メギド72に隠された3の工夫
『メギド72』は、地形を感情表現にリンクさせたり、キャラクターを名前でグループ化したりと、様々な工夫が凝らされていて、キャラクターの関係性や心理描写、ライターの意図を考察するための手がかりが豊富です
本noteではこうした工夫の中でも特に「3という数字」に注目し、それが物語に与える影響を探ります
普段意識しにくい「3という数字」に注目することで、作品をより深く楽しむヒントが得られるはずです
以降、メインストーリー12章・125話までについてのネタバレを含みます
ご了承ください
それではやっていきます
前提の共有
まず、大前提として『メギド72』は、男女の2項対立や、39・59などの語呂合わせ、タイトルにも含まれる「72」など、様々な場面で数字を重視している作品です
その上で、今回皆様に注目していただきたいのは『メギド72』における「3という数字」の役割についてです
このnoteでは『メギド72』という作品が根幹的に「3という数字」を大切にしているかもしれない……という部分について考察していきたいと考えています
ただしその前に、童話やキリスト教の文脈で「3という数字」がどのような役割を果たしているかを確認し、「3という数字」が他の作品でも重要視されていることを示したいと思います
童話・昔話・神話における「3回の繰り返し表現」
童話・昔話・神話というフォーマットでは、作中に「3回の繰り返し表現」が見られることが広く知られています
例えば『桃太郎』では、桃太郎の家来となる犬・サル・雉といった動物たちにきびだんごを渡す表現が3回行われています
また『3匹の子豚』では、子豚の兄弟が家を建てて、その家が狼によって襲われる表現が3回行われています
さらに『白雪姫』では、白雪姫はまま母によって3回襲われています
他にも『シンデレラ』(2人の義姉とシンデレラで合計3回靴を履く)、『花咲か爺さん』(犬が「ここ掘れ」「臼を作れ」「桜の樹に灰を撒け」と3回助言する)、『ヘルメースときこり』(斧に関して3回質問される)などにおいて、同じような表現が3回繰り返されています
これ以上挙げているとキリがないのでこれくらいで切り上げたいと思いますが、ここで重要なことは、『メギド72』は童話をモチーフとしたキャラクターを登場させたり、童話をモチーフとした物語が描かれているということです
「東方編」では『桃太郎』を題材としたキャラクターが登場し、物語についても「桃太郎」との類似がありましたし、ウェパルはアンデルセンの『人魚姫』、シャックスは『白雪姫』、マルコシアスは『赤ずきん』を題材としています
このことから、あくまでも可能性の話ですが、『メギド72』では童話などで「3回の繰り返し表現」が多くみられていることを前提に「3という数字」を利用している可能性があります
聖書と3という数字
また、キリスト教の聖書では「3という数字」や「3回の繰り返し表現」が印象的に行われている箇所が存在しています
今回のnoteでは、繰り返しが印象的な表現として、「3という数字」が繰り返し登場するキリストの死と復活の場面について紹介しようと思います
まず、キリストは自分自身が処刑される直前に弟子の1人であるペテロという人物に対して、お前は自分の身を守るために、私(キリスト)のことを知らないと3度言うだろうと予め宣言します
その後、キリストが宣言していた通り、実際にペテロは鶏が鳴くまでも間に3度、キリストのことを知らないフリをしてしまい、処罰を受けることを免れようとしてしまいます
また、キリストが引き渡されて磔刑される際には、キリストと同時に別の2人の罪人が処刑されます(合計で3人の人が同時に磔刑されることになります)
更に、刑が実際に行われた後、キリストは予め宣言していた通り、3日後に復活します
そのほかにもキリストの誕生に際して活躍する東方3賢人、キリストが荒野で悪霊から受けた3つの試み(=ミルトンの『復楽園』)、なにより3位1体という考えにも「3という数字」が重要視されていることが表れていると思います
ここで重要なことは、『メギド72』は聖書を題材としたキャラクターや物語が存在しているということです
『メギド72』全体が、「3という数字」を大切に扱っているミルトンの『失楽園』・『復楽園』の影響を受けていると考えられますし、何よりもソロモン王やシバの女王は聖書の中で活躍する人物です
このことから、こちらについてもあくまでも可能性の話ですが、『メギド72』では聖書の中で3回の繰り返し表現が多くみられていることを前提に「3という数字」を利用している可能性があります
3に関連する話
童話や聖書など、『メギド72』以外の作品などにおいて、「3という数字」の利用や「3回の繰り返し表現」がみられることが分かったと思うので、ここからは『メギド72』において「3という数字」の利用や、「3回の繰り返し表現」が登場していることを確認していこうと思います
はーい、みんなー3人組つくってー
多くの物語では、キャラクターは1対1の関係を複数結ぶのではなく、いくつかのまとまりを作り、その内外での関係を扱うことで人間関係を表現しています
例えば『桃太郎』であれば、桃太郎の家来である3匹はグループ化されていますし、『シンデレラ』であれば、継母と2人の義姉がグループ化されているはずです
『メギド72』の場合、このキャラクターのまとまりとして「3人組」のグループが多用されています
3馬鹿……カスピエル・インキュバス・メフィスト
3人娘……アガリアレプト・サキュバス・リリム
白百合……プルフラス・サタナキア・オレイ
フルカネリ商会……フルカネリ・カンセ・セリエ
カジノ……ミノソン・グザファン・タナトス
古戦場……ヴェルドレ・マスティマ・アマイモン
……たしかに『メギド72』は登場人物が多い作品であるため、キャラクターをグループとして扱う手法は効果的に思えます
しかし、それだけであるならば、「ハックとマルチネ」、「ブネとブニ」などの「軍団長ー副官」の2人組や、4冥王の4人組などを多用することでも、解決するはずなので、3人組を多用するのには何か狙いがあると考えられるはずです
僕は『メギド72』が3人組というグループが多用している狙いとして「欠けを強調する」という側面があると考えています
たとえば、3馬鹿にはSAKEの4文字が割り当てられていますが、3人であるため「欠け」が生じています
また、白百合の3人は、アシュレイがサタナキアの研究成果を盗もうとしたことから関係が欠落し、三人の人間関係は「オレイーサタナキア」「サタナキアープルフラス」の2人2組の関係になっています
更に4冥王は4人組ですが、物語上の扱いとしてガープと、ガープの除いた3人に分かれて行動することが多く、こちらは変則的ではありますが、3人組によって「欠け」が強調されていると言えるはずです
「3つ」の世界
『メギド72』が「3という数字」を利用している例は3人組の多用だけではありません
物語の根幹となる、輝界ハルマニア・宵界メギドラル・臨界ヴァイガルドの3つの世界が存在するという設定でも、「3という数字」が利用されています
もちろん、3つの世界がある……という設定は過去のソシャゲで多用された施策の名残り……として受け止めることも出来ます
過去のいくつかのソシャゲではユーザーは3つの陣営、天界、魔界、人間界のいずれか1つに属することがありましたし、そうでなくてもソシャゲに登場するカードは3つの属性値を持つことが多く、いわゆる3すくみ(じゃんけん)の関係であることがほとんどです
ただ、ここで少し気になるのは、『メギド72』では3すくみの属性値として、やや変則的な3つのクラスや3つのスタイルが登場している点です
陣営や属性値を「3という数字」に統一させ、複数種類も登場させているということが、過去のソシャゲで多用された施策の名残りに由来している……だけではない証拠であるように、僕は感じます
むしろ「3という数字」を登場させるために過去の施策の延長線上にあるかのような陣営・属性値を考え出した……とさえ思えるはずです
ファティマ第3の予言
「3という数字」に関して、重要な要素としてメインストーリー104話・1・ENDに登場した「ファティマ第3の予言」の存在があります
オカルト好きや、都市伝説好きの人は知っている方も少なくないと思いますが、この「ファティマ第3の予言」は、ファティマという土地に聖女が現れた、と教会が公的に認めた出来事が由来となっています
私たちの世界における3つの予言は、
死後の世界の実在
第一次世界大戦の終結と勃発
(当初は秘匿された予言)教皇の暗殺未遂
の3つで、1つ目と2つ目の重要度に関して、3つ目は規模が小さく、また長い期間秘匿されていたことから、様々な憶測を呼び、サブカルチャーの文脈でこの「ファティマ第3の予言」は度々引用されています
一方で、『メギド72』の物語における3つの予言は、
空に光る3つの大きな星が現れ、ハルマが飛び回り、ヴァイガルドは恐ろしい戦争に巻き込まれる
大きな戦争の後に、ハルマが一部のヴィータをハルマニアへ移動させ、ヴァイガルドを滅ぼす
若き二人が並び立ち、反発する力をが互いを求め手を取り合うとき、ハルマがヴァイガルドを滅ぼすことを覆せるかもしれない
の3つで、この内、既に2つ目の「ハルマが一部のヴィータをハルマニアへ移動させる」ーーエクソダス計画までは既に実行されています
ここで重要なのは、やはり3番目の予言でしょう
(「若き二人」・「反発する力」というのは2項対立の関係にある存在だと考えられます)
2度あることは
これまでは『メギド72』という作品の中で「3という数字」が直接的に登場いている事を確認してきましたが、ここからは物語の展開の面において重要となる『メギド72』での「3回の繰り返し」表現について扱っていきたいと思います
サンドパン
『メギド72』の物語はいくつかの繰り返し表現について「2回目」の繰り返しを終えた所である可能性があります
これはメインストーリーについて考えてみると分かりやすいかと思います
例えば、メギドラルへ(一時的にヴァイガルドに移動するケースを無視します)訪れている回数は、8話・46話・61話の3回となっています
一方で、ハルマニアへの移動は11話・125話の2回であり、これが「3回の繰り返し」であるならば、もう1度、ハルマニアへ訪れる可能性を残しています
また、この「2回目」の繰り返しを終えた所である可能性について考える際に、重要な演出として号泣が挙げられます
『メギド72』では繰り返し涙というモチーフが使われていますが、特に強調されているのは暗転からの号泣表現です
まず、46話・4にて、メギドラル(異世界)でソロモン王の号泣する立ち絵が表示されています
一方で、これと同様の演出として、125話・6で、ハルマニア(異世界)でシバの女王の号泣する立ち絵が表示されています
また他にも、さきほど例に挙げた「ファティマ第3の予言」では、「反発する力をが互いを求め手を取り合うとき」と条件が示されていましたが、このソロモン王とシバの女王が手をつなぐ表現が「3回の繰り返し」であると考えるならば、「2回目」の繰り返しを終えた所である可能性があるのではないでしょうか?
物語の終わりを意味しない
『メギド72』の物語が「2回目」の繰り返しを終えた所であるとした場合に、「3回目」の繰り返しはどのような効果を持っているのか考えてみたいと思います
「3回の繰り返し表現」はおおよそ以下の3種類に分類することが可能です
等価……3つの繰り返しが等価の関係にある(例:『桃太郎』の3匹の家来)
増大……繰り返し毎に難易度・激しさ・報酬などが増大し、3回目に頂点に達する(例:『三匹の子豚』の家の材料)
変化……2回の繰り返しは同等の結果で、3回目に否定的・肯定的結果が生じる(例:『シンデレラ』のガラスの靴を履く場面)
これらの3つはそれぞれ違いがあるものの、その結果として物語に大きな変化を与える点で共通します
物語に対して与える大きな変化を描こうとするわけですから、(『千夜一夜物語』が顕著ですが)「3回の繰り返し表現」はそれまでの2つよりも文章の量が長くなりやすい傾向があります
更に言えば、「3回の繰り返し表現」の「後」が存在する昔話も少なくありません
例えば『三枚のお札』では、小僧が3枚のお札の力を使って山姥から逃げ出そうとして、3回とも失敗しますが、その後、山姥は和尚にそそのかされて豆に変身して食べられていますし
また、『ロシア民話集』に収録されている『カエルの皇女』では、3人の王子の結婚という「3回の繰り返し」が序盤に行われ、その後「王様の3つの願い事を叶える」という形で、再び「3回の繰り返し」表現が行われています
更に、私たちになじみ深い『桃太郎』でも、三匹の家来を得た後に桃太郎は鬼ヶ島へ向かい、鬼を成敗し、そしてハッピーエンドを向かるはずです
このように、「3回の繰り返し表現」は、あくまでも物語の途中における技法でしかないのです
ですから、『メギド72』の物語が繰り返しの途中にあるとした場合、まだまだ物語は続いていく可能性があるはずです
(ポケモンSVのストーリーでも3つの試みの後が描かれています)
その変身をあと2回もオレは残している・・・その意味がわかるな?
『メギド72』と「3回の繰り返し表現」について考えた場合に、他に重要であると考えられる点として「リジェネレイト」があります
メギドのスタイルは3種類あり、現状登場しているのは、初回召喚時の姿と、リジェネレイトした姿の2種類までです
これまで確認してきたように、『メギド72』が「3回の繰り返し表現」を重視しているのであれば、見た目上の変化を伴うことのない「召喚(契約召喚)」、メギドの魂の揺らぎによって成立する「リジェネレイト」とは別の、3つ目の召喚が成立しうるはずです
ここで興味深いのは、リジェネレイトという現象が、その名前に特別な意味があると考えられることです
ミルトンの『失楽園』におけるリジェネレイトの表現に由来すると考えるのであれば、『復楽園』にちなんだ表現によって名前が付けられる可能性があると思います
具体的には……わかんないけど……ほら……アナスタシスとか……なんか……こう……メギドという種が死に打ち勝つ……みたいな感じで……
※アナスタシス/Anastasis……ギリシャ語で「立ち上がる」ことを意味する。キリスト教では、キリストと人類の復活を指す
感想
ということで、今回は『メギド72』が「3という数字」をとても重要視しており、それは童話や聖書などに基づいているからかも、というお話をさせてもらいました
雰囲気というか、全体的な流れとして、『メギド72』って「3という数字」をたくさん出してるんだな~〜とか、「3回の繰り返し表現」してるかもな~〜みたいな感覚を掴んでもらえたら嬉しいです
僕がこのタイミングでこのnoteを書きあげようと思ったのは、なんとなくこの辺りの工夫が見落とされていて、「物語が終わる」ような受け止められ方をしてる方が、すこし見受けられたからです
もちろん、「物語が終わる」可能性がゼロなわけではなく、現状のストーリーは佳境を迎えており、なんとなく終わっちゃいそうな感覚がある……というのは分からないでもないです
その上で、物語が今後どうなっていくのかを見守っていく上で、「3という数字」や「3回の繰り返し表現」について注目するには、実はちょうどいいタイミングなんじゃないかな~〜って思って書き上げました
まぁ、僕が勝手に注目してるだけで、全然そんなことはないって可能性もゼロじゃないですけどね……
また、今回扱った「3という数字」にまつわる表現や「3回の繰り返し表現」は様々な場面で見つけることが出来るので、『メギド72』以外の作品でも注目してみると、意外な発見が出来る……んじゃないかな~~
今回扱った題材は、その特性上、曖昧な部分(「何」を同じような行動・表現として定義するべきなのか?が曖昧な上、なぜ3回の繰り返しをしているのかを断言しづらい)に頼っているので、どうしても歯切れが悪くなってしまうのですが……上手く内容が伝わっていたら嬉しいです
……あと完全に余談ですが、今回は題材と関係ないので扱っていない、数字に関する工夫の話になるのですが、体温計の温度や時計の針を利用して、聖書の一節を引用するという、マニアックな奴を探すのが僕はめっちゃ好きです
聖書の一説はX章Y節という、2つの数字の組み合わせなので、温度や時計で表せます
35度9分なら、35章9節、12時31分なら12章31節という形です
どの聖書から引用されているのかは直前のセリフやその他の小物で示されることが多いです
あとは時計だとAMは『使徒言行録/Acta ApostoloruM』の時があります
たま~~~にクリティカルに見つかってテンションが上がるので、時間があるときに、映画とか本を読むときとかに気にしてみると面白いと思います
今回はメギドの物語における3回化/Treblingの話を扱ったので、V. Proppの31の機能分類・7つの行動領域と『失楽園』みたいな側面からメギドをみる、とか、構造主義とか間テクストってなに?みたいな話が出来たら良いのかな?って思ってます(全く書けてないので未定ですが……)
なにか気になった点・分からないこと・聞いてみたいこと・話してみたいことなどがございましたら、どんな小さなことでも構わないので、マシュマロやXのDM・リプライなどを送ってもらえると嬉しいです!
最後に、今後の考察活動の参考にしたいため、アンケートのご協力をお願いしています!!
下記のグーグルフォームを送信してもらえると嬉しいです
基本的には数字を選択する5分程度で終わる簡単なアンケートなので、ぜひ回答してもらえると嬉しいです(メールアドレスの収集なども行っていないので、純粋に感じたように回答してもらえたら嬉しいです)
それではまた、別のところでお会いしましょう
コンゴトモヨロシク……。
参考文献
・『メギド72』
ストーリーおよび、スクリーンショットを引用しています
・『桃太郎』
ポプラ社の世界名作ファンタジーの『桃太郎』を参考にしました
・『三匹の子豚』
日本語テキストとしてブティック社のせかいめいさくシリーズの『3匹の子豚』を参考にしました
・『白雪姫』(KHM53)
日本語テキストとして長岡書店の世界名作アニメ絵本シリーズの『白雪姫』を参考にしました
原文(KHM53)はウィキソースを参考にしました
・『シンデレラ』
日本語テキストとしてブティック社のせかいめいさくシリーズの『シンデレラ』を参考にしました
・『花咲か爺さん』
ブティック社のせかいめいさくシリーズの『花咲か爺さん』を参考にしました
・『ヘルメースときこり』
……日本語テキストとして金の星社のアニメせかいの名作シリーズの『イソップものがたり』に収録されている「きんのおの、ぎんのおの」を参考にしています
・口語訳聖書
1955年・口語訳聖書を参照しています
・『失楽園』
『失楽園』の日本語テキストとして岩波文庫の平井正穂訳を参考にしました
・『Paradise Lost』
『失楽園』の英語テキストとしてダートマス大学ミルトン読書室を参考にしました
・Morphology of the Folktale(V. Propp『昔話の形態学』)
……昔話における三回化(trebling)などについて参考にしています
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