『愚行録』石川慶~妻夫木聡は犯罪ミステリーがよく似合う

貫井徳郎の犯罪ミステリー「愚行録」の映画化。『ある男』『蜜蜂と遠雷』石川慶の長編デビュー作。石川慶は、ポーランド国立映画大学で演出を学び、短編作品を中心に活動し、本作がデビューとなった。サスペンスの演出は手堅い感じ。脚本の向井康介は、『リンダリンダリンダ』、『マイ・バック・ページ』『もらとりあむタマ子』『マイ・ブロークン・マリコ』、『ある男』など、多くの映画脚本を手がけていて実力派である。

妻夫木聡は、こういう犯罪ミステリーがよく似合う。特にオープニングのバスの席を老人に替われと言われて渋々と席を立つが、足が不自由な男を演じて躓いてみせるファーストシーンで、この男の屈折した心を見事に描いていた。原作にあるのだろうが、面白いシーンだった。バスの窓をゆっくりとカメラが移動して乗客の顔を映し出す映像に引き込まれた。妻夫木聡は、何を考えているか分からない暗さがあるのだろう。今、テレビなどで活躍中の松本若菜、松本まりかなども出ていて、キャスト全体がいい感じ。問題を起こした小出恵介も出ていたが、この役はハマっていた。満島ひかりも、不幸な生い立ちで問題を抱えている女性を演じることが多いような気がするが、痛々しいほどだった。弁護士役を濱田マリが好演していて、こういう役も出来るのかと驚いた。

週間記者の妻夫木聡が、一年前に起きた一家惨殺事件を追いかけながら、関係者を取材していく。エリート大学での階級格差。そのイヤらしい上流階級に這い上がろうとする外部受験者の学生たち。出世しようとする上昇志向や勝ち組・負け組的な価値観自体は、1917年の映画だが一昔前のものとなった感じがする。次々と明らかになっていく男女の打算と嫉妬と羨望と恨み。それと同時に妻夫木聡の妹の満島ひかりが起こした幼児虐待事件がどう絡んでくるのかと思ったが、後半意外な展開を見せる。脚本がしっかりしていたので、犯罪ミステリーとして楽しめた。ただ、こういう不幸な生い立ちモノって、何度も観たような気がする。


2017年製作/120分/G/日本
配給:ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野

監督・編集:石川慶
原作:貫井徳郎
脚本:向井康介
エグゼクティブプロデューサー:森昌行
コ・エグゼクティブプロデューサー:吉田多喜男
プロデューサー:加倉井誠人
撮影:ピオトル・ニエミイスキ
照明:宗賢次郎
美術:尾関龍生
音楽:大間々昂
音響効果
キャスト:妻夫木聡、満島ひかり、小出恵介、臼田あさ美、市川由衣、松本若菜、中村倫也、眞島秀和、濱田マリ、平田満、松本まりか

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