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天才ルイス・ブニュエル×完璧な美カトリーヌ・ドヌーヴ『哀しみのトリスターナ』

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あの傑作『昼顔』(1967年)に続いて作られたルイス・ブニュエル監督によるカトリーヌ・ドヌーヴの文芸映画。ベニト=ペレス・ガルドスの小説を映画化。下級貴族の好色爺さんドン・ロペ(フェルナンド・レイ)が、両親を亡くした16歳の美少女トリスターナ(カトリーヌ・ドヌーヴ)を養女として育てることになったが、親代わりだったはずが男としての欲望を抑えられず、妻として関係を持つようになる。この頃のドヌーヴの美しさは比類がない。無敵の美しさだ。

その男ロペの生首が鐘楼に吊り下げられている悪夢をトリスターナが見て目が覚める。それを親のように優しくベッドで介抱しつつ、トリスターナのはだけた胸元にチラッと視線をやるフェルナンド・レイのスケベぶりも上手い。

次第に爺さんの束縛に耐えきれなくなったトリスターナが使用人のサトゥルナと街を歩き回るようになる。親のままだったら尊敬できたのに・・・と愚痴も多くなり、ロペの室内履きの扱い方でトリスターナの感情を表現している。(ロペの室内履きは最後はゴミ箱に棄てられる)。そしてカトリーヌは画家のオラーシオ(フランコ・ネロ)と出会う。ネロ爺さんの嫉妬も若い男女の恋の力には叶うはずもなく、二人は家を出て新生活へ。街を出て行く列車の別れのシーンだけ描かれ、二人の新生活は一切描かれない。

映画はここからが見せ場。二年ぶりにこの街にトリスターナが戻って来てると聞いてロペが会いに来る。オラーシオが街を出る前にロペを殴ったかつての非礼を詫び、「彼女は脚の病に冒され、死ぬならばあの家で死にたい」と言っている、と伝える。使用人のサトゥルナに小躍りして「取り戻したぞ」と喜びを告げるロペ。トリスターナのためにピアノを買い、万全の準備で家に迎える。しかし、病気は片脚を切断しなければなないほど進行しており、トリスターナの格は足切断とともに傲慢なものに変わっていく。ジョパンの「革命」を激しく弾きながら、見舞いに来たオラーシオへの態度も冷たい。優しく世話を焼くロペにもどんどん尊大になっていくトリスターナ。この映画は、16歳の少女から心理的に変わっていくトリスターナの変化が見どころだ。舞台はずっとロペの部屋の中が中心だ。

やがて神父の助言に従ってロペと結婚するトリスターナだったが、初夜のベッドは別々のまま。ヒゲを整えて香水をつけて期待していたロペはガックリ。こういう細かい演出が効果的だ。さらに、聾唖者のサトゥルナの息子にバルコニーから裸の胸を見せる場面のトリスターナの的な大胆さも描かれる。権力の力関係と的な関係を常に描いてきたルイス・ブニュエルの真骨頂だ。最初の頃、ロペは下着姿だと威張れないのに、ヒゲを整え、服を着て身なりを整えると急に威張りだすと、トリスターナが嫌味を言う場面がある。人間は権力を纒うと尊大になる。

そして身体的な障害と自由の問題。聾唖者の少年の不自由さとへの好奇心、トリスターナの義足のエロティシズム。スペインの路上で投石して抗議する市民たちが馬上の警備人たちに鎮められる場面も描かれている。自由への表現と権力の鎮圧。ブニュエルの場合、自由と不自由の相克を、的な倒錯も入れながら不条理な展開で描いて見せる。何度も挿入されるトリスターナの義足のカット。SM的な権力関係の逆転。この映画では、受動態に家に閉じ込められていたトリスターナが、家を飛び出して自由を手に入れたはずなのに、再び病気で家に戻ってきてしまう。まさに、ブニュエル的な空間の呪縛(『ビリディアナ』『皆殺しの天使』)。しかし、その呪縛の中で、身体的な自由を奪われ、トリスターナは変わる。ラスト、ロペの死を見殺しにするまでの悪女へと変貌するのだ。

トリスターナが無邪気に路地を選ぶささやかな自由は、希望への道につながったのか?彼女は自身で道を選んだことで、オラーシオに出会えた。たとえ、それが別れることになったとしても、主体的な選択だった。

このロペという下級貴族もまた、路地で盗んだ少年を逃がしてやりながら、「権力を振りかざすものから弱者を守るのが私の使命だ」などと言っている男だ。労働を軽蔑し、信心深くなく権力者も嫌う。それが簡単に男女関係では権力者になってしまう矛盾も描いている。

人間の自由と欲望、叶えられない自由と身体的な不自由。障害と老い、または死。さらに空間的な呪縛、制約。そして矛盾。そんな呪縛と相克の中で葛藤する赤裸々な人間を、ブニュエルはここでも描いている。

1970年製作/100分/G/スペイン・フランス・イタリア合作
原題:Tristana
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム

監督:ルイス・ブニュエル
製作:ルイス・ブニュエル ロベール・ドルフマン
原作:ベニト=ペレス・ガルドス
脚本:ルイス・ブニュエル フリオ・アレハンドロ
撮影:ホセ・F・アグアーヨ
美術:エンリケ・アラルコン
音楽:クロード・デュラン
キャスト:カトリーヌ・ドヌーブ、フェルナンド・レイ、フランコ・ネロ、ローラ・ガオス、ヘスス・フェルナンデス、アントニオ・カサス、ビセンテ・ソレル、ホセ・カルボ、フェルナンド・セブリアン

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