咲く。3年目になるだろうか、わたしは実りをいただくばかりでなく春から夏にかけては草刈りを、大寒までに「お礼肥え」と言われる追肥をするようになった。
「冬に化成でもパラパラっと振る」

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気持ちを狂わすものの正体

気持ちを狂わすものの正体

長老の聞き書き、校正2回目のこと。
「瀬戸芸は、若いもんの気持ちを狂わすと思うな…」と、長老が言った。
魔物のような力が作用し、若い人の金銭感覚を狂わせ、まっとうで誠実な人生を狂わせるような映像を私は想像した。そして、こんな風に言ってくれる大人は珍しいと、感激した。
世の中を見据えて判断できる大人は、もう少ない。
久しぶりに、長老のあるべき姿の言葉を聞いた。

1/4、長老はさっぱりとした笑顔で迎

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経済事業としてのアスパラガス

経済事業としてのアスパラガス

レモンを見に行くと、草が茂る合間にふさふさとした葉先が見えた。アスパラガスだ。ふたまわりの春、草に覆われていた。3度目の夏、草がきれいに刈られた後には畝もなかった。

「アスパラ、二人では食いきれんほど採れたんだで。なかったか…」、長老は話題を変えた。「スイートスプリングは、実がなってるかな?」と。

豊島を離れると決めた時、屋敷の土地を人に任せると決めた時、人には語れない思いがあったに違いない。

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雨に漂う甘いキンモクセイ

雨に漂う甘いキンモクセイ

長老は「添乗員で何べんも行った」と言ったきり黙った。

長崎と水俣にも行こうと思っていますと、私が言うと「水俣には市がやっているのと住民のと、二つ資料館がある。市のはきれいだけれど、住民の資料館のがいいな」という。

豊島(てしま/瀬戸内海)に資料館を作ろうという話がでた時、長老は中坊公平弁護団長に怒られたという。

「わし、しこたま怒られてな。県と町が1億なんぼ出す言うてきて、資料館、水ヶ浦か家

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早生の栗

早生の栗

8月下旬、豊島の長老のところでは栗のイガが割れた。べっとりとまとわりつく熱帯が、台風のおかけで一息つける気温に下がると同時に、早生の栗が落ち出した。

池のほとりにある1本が、毎年夏の終わりを告げる。

長老の屋敷に移り住んだ例の「番人」が、栗をごっそり持ってきてくれた。「うわー、はやい!」「栗ご飯が食べたい!」「栗拾いしたい」と好き勝手な感想が出る中、新聞に包んだイガ栗が出てきた。緑色のイガは、

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こぼれ種の勢い

こぼれ種の勢い

こぼれ種から芽がでたミニトマト、あれよあれよというまに私の背を越して、太い枝ぶりを広げ出した。支柱を2本立て、わき芽を摘むといい実になると思い出し、これと思う花だけを咲かせた。

実が膨らみ、枝先からだんだん大きくなる勢ぞろいぶりが、楽器の鈴のようで、鈴なりだなーと思う。

実が色づいて、たくさん採れるわー、ケチャップにする?セミドライにする?と喜んでいたころ、また、花が咲きだした。今度は前以上に

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晩に吹く風とともに

晩に吹く風とともに

くっきりとした青空に白い雲が浮かび、日差しがまぶしい。気がつけば朝、セミの声で目覚めることがなくなった。熱気を帯びた微風が、いくぶん勢いをなくした感じだ。

この感じを言葉にするなら「秋の気配」というのだけれど、中3男子に言わせると「宿題が終わらない」だそうだ。

豊島(てしま/瀬戸内海)で70年以上で田んぼや畑に立ちながらこの時期をどんな風に感じてきたのか、長老に聞いてみたくなった。

「ススキ

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