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クリストファー・ノーランのデビュー作『フォロウィング』~時間を前後させるスリリングな展開力がお見事~

画像(C)2010 IFC IN THEATERS LLC

『オッペンハイマー』のクリストファー・ノーランの1998年モノクロ長編デビュー作。25周年・HDレストア版が劇場公開された。まぎれもなくクリストファー・ノーランの原点とも言える作品だ。過去と未来の時間を前後させ、観客を戸惑わせ混乱に陥れながら、最後に辻褄を合わせていくストーリー展開が見事だ。グイグイと観客を最後まで引っ張っていく作劇。時間が逆行する『テネット』にも通じるし、『ダークナイト』『ダークナイト ライジング』などの人気シリーズのエンタメ的演出力、夢と現実が交錯する『インセプション』など、観客を複雑な時空間の混乱に陥れ入れるエンタメ映画がノーランの得意技だ。

作家志望の男ビルは街中で気になった人物を尾行する趣味を繰り返している。女性ばかりではなく、気になった人物の後をつけて家や職場を突き止めて終わり。二度と同じ人物を尾行しない、夜道で女の後をつけないというルールを自ら作って街を彷徨っていた。それがある日、尾行していることを男に気づかれてしまう。その男コップは、自ら他人のアパートに不法侵入し、たいした物も取らずに私生活を覗き見る好奇心に憑りつかれている男だった。二人は一緒に部屋の不法侵入を繰り返す。盗んだ下着を別の部屋に置き、男女の喧嘩のタネを作って喜んでいるコップ。帰ってきた住人とある時出くわすが、不動産屋に紹介された部屋の下見だと言って誤魔化す。盗んだカードで偽のサインをして豪華な食事をしたりもする。

物も取らずに部屋に忍び込む話は、村上春樹の『女のいない男たち』内の短編『シェラザード』がそうだった。人の生活を覗き見たいという好奇心は誰にでもある。探偵モノ、尾行モノが昔から人気なのも、その好奇心からだ。ポール・オースターのニューヨーク三部作の『ガラスの街』や『幽霊たち』も少し思い出した。誰かが誰かを尾行し、監視する。監視していくうちに、その誰かに成り代わるような不思議な話。この映画も、誰が誰だか分からなくなる面白さがある。誰が誰を騙し、誰が騙されてその術数にハマっていくのか。そのへんが実にスリリングに描かれている。

未来が先に示され、過去に遡ることでその行動の意味が分かってくる。マリリン・モンローが貼ってある同じ部屋、タイプライター、女の写真、下着、片側のピアス、玄関マットの下の鍵。同じ場所が何度も出てくるし、そこで繰り返される別のこと。怪我している男はなぜ怪我をしたのか?同じ人物が髪を短くさせて登場し、同一人物なのか?と混乱させる。謎の女が男を誘い、ハンマーが何度も使われる。盗んだ札束を身体に貼り付けるのは、何かの映画のオマージュだったか?謎が次々と展開しつつ、その謎が明らかになり、騙されるような物語展開を楽しむ映画だ。


1998年製作/70分/イギリス
原題:Following
配給:AMGエンタテインメント

監督・脚本: クリストファー・ノーラン
製作:クリストファー・ノーラン、エマ・トーマス、ジェレミー・セオボルド
製作総指揮:ピーター・ブロデリック
撮影:クリストファー・ノーラン
美術:トリスタン・マーティン
編集:ギャレス・ヒール、クリストファー・ノーラン
音楽:デビッド・ジュリアン
キャスト:ジェレミー・セオボルド、アレックス・ハウ、ルーシー・ラッセル、ジョン・ノーラン

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