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メギド72「リジェネレイト」についての考察

『メギド72』に登場する現象「リジェネレイト」は、伝統的な施策の文脈にありながら、命名されているという点で、他の施策とは決定的に違っているように思えます。

ではなぜ「リジェネレイト」は名前が付けられたのでしょうか?
また「リジェネレイト」という名前にはどんな意味があるのでしょうか?

本noteでは『メギド72』に登場する現象「リジェネレイト」と、ミルトンの『失楽園』に登場するRegenerateの表現との比較によって、「リジェネレイト」という名称にどんな思いが込められているのかを考察しました。

このnoteの内容を踏まえることで、『メギド72』に登場している「リジェネレイト」という現象と物語の関係をよりスッキリと整理することが可能となり、メギドの物語をより深く読み解くことが可能になるはずです。


ソーシャルゲームとリジェネレイトの関係

『メギド72』に登場するリジェネレイトは、既存キャラクターに新しいグラフィックなどを与えて、新規キャラクターと同様に追加する手法の1つです。

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リジェネレイトは伝統的な絵違い施策の流れにある

こういったキャラクターを再利用する施策は『メギド72』以前のソーシャルゲームでも見られる施策です。

ただ、『メギド72』以外のソーシャルゲームに見られるキャラクターを再利用する施策と、「リジェネレイト」には大きな違いが1点存在していると僕は考えています。

それが「名前」の存在です。

多くのソーシャルゲームに見られるキャラクターを再利用する施策は、個別の姿や、なんらかのグループに対して名前が与えられることはありますが、「姿が変化すること」自体に対しての名前が与えられることは、僕の知っている限り「リジェネレイト」以外では存在していません。

しかし、『メギド72』の「リジェネレイト」は名前が与えられているだけにとどまらず、ストーリー上もその現象が重要な役割を果たしています。

これまでのソーシャルゲームの中で名前が与えられることがなかったのに、それに似た施策に対して名前を与え、さらにストーリー上で重要な役割を果たしているということは、この「リジェネレイト」という名前にはきっと重要な意味が隠されているはずです

リジェネレイトという現象

現象「リジェネレイト」の名前について考える際に、その名前がその現象と一致していれば、考察の余地はありません。

なので、現象「リジェネレイト」がどんな現象なのか、再確認しておこうと思います。

メギド72に登場する現象リジェネレイトは、内面の変化をトリガーとしたソロモンの指輪による再召喚によって、身体・能力に変化が起こる現象のことです。

これはバルバトスによるリジェネレイトの解説や、【4周年】メギド質問箱などの記述を参考にしています。

英単語Regenerateとリジェネレイトの関係

「メギド72」に登場する現象リジェネレイトは、その名前からも明らかであるように英単語Regenerate(リジェネレイト/再生させる)に由来すると考えられます。

英単語Regenerateは接頭辞RE(再び・もう一度)と動詞GENERATE(発生させる)からなる単語で、①怪我が治る・②地域・団体が復興する・③(キリスト教的な観点で)改心するという3つの意味を持つ単語です。

この単語が持つ3つの意味は、1つのコアとなるイメージによって説明可能です。

それは欠けた部分が修復されていくイメージです。

しかしこれは先ほども確認した、メギド72に登場する現象リジェネレイトの持つ内面の変化をトリガーとしたソロモンの指輪による再召喚によって、身体・能力に変化が起こる現象という意味と近い関係にある……とするには少し無理があるように思えます。

サブカルチャーとリジェネレイトの関係

減少リジェネレイトに対して「リジェネレイト」という名前が付けられていることを奇妙だと考える理由「キャラクターを再利用する施策に名前が付けられた」という点だけではありません。

「リジェネレイト」という単語が、ダンジョン&ドラゴンズや、トレーディングカードゲーム、コンピューターゲームなどのサブカルチャーの文脈では、既に別の意味で利用されおり、既に使われているそのリジェネレイトと、メギド72に登場する現象「リジェネレイト」の意味が一致しているとは言い難いのです。

たとえばダンジョン&ドラゴンズに登場するRegenerate(リジェネレイト)はプリーストの呪文で、肉体の損傷を回復出来る呪文です。

ダンジョン&ドラゴンズ
…ルールブックとサイコロを用いて遊ぶ、ボードゲームの様な遊びの1つで、剣と魔法の世界を冒険する事ができる作品。

また、マジック・ザ・ギャザリングにも再生(リジェネレイト)という能力が登場しています。

マジック・ザ・ギャザリング
…トレーディングカードゲームの1つで、前述したダンジョン&ドラゴンズの影響を強く受けている。次元を渡る力を持った魔法使いとなって、モンスターを使役したり、魔法を唱えて対戦する。

この再生(リジェネレイト)は肉体的なタフさで死の淵から立ち直ることをイメージした能力で、場に出ている生物の破壊を防ぐ能力です。

またファイナルファンタジーなどに代表されるコンピューターゲームでは、ターン終了時に一定量回復する呪文や効果としてリジェネレイトが登場します。

これまで確認した、ダンジョン&ドラゴンズマジック・ザ・ギャザリングが、ファイナルファンタジーなどの例からも分かるように、サブカルチャーの世界ではリジェネレイトという単語は肉体の再生を想起させる魔法として、広く浸透した単語です。

以上のように、英単語regenerateの持つコアのイメージと合致しているとは考えづらく、またサブカルチャーの文脈では魔法や能力によって肉体の再生を行うイメージを持つリジェネレイトという単語を、似た施策が名前を付けていない中で使う……という点に関して違和感が生じるはずです。

キリスト教とリジェネレイトの関係

前章では、リジェネレイトに対して、特にサブカルチャーの分野において回復魔法のイメージがあることを、確認しました。


一方で、別の文脈として、遊興的な意味合いからこの単語の意味を考えることも可能です。

例えば、キリスト教に改心するという意味合いでregenerateという単語が使用されることがあります。

ただ、気になる点もあります。

あくまでキリスト教におけるリジェネレイトとは、キリスト教を信じることで、その内面が変化することを指すという点です。

メギド72におけるリジェネレイトとは、内面の変化をトリガーとして、ソロモンの指輪による再召喚によって、身体・能力に変化が起こる現象です。

もし仮に、キリスト教的な意味でのリジェネレイトを前提として現象リジェネレイトが生み出されたのだとした場合、ソロモン王への忠誠心や、信仰心の在り方に対する変化が中心にあるべきではないでしょうか?

しかし、実際には現象リジェネレイトはソロモン王との関係とは別に、より純粋に内面的な変化が起こった際に、引き起こされている現象に思えます。

英単語としての意味としては合致しているとは考えづらく、サブカルチャー的に見た場合は別の意味で既に使われており、ましては宗教的な意味合いとも違ってくるとなると、この現象に対してこのリジェネレイトという名前が付けられたことは非常に奇妙であると言わざるを得ないはずです。

さて、ここで僕が注目したいのがミルトンの『失楽園』に登場するリジェネレイトという表現です。

リジェネレイトと『失楽園』

ミルトンの「失楽園」は、聖書の物語を題材とした叙事詩です。

メギド72がこれら作品の影響を受けている、と言う点についての詳細な指摘は、膨大な説明が必要となるので今回は割愛します。

(こちらの記事を参考にしてください → https://note.com/72corre/n/nf5c55e7cd067  )

さて、失楽園の中でRegenerateという単語は11巻一度だけ現れます。

for from the Mercie-seat above
Prevenient Grace descending had remov'd
The stonie from thir hearts, & made new flesh
Regenerate grow instead

天上の恵の座から
※先行的恩寵 が降りてきて、
彼らの心から石のような頑なさを取り除き、
生まれ変わりの新たな肉を生じさせた

※Prevenient Grace/先行的恩寵 
…複雑な概念なので説明は避けます。
今回は「人間の意思よりも先に生じる神の救い」
と考えてください。

ミルトン『失楽園』book11

これは、アダムとエバが自らの罪を自覚したことで、文字通り生まれ変わった事を表した文章です。

しかし、これだけではサッパリ意味が分かりません。
メギドとの関連点以前の問題です。

そこで、ミルトンがRegenerateについて語っている別の文献を当たりたいと思います。

それが「キリスト教教理論」です。

この中でRegenerateは、章を1つ費やして説明が行われています。
中でも冒頭にRegenerateとは何か?を端的に表した表現があります。

The intent of supernatural renovation
is not only to restore man
still more completely than before 
to the use of his natural faculties,

as regards his power to form right judgement,
and to exercise free will;
but to create afresh, as it were, the inward man,
and infuse from above new and supernatural faculties into the minds of the renovated.
This is called regeneration, and the regenerate are said to be PLANTED IN CHRIST.

ミルトン『De Doctrina Christiana 』

(拙訳)
人間を回生させようという神の意図は、
正しい判断力と、自由意志を駆使しようとする
人間本来の能力を、
以前よりも増して回復させるだけではなく、

その内的人物を新たなものにして、
その新しい人に
新たな神的な能力を与えようとします。
それはリジェネレーションと呼ばれ、
その過程のこと(Regenerate)は
「キリストの接木」と呼ばれるのです。

ミルトン『De Doctrina Christiana 』

つまり、ミルトンの考えるRegenerateとは、神の意図によって、人間本来の姿、(正しい判断力と自由意志を駆使出来る状態)を取り戻し新たな人格を生じさせて、その上で、新しい能力を獲得させる、その過程にある、という事だと思います。

これは、少なくとも、サブカルチャーの世界で共有されている回復魔法のイメージや、キリスト教的な生まれ変わりよりも、メギドのリジェネレイトに近いはずです。

更にミルトンは次のように続けています。

REGENERATION is THAT CHANGE OPERATED BY THE WORD AND THE SPIRIT,
WHEREBY THE OLD MAN BEING DESTROYED,
THE IN-WARD MAN IS REGENERATED BY GOD AFTER HIS OWN IMAGE,
IN ALL THE FACULTIES OF HIS MIND,
INSOMUCH THAT HE BECOMES AS IT WERE A NEW CREATURE,
AND THE WHOLE MAN IS SANCTIFIED BOTH IN BODY AND SOUL,
FOR THE SERVICE OF GOD, AND THE PERFORMANCE OF GOOD WORKS.

拙訳
リジェネレーション
神の言葉と精霊の力が作用して、
それにより古い人格を破壊し、
その内的人物は、全ての意思の力までも、
神の意図するとおりに
生まれ変わらされるのです。
それは新しい生き物になったようなもので、
その人物の全身は、
肉体と魂の面で神聖なものとなり、
神に仕え、善き業を行うものになるのです。

内面から生まれ変わって、全く別の新しい生き物のように変化する、というのはリジェネレイトの説明としても妥当なものに思えます。

これら二つの文は、決定的な根拠とは言えないかもしれませんが「失楽園」、「キリスト教教理論」の影響を受けてリジェネレイトという概念が生じた、と予想する事が不可能ではない、程度に関連している様に思えました。

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仮にそうだとすると、ミルトンの考えるRegenerateと、メギドのリジェネレイトには、共通する本質があるように思います。

それは、外部的要因によって自己のあり方を取り戻すという点です。

例えば「失楽園」では、アダムとエバは、Satanによって堕落させられましたが、(先行的恩寵により)反省して、アダムとエバにとっての本来の姿神に従う態度取り戻しています。

一方で、メギドのリジェネレイトは転生や、ヴァイガルドでの生活によって、魂としても肉体としても変化した魂が、自らのあり方取り戻して、ソロモンの指輪というsupernatural/超自然的な力によって、リジェネレイトしています。

6.総括

では、メギド72失楽園影響を受けている為に、回復魔法のイメージと被ったとしても、リジェネレイトという名前を選択したのでしょうか?

断言は難しいのですが、僕は、そうだと考えています。

というのも、先程挙げた共通する本質外部的要因によって自己のあり方を取り戻すについて、リジェネレイトした理由が明確に描かれていないメギド、例えば、ゼパルCモラクスRなどに当てはめてみた場合に、的を射ている表現に思われるからです。

また、ミルトンは「失楽園」だけではなく、「復楽園」や、「闘士サムソン」でも、「Regenerate」を描いています。

それらの作品について更に深く読むことで、第3のリジェネレイトについても、見えてくるかもしれません。

これがリジェネレイトという単語に対する僕の見解です。楽しんでもらえたなら嬉しいです。

もしよろしければ感想などをツイッターのDMや質問箱などに対して送ってもらえると嬉しいです。

追記

メギド72』2021年12月30日に4周年を記念して公開されたメギド質問箱にて、リジェネレイトについての解説がありました

※本noteは2021年10月12日に公開されたnoteを一部推敲したモノである点に留意ください

この現象をたとえるなら、ブロックトイで組み立てられた複雑な模型を一度バラバラに分解して、もう一度組み上げるようなものです。
そうした場合、材料がすべて同じだったからといって元の形と全く同じになっているかどうかはわかりません。
全く同じ形にするためには「設計図」が必要なのです。
ソロモンは指輪を使って、召喚対象の身体を分解し、再構成させることができます。
先述した通り、これがリジェネレイトという大掛かりな現象です。
この際、「設計図」となるのは、召喚対象の「魂」そのものなのです。
もしも召喚対象が自身の魂を少し違ったものと認識してしまったらどうなるでしょう?
特に、魂に衝撃を受けるほどの出来事があった直後や、死にかけて魂そのものが消えかけてしまった状態からの召喚だったとしたら…?
リジェネレイト後にメギドたちの姿がちょっと変わってしまうのは、再構成の際に参照した設計図、つまり魂にほんのちょっと変化があったからなのです。

メギド質問箱


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謙虚な気持で自らの罪咎を告白して許しを乞い、いささかも偽りのない悲しみと柔和な謙虚のしるしとして、悔いた心から迸り出る二人の涙で地面を潤し

ミルトン『失楽園』book10

ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました

それではまた、別のところでお会いしましょう
コンゴトモヨロシク……

参考文献

ダートマス大学 ミルトン読書室
…ミルトンの著書について参照しました。

De Doctrina Christiana
(A Treatise on Christian Doctrine)
…「キリスト教教理論」について参照しました。

The Forgotten Realms Wiki
…D&Dの「regenerate」について参照しました。

Mtg wiki
…Mtgの「再生」について参照しました。

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