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映画『メリちん』吉田恵輔~ダメ人間たちの愛すべき再会~

『ミッシング』公開で話題の吉田恵輔監督の自主製作時代に手掛けた監督第2作をWOWOWで放送。有名な役者は誰も出ていない。それでも面白かった。人間の情けない弱い部分を描くのが得意な吉田恵輔監督の実力が感じられる。

幼い頃からの3人の微妙な関係がベースにある。暴力的ないじめっ子タラちゃん(仁志原了)が上京してから10年ぶりに故郷の田舎町に帰ってくる。ベンツに乗って。いかにもチンピラでガラが悪そうな装い。派手なシャツにヒゲとサングラスとネックレス。自転車に乗る女マチ(後藤飛鳥)に声をかける。汗に濡れる服を見つめるイヤらしい目線。もう一人の幼なじみ「メリちんはどこだ?」と聞く。たまたま酒屋店で働くメリちん(カオティック・コスモス)の車とすれ違い追いかける。

『純喫茶磯辺』『さんかく』『ばしゃ馬さんとビッグマウス』『愛しのアイリーン』『BLUEブルー』『空白』など、吉田恵輔作品は気になって結構観ている。どれも佳作が多い。微妙な人間関係が少しずつ崩れていったり、ダメな人間のどうしようもなさを描くのが上手いのだ。初期作品はダメさを笑いに持って行っていたが、最近はハードな悲劇的ドラマが多い。

子供の頃の思い出は、誰もがいい思い出ばかりという訳ではない。イジメられた嫌な思い出、仲間外れにされたり、思い出したくないトラウマもあるだろう。気が弱いメリちんにとって、タラちゃんは敵わぬイジメっ子だったのだろう。一緒に遊んでいたマチにオシッコをさせて見ていたタラちゃん、二人のその光景がメリちんには忘れられない。メリちんは今はマチと性的関係を結ぶ一歩手前のところまで行っているのだが、マチは最後のところは許してくれない。そんな二人の関係を隠して、故郷に戻ってきたタラちゃんを迎え、一緒に遊ぶ。思い出の川や幽霊屋敷、そして神社の境内。田んぼに並ぶ外国人の案山子が不気味だ。

役者になったと言っていたタラちゃんは、Vシネにチョイ役でしか出ていなくて、AV男優で立たなくなって使いものにならずに帰って来たらしいことがわかる。それでも強がるタラちゃん。幼なじみの頃の関係がそのまま繰り返される。そんなタラちゃんが嫌で嫌でしょうがないのに、何も言えないメリちん。「早く帰れ!帰れ!」という思いをマンガの絵日記で秘かに描くメリちんだったが、それをタラちゃんに見られてしまう。そもそもあだ名になっている「メリちん」とは、ちんちんがめり込んでいるように見えて馬鹿にされた思い出からつけられた嫌な名前なのだ。メリちんは、「そのあだ名で呼ぶのをやめてくれ」と何度も言うのだが、タラちゃんは聞き入れてくれない。

昔の幼なじみと楽しく過ごそうと傷ついて故郷に戻ってきたタラちゃんだったが、メリちんの本音を知って落ち込む。マチはどこかひょうひょうとタラちゃんと接していたが、メリちんの本音を知って暴力的になるタラちゃんに襲われそうになる。マチのヨガに迫るシーンは逆に怖い。そして神社の境内で襲われそうになり泣き出してしまう。そんな泣き出すマチを守ってやれないメリちんは、最後にタラちゃんにブツかっていく。何度も何度も跳ね飛ばされながら。3人の間で事件が起きるのかとひやひやするが、その一歩手前で映画は寸止めにする。タラちゃんは自らのどうしようもない情けない現実に一人車の中で泣く。メリちんとマチは二人で泣きながら慰め合い、道をとぼとぼ歩いて行く。ナスや亀が性的意味合いで出てくる映像的お遊びもある。初期作品には監督の個性が如実に出ると言われるが、そんな愛すべき佳作だ。


制作年/2006
制作国/日本
時間/87分

監督:吉田恵輔
脚本:仁志原了、吉田恵輔
撮影:志田貴之
音楽:川原伸一
録音:高橋勝
キャスト: カオティック・コスモス、後藤飛鳥、仁志原了

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