見出し画像

『映画はアリスから始まった』パメラ・B・グリーン~世界初の女性監督のドキュメンタリー~

(C)2018 Be Natural LLC All Rights Reserved

ハリウッドで映画作りが確立する遙か前、エジソンやリュミエール兄弟、ジョルジュ・メリエスと並んで、様々な映画製作技法を生み出した女性監督アリス・ギイという人がいた。歴史から黙殺され続けてきた世界初の女性監督アリス・ギイにやっとスポットが当てられたドキュメンタリー

スタジオで製作された『キャベツ畑の妖精』は世界初の劇映画と言われ、監督・脚本家・プロデューサーとして1000以上もの作品を手がけ、クローズアップ、特殊効果、カラー映画、映像と音の同期などの映画技法に挑戦した。リュミエール兄弟がシネマトグラフを発明した「映画誕生の年」、1895年。「工場の出口」という作品で、工場から出てくる人々をカメラで記録し、撮影した。その時すでに「記録するだけの映像は退屈。映像で物語をつくったらどうかしら」と、アリス・ギイは映画の“物語る力”に可能性を見出していた。

1873年生まれ。パリ郊外で裕福な家庭で育ったアリス・ギイだったが、事業に失敗した父と兄が亡くなったため、パリの写真機材会社ゴーモン社に就職。レオン・ゴーモン社長の秘書となり、リュミエール兄弟がシネマトグラフで上映した場所に彼女もいたそうだ。その翌年の1896年、アリス・ギイはストーリー性のある映画『キャベツ畑の妖精』を完成させ、世界初の女性監督になる。その後数々の作品を作った後、1907年に渡米。新設されたアメリカ支社の支社長となった夫ハーバート・ブランシェ=ボルトンとともにニューヨークへと赴いてからも、次々と作品を作っていく。だが、女性差別の状況は変わらず離婚もかさなった失望のうちに映画界から身を引いたまま、1968 年に世を去った。彼女は間違いなく、現代のハリウッドの映画製作システムの原型を作った。当時は、彼女の他にも様々な女性監督が活躍していたと言われているが、ハリウッド映画システムが確立されていくとともに、映画製作の現場は男性社会化していき、女性たちの活躍の場は失われていった。

なぜこれほどまでの活躍をしていたにもかかわらず、映画史に彼女の名前が刻まれていないのか?女性だから?という理由なのか、彼女が作った作品も別の男性の名前の監督作品とされていた。パメラ・B・グリーンは、アリス・ギイの親戚などを探しながら、彼女の作品や資料を探し続ける。残っているアリスが手掛けた作品のフッテージ映像を見ると、本当に驚くほどの多様な実験が試みられていたことに感動する。エイゼンシュテインやヒッチコックが彼女の作品の影響を受けて、そのことをそれぞれ自分たちの著書の中に記しているにもかかわらず、彼女の名前は一般的に記憶されてこなかった。

男女がそれぞれ役割を逆にしてみせる『フェミニズムの結果』(1906) という作品があったり、切手を舐め続けて糊で舌がベタベタになった女性に、口髭の男性が興奮してキスをするとくっついて離れなくなり、ようやく引き剥がすと女性に口髭がついていたりするギャグ映画もある。彼女の作品をもっと観たくなった。基本的に10分以内の短い作品が多い。とても貴重な価値あるドキュメンタリーである。

公式HP 「映画はアリスから始まった」 http://www.pan-dora.co.jp/aliceguy/

https://www.youtube.com/embed/GPbwqCtyDDQ

2018年製作/103分/アメリカ
原題または英題:Be Natural: The Untold Story of Alice Guy-Blache
配給:パンドラ
劇場公開日:2022年7月22日

監督・製作・編集:パメラ・B・グリーン
製作総指揮:ジェラリン・ホワイト・ドレイファウス、ジョディ・フォスター、ヒュー・M・ヘフナー、ジョン・プタク、ロバート・レッドフォード、レジーナ・K・スカリー、ジョーン・サイモン、ジェイミー・ウルフ
原作:アリソン・マクマハン
脚本:パメラ・B・グリーン、ジョーン・サイモン
音楽:ピーター・G・アダムス
ナレーション:ジョディ・フォスター
アリス・ギイ=ブラシェ
キャスト:シモーヌ・ブラシェ、ベン・キングズレー、マーティン・スコセッシ、アニエス・ヴァルダ、キャサリン・ハードウィック、ハワード・コーエン、パティ・ジェンキンス、ジュリー・デルピー、ピーター・ボグダノビッチ、ピーター・ファレリー、ジーナ・デイビス、ベン・キングズレー、ドレイク・スチューツマン、ジェーン・ゲインズ

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?