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ヒューマン・ドキュメンタリー『無理しない ケガしない 明日も仕事! 新根室プロレス物語』~根室のエンターティナーの生きざま

(C)北海道文化放送

北海道の根室のアマチュアプロレス団体「新根室プロレス」を追った北海道文化放送(uhb)製作のドキュメンタリー。これが意外にもヒューマンドキュメンタリーとして面白多かった。「無理しない ケガしない 明日も仕事!」は、「新根室プロレス」の会長サムソン宮本のお客さんとの定番かけ合いコールであり、団体のモットーだ。「明日も仕事があるから、無理しないでいこう」というアマチュア精神が笑いを誘い、人びとを楽しませ、自らの人生を楽しもうとする思いにあふれている。

プロレス好きが高じて、100万円を出して自腹でリングを買ってしまった男、サムソン宮本は根室のオモチャ屋を細々と営むアスリートでもない普通の男。その男が仲間を集めて、2006年に「新根室プロレス」というアマチュアのプロレス団体を旗揚げした。アマチュアなのにプロレスとはなんだか矛盾しているが、お金を取ってリングでプロレスショーを見せるエンタテインメント興行だ。様々な人間を巻き込み、リングネームを付け、覆面を被せ、キャラクターを作り上げていった。自らもリングに上がり笑いをとるエンターティナーのサムソン宮本。登場とともにリングでコケ、ロープの上を歩いて転落して股間を強打し、浣腸ポーズで相手の尻に指を突き立てて歓声を浴びる。学生時代や社会人になっても冴えない日陰者の地元の男たちをリングにあげてエンターティナーに仕立ててしまうサムソン宮本のプロデュサー能力は凄い。なかでも2メートルぐらいある「歩く熊猫山脈 アンドレザ・ジャイアントパンダ」の巨大着ぐるみをリングにあげたプロレスは巷でも話題になり、ニュースなどでも取り上げられた。

このドキュメンタリーは、そのプロレス仲間たちを追いかけただけではここまで感動的なものにはならなかっただろう。サムソン宮本が不治の難病に冒され、リングを降りなければならなくなったのだ。プロレスを好き放題やって、妻にも逃げられた男に待ち受けていた過酷な試練。「新根室プロレス」の解散という苦渋の決断をし、東京で最後の興行を行ったときに再び会いに来た妻、「また一緒に暮らしましょう」と夫婦で抱き合う様をリングで見せて拍手喝采を浴びる。自らの過酷な人生そのものをショーにしてしまっているのだ。後半は、家族での闘病生活が描かれ、娘たちのインタビューや見舞いに駆けつける仲間たちが描かれ、死を前にした自らの最後の言葉さえも、弟へのギャグにしてしまうセンス。そこにサムソン宮本という男の生と死の物語が浮かび上がってくるのだ。葬儀でのビデオメッセージ、さらに新型コロナでなかなか興行が出来なかった団体が、やっとの思いで東京で再興行。「新根室プロレス」を次世代に引き継ごうとするサムソン宮本の遺志や仲間や家族たちの思いが人びとを感動させ、楽しませる。

バカバカしいことでも真剣にやれば、人の心を動かすことが出来る。「新根室プロレス」を子供の頃に神社の境内で見て育った少年は、高校を卒業して団体の門を叩き、仲間に加わった。一人では何も出来ずに、ゴミ屋敷に住んでいるような男もまた、リングに上がれば人気者だ。仲間を作る力があり、そして自らも笑いものなり、道化に徹しながらも、人を楽しませることに一生懸命だった男。その生きざまに感動させられるのだ。ナレーションを担当したプロレス好きの北海道タレント、ヤスケンこと安田顕のナレーションがいい。

2024年製作/79分/G/日本
配給:太秦

監督:湊寛
プロデューサー:吉岡史幸
取材:堀威
撮影:芦崎秀樹 目黒悦男
編集:堀威
音楽:阿南亮子
語り:安田顕
ナレーション:柴田平美
キャスト:サムソン宮本、オッサンタイガー、TOMOYA、MCマーシー、ねね様、ハルク豊満、ドンレオ嬢サン、スマイリーヒロ、ロス三浦ロス、アンドレザ・ジャイアントパンダ

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