記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

初心者の方にこそ知ってほしい『メギド72』の感情をより深く理解するために重要な表現

今回のnoteでは『メギド72』に見られる周辺環境を利用した心理的な表現に注目することによって、『メギド72』の物語がどのように私たちに感動を与えようとしているのかについて、考えてみたいと思います。

このことを意識することで、『メギド72』が表現したいことがより明確になると同時に、その工夫を意識することで、キャラクターの心理により深く寄り添うことが出来るようになると考えています。

各イベントで行われている工夫について紹介しているので、ぜひ最後まで読んでもらえると嬉しいです。

さて、そもそもの話になるのですが、物語の中でキャラクターの内面について表現したい場合、文章やセリフ、動作だけでは伝えたいことが伝えきれない場合があります。

こうした場合に利用されるのが、周辺環境を利用するという手法です。

言葉によってキャラクターの複雑な感情を表現することは難しいので、周辺環境が変化していく様子を描写することで、その環境が変化していくの様子によってキャラクターの内面が変化していく様子を比喩的に表現する、というわけです。

こうした表現の中でも、特に多く見られるのは天候を利用する方法です。

感情の荒ぶる様子を嵐によって表現したり、深い悲しみを雨で表現したり、あるいは悲しみが希望に変化していく様子を雨上がりで喩えたりという表現がなされます。

雨の降っている様子とキャラクターの泣いている様子が「水が落ちる」という点で一致しているため、キャラクターの感情が読み取りやすくなる

こうした表現はアニメーション作品や、漫画、地の文が存在する小説作品などに多く見られ、一方でリッチな表現に乏しいテキストベースのゲームではあまり見られない手法です。

テキストベースで物語が進行していく『メギド72』もまたその例にもれず、比喩的な方法での感情表現は難しい環境にあります

というのも『メギド72』は地の文が基本的には存在せず、また物語が会話によって進行するため、基本的には内面の吐露に関してもセリフで行うしかありません

一部キャラクターに表情差分があるとはいえ、複雑な心理的な表現をするにはシステム上では困難が伴うと考えられます。

しかし、私たちが実際に『メギド72』の物語を読んでみると、キャラクターの持っている、簡単には言葉にすることが出来ないような、複雑な内面を読み取ることが出来るはずです。

これは別にキャラクターが自分の内面を長々と吐露するような表現が行われている訳でもないですし、逆に表現の中で全く行われていないことを読者が勝手に読み解いてしまっている訳でもないと思われます。

では一体どのような方法で、『メギド72』はキャラクターの複雑な内面を表現しているのでしょうか?

僕はそれを可能にしている表現方法の一つに「周辺環境の利用」があると考えています。

先ほど例を挙げた天候と感情をリンクさせる表現は『メギド72』ではあまり見られないませんが、周辺環境の利用というのは何も天候だけに限ったものではありません

場面が変化することで、つまり場所を移動する事によって内面を表現することが可能だからです。

ということで、今回はその場面の移動……特に「地下空間へ移動する」表現による内面描写について考えていきたいと思います。

以下、メギド72イベントストーリー『ソロモン王誘拐事件・悪夢編』『美味礼賛ノ宴』についてネタバレがあります。ご了承ください。

それではやっていきます。

前提

以降『メギド72』のいくつかのイベントでの「地下空間へ移動する」表現による内面描写について考察していこうと思います。

ただその前に、皆様に考えていただきたいことがあります。

それは私たちの「本音」というものは、私たちの心のどこにあるのか?ということです。

多くの場合、「本音」は心の奥底、あるいは心のにある、というイメージがあるのではないでしょうか?

それこそ相手の心の奥底へ向かっていく様というのは「潜る」ことになるし、心の奥底に「潜んでいる」モノを探り当てるようなイメージがあるはずです。

少なくとも表面ではないイメージがあるはずです。

例えば、内面について、その表出している情報だけではつかみきれないという表現をするのであれば以下のような表現になるはずです。

「顔では笑っているけど、本当に彼は心の奥底から笑っているのだろうか?」

このように、私たちは本当の意味で心に描いている、脳で考えていることを全て外に向けて発信している訳ではなく、その心の複雑な変化というものが、人物の内面に隠されていることがあります。

このことから、表現の世界でも、内面について表現したい場合は、「内側に潜っていく」ような表現が行われることがあります。

地下空間は心の奥底と似た要素を持っているので比喩として利用されやすい

映画などでは、画面がズームされるような「奥に進んでいく」ような映像表現を利用したり(具体的にはキャラクターの内面に迫る場面において、その人物の顔に向かってジリジリとズームしていく表現などがあります)、実際に「地下へ下っていく」こともあります。

(「地下へ下ること」が内面の表現ではなく、人生の転落などの「落下」を表す場合もあるため、見極めが難しいですが、今回はその話は省略したいと思います。)

『メギド72』でもこうしたイメージを利用して、心の奥にあることを表現するために「地下空間」を利用しているのですが、『メギド72』では特に、ファンタジー作品であること、また文章を主軸とした表現であることを利用したダイナミックな表現が行われいると考えています。

『ソロモン王誘拐事件・悪夢編』

『ソロモン王誘拐事件・悪夢編』というイベントは、2010年に公開されたクリストファーノーラン監督の映画『インセプション』の影響を色濃く受けたイベントです。両者は

  1. 1人の人物の夢の中に潜って

  2. 潜在意識に「アイディア」を植え付けようとするが

  3. その最中に事件が起こる

という点で、物語のあらすじが一致しています。

映画『インセプション』では複数の人物がそれぞれ夢を層として共有し、それによって時間の流れと重力の強さが変化する映画でしたが、『ソロモン王誘拐事件・悪夢編』で重要な点はそこではありません。

『ソロモン王誘拐事件・悪夢編』は、映画『インセプション』の中で利用されたアイディアである夢の多層構造を利用して、(夢の層を心の層であるという共通意識を利用して)その多層構造を地下空間にみたて「ソロモンの心の奥底」を描いているという点に、メギドのイベントとしての独自性があります。

イベント中に登場したソロモンの夢は1層から3層に分かれていましたが、この際、移動する事を1層から2層への移動を「落ちる」、2層から3層への移動の際は「降りる」と表現されていました。

1層から2層からの移動
2層から3層への移動

こうした表現によって、ソロモンの夢という立体的な地下空間が読者の中に無意識的に作られ、ソロモン王の本心がより分かりやすくなると考えられます。

また、各階層に存在するソロモン王の別人格である「門番」は、ソロモン王の別人格であるが故に、主人公ソロモンが彼らの言葉に揺らぎ、そしてそれを否定することで、主人公ソロモンの本心がより強調されています。

特に、4章で夢の世界からヴァイガルドを目指して戻っていく際に、夢の三層で主人公ソロモンがヴァイガルドをハルマゲドンという脅威から守らなければならないと意識する場面は強く印象に残るように描かれているように思います。

ここで重要なことは「上層」であってもソロモンの決心は変わっていない、という点です。

心の奥底である3層でのソロモンの決心は、3層の門番(ソロモンの持つ別の側面)との会話の中で多少の揺らぎを見せていますが、2層、1層と表面的な状況になっても一貫しており、心の奥底であっても心の表層であっても、その考え方が一貫していることで、主人公ソロモンに一貫した考えがあり、ヴァイガルドを防衛したい、そして同時に元々敵対関係にあるはずの3人娘とも協力関係を結んでいたいという心の動きがあったことを表しているはずです。

また夢の中に登場する幻獣たちや、夢の世界が崩壊していく様子自体が、ソロモン王の持っている「ヴァイガルドを防衛しなければいけない」という本能にも似た強い意志が自分自身を現実へと引き戻そうとしている、と読むことが可能であり、イベント全体がソロモン王の内面を描いているはずです。

また、ソロモン王の無意識が排除しようとしている異物としてのアガリアレプト、サキュバス、リリムの三人とソロモン王の協力関係は、「敵対する存在に対しても、同じ目線に立って協力関係を持つことが出来る」というメギド72のストーリーにおける、最も大切にされているメッセージが、具体的な形をもって顕れているように思います。

たしかにこのイベントで起こったことは夢の中の出来事であり、覚醒によって失われてしまう思い出ですが、結果として、三人娘の作戦によって歪められようとしたソロモン王の「ヴァイガルドの滅亡を防ぐ」という決心はブレず、また一時的な協力関係であった三人娘との関係は、それ以降完全な協力関係へと転換しています。

このイベントは、とても大切なモノが失われてしまったとしても、そこで起こったことにはきっと意味がある……という人生に対する肯定をソロモン王の内面を多層構造の夢として描くことで読者に対して訴えかけているのだと思います。

……周辺環境の利用の具体例として一番最初に紹介するのには向かない、現実には存在しない地下空間の利用の話ではありますが、メギド72での地下空間とキャラクターの心理のつながりの強さを感じられるイベントであると思ったので、一番最初に紹介しました。

『美味礼讃ノ魔宴』

『美味礼賛ノ魔宴』イベントでは、地中の状況がオリアスやラウムなどの内情(生活習慣による内部的な不調・自身のありたい姿と、実際の自分の在り方に対する存在的な矛盾や、自責の感情)に喩えられて利用されていると考えられます。

表面的には現れていない、けれども実際にはその人物の内側に巣食っている状況を、環境の変化によってイメージしやすくなるように書かれている、と言えるはずです。

今回のnoteでは、ラウム=アルフォンソの内面と、地下空間の状況のリンクについて考察していこうと思います。

まず、ラウムはメギドラルではとても粗暴で問題のあるメギドであると考えられますが、ヴァイガルドでの転生によって生じたヴィータの両親から与えられた愛情と教育によって真っ直ぐなヴィータとして成長しているかのように外部的には観測されていました。

しかし彼の内面では、本来であれば善良な両親の無償の愛を受けるべき存在はアルフォンソという名の生まれてくることが出来なかったヴィータであり、彼はそのヴィータの魂を乗っ取り、上書きしてしまった、つまりアルフォンソを殺してしまったという罪悪感を抱えて生活していました。

その為ラウムは、このヴァイガルドで本来生活するべき存在はヴィータであり、自分たち追放メギドはその生活の中心から一歩身を引いて、わきまえて生活するべきだという価値観を抱えていました。

また、こうした背景から、自身が追放メギドとしてメギド72に所属し、活動していることを両親に伝えられずにいました。

表面的には良好な関係に観測されたとしても、彼自身はその内面の奥深くに問題を抱えており、そうした内面の問題が「食事(=メギドラルでの生き方)」によって顕在化したわけです。

このラウム君のメギド体での暴走や、モグラ(マグラ)によって生じた地下空間の利用は2つの側面から、ラウム=アルフォンソの心理状態を描いたとても秀逸な表現だと言えると考えています。

まず1つめが、アルフォンソという人物の魂が一体どんな状態になっているのかを地下空間の利用して表現していると考えられます。

外部から観測した場合、ラウムくんは、両親から見た場合は、何も変化のない、自分たちの子供「アルフォンソ」でした。

しかし、実際には「ラウム」によってその魂は吸収されており、蝕まれてしまっています。

この状況を「穴の開いた地形」で表している訳です。

これは地形の変化を引き起こしている原因がモグラ(モグラ型幻獣マグラ)であることと、アルフォンソという魂を蝕んでしまった存在としてのメギド「ラウム」のメギド体がモグラを元にデザインされているという共通点からも推理できるはずです。

また2つめは、ラウムという人物の内面がどんな状況になっているのかを地下空間の利用して表現していると考えられます。

ラウムはヴィータの両親から深い愛情を受けており、彼らに対して嘘をつくという事に対して、自責の感情を持っています。

また、同時にアルフォンソという人物を自分のせいで奪ってしまったということを罪の意識として抱えています。

外部から観測した場合、ラウムは素直な男性であり、問題点を抱えていないように思えますが、実際には、自分自身の心を殺して生きていると言えるはずです。

この状況もまた。「穴の開いた地形」で表している訳です。

こちらもまた、地形の変化を引き起こしている原因がモグラ(モグラ型幻獣マグラ)であることと、アルフォンソという魂を蝕んでしまった存在としてのメギド「ラウム」のメギド体がモグラを元にデザインされているという共通点からも推理できるはずです。

また、地形だけでなく、モグラ・マグラによるマトリョーシカもまた、イベントの特色です。

マトリョーシカをどれだけ開けてもそこに本質はなく、観測されるそれ自体がマトリョーシカであるのと同様に、ラウムという存在のことを、アルフォンソというヴィータを乗っ取った追放メギド→幻獣の発生を乗っ取ったメギドの魂→モノや生物に宿る形で生じた幻獣……という風に分けていっても、ラウムという存在の本質的は見つけることは出来ません。

このマトリョーシカ(多層構造)のモチーフはメギドの物語の中で繰り返し利用されています。

これは同時に、ラウムという転生メギドによって吸収されたアルフォンソというヴィータと、そのことを深く反省しているラウム君の地形を利用した心理的な表現とも重なるように思います。

また、そのメギド体の暴走を止める手段が「ヴィータとして生活していた頃に食べていたモノ」である点もこのイベントの面白い所だと思います。

食べたものによって自分という存在が作られ、そしてその経験の蓄積こそが人間性であると考えるのであれば、この食物連鎖・家族愛・モグラ・マトリョーシカという、一見つながりのないテーマたちにある種の共通項を見出すことが出来るからです。

そして、こうした表現技法を利用することで、アルフォンソという「言葉を発することのないキャラクター」の心さえもが明らかになり、その上、ラウムというメギドの抱える複雑な心理と、それを目の前にしてもなお、結果として親としての愛を貫き通す彼の両親の内面の気高さを読者は感じ取ることが出来るのだと思います。

感想

ということで「地下空間」という、普段の生活の中では観測できない領域へ実際に踏み込むことで、人の内面へと迫る、というメギドがイベントで繰り返し登場させているメタファーについて、それがどんな効果をもたらしているのかについて今回は考察してみました。

こうした表現は様々なイベントでも活用されていると考えられ、マトリョーシカ(多層構造)と地下空間が巧みに利用されることで、隠されたモノや感情を暴く表現が度々が行われているように思います。

全ての表現について僕だけで指摘することは実質的に不可能であり、またその表現の持つ効果については、僕以外の人は僕とは全く違った感想を持つはずです。

なので、各イベントについて、地形や、周辺環境という、物理的に表面に現れていることに対して、どのような効果を狙って表現が行われているのかについて、考えてみると、メギド72のストーリーをより深く楽しめると思うので、このnoteを踏まえた上で、メギドのテキストを読み直してみて下さい。

また、解説をする都合上、常設化済みのイベントかつ、イベント開催から時間のたったイベントにのみスポットライトを当てましたが、メインストーリーでの展開や、もちろん最近開催され、常設化されていないイベントでも、周辺環境を利用してその心理状態を白日の下にさらす表現が行われていると僕は考えています。

キャラクターの発露していない感情について、そのキャラクターの身体的な特徴の変化を利用して、心理的な状況を表したり、あるいは出来事の起こっている場所の持っている特徴が、そこにいる住人たちの言葉としては発せられない感情を表している……と考えてみると、メギドのストーリーやイベントで行われていることが、より分かりやすくなるはずです。

あくまでも僕の考察であるため、必ずしも真実とは言えないと思いますが、皆様がメギド72の持っている面白さの普段見えていない側面について考えるきっかけになったら嬉しいです。

さて、今後の考察活動の参考にしたいため、アンケートのご協力をお願いしています。

下記のグーグルフォームを送信してもらえると嬉しいです。

基本的には数字を選択する5分程度で終わる簡単なアンケートなので、ぜひ回答してもらえると嬉しいです。(メールアドレスの収集なども行っていないので、純粋に感じたように回答してもらえたら嬉しいです。)

アンケートの他にもなにか気になった点や、分からない、聞いてみたいことや話してみたいことなど、なにかございましたら、どんな小さなことでも構わないので、マシュマロXのDM・リプライなどを送ってもらえると嬉しいです。

また、僕は普段メギド72に関するナニこれ?!な考察を行っています。もし興味が少しでもございましたら他のnote記事や考察動画を視聴してもらえると嬉しいです。

それではまた、別のところでお会いしましょう
コンゴトモヨロシク……。

よろしければ、サポートお願いします! サポート費用は失楽園関連の書籍の購入に充てたいと考えています…!