マガジンのカバー画像

読書レビュー

25
読んだ本に関するレビューをまとめています。
運営しているクリエイター

記事一覧

『幽 花腐し』松浦寿輝(文春文庫)~記憶と霊的世界の中の現在を彷徨う小説

松浦寿輝の小説を初めて読んだ。松浦寿輝という名前は、映画批評で度々目にしていたし、詩人で…

『他なる映画と 1』濱口竜介(インスクリプト)~映画講座集成!映画を生々しく体験す…

映画監督の濱口竜介氏による映画講座をまとめた本である。濱口氏が映画についていろんな場所で…

『なにごともなく、晴天。』吉田篤弘(中公文庫)~荒野のベーコン醤油ライスが食べた…

吉田篤弘の小説はこれまでに好きで何作か読んでいる。『つむじ風食堂の夜』(本作は篠原哲雄に…

「小川洋子と読む内田百閒アンソロジー」内田百閒(ちくま文庫)レビュー

小川洋子が選んだ内田百閒の幻想小説集。随筆も短編も織り交ぜて並べている。小川洋子がそれぞ…

「雨が空から降れば」別役実

「雨が空から降れば」という歌がある。小室等の歌である。フォークグループの六文銭だ。子供の…

「人新世の『資本論』」を読んでみた

話題の書である。かなり踏み込んだ過激な提言だ。気候変動問題に危機意識をもって対峙し、マル…

コミュニティの作り方「WE ARE LONELY、BUT NOT ALONE.     現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ」(佐渡島庸平著)レビュー

 普段は読まないような本だが、今どきのネット世代とコミュニティ作りについて興味があって読んでみた。コミュニティは昔からあるもので今に始まったものではない。ではなぜ、最近、コミュニティという言葉がよく使われるようになってきたのか?かつても村社会は日本のコミュニティのベースにあった。高度経済成長を経て、都市化が進み、地域コミュニティは崩壊し、核家族、会社コミュニティがある程度機能したが、結婚する人が減り、子供も産まなくなり、終身雇用の崩壊と働き方改革で、そういうコミュニティも崩壊

切なく哀しい「こちらあみこ」

第26回太宰治賞、第24回三島由紀夫賞受賞の今村夏子のデビュー作。「こちらあみこ」は、切なく…

川上弘美『某』レビュー「誰でもない誰か」であり続ける人生の集積

川上弘美は初期の頃から好きでよく読んでいる。女性作家の中では一番好きな小説家かもしれない…

『くらしのアナキズム』松村圭一郎(ミシマ社)「他人に迷惑かけない」を否定

「アナキズム」という過激な言葉が入っているが、決して「国家を解体せよ」というような政治的…

『向田邦子ベスト・エッセイ』向田和子編  「手袋をさがし」続けた好奇心

1981年に飛行機事故で亡くなった向田邦子没後40年で、いくつかの向田邦子本が出されているが、…

「現代思想入門」千葉雅也(講談社現代新書)より 差異=ズレを肯定せよ!

若い人向けの現代思想入門書である。さらっと浅く解説しているので、入門書として分かりやすい…

「あひる」(角川文庫)今村夏子の唯一無二なピュアな世界観

今村夏子を読むのは『こちらあみ子』に続いて二冊目だ。『こちらあみ子』も凄いと思ったが、こ…

今村夏子『星の子』レビュー。新興宗教の家族の物語の居心地の良さと不気味さ

今年の夏に『こちらあみ子』が映画化された。評判がいいみたいだが、『こちらあみ子』を読んで以来、今村夏子の小説を読み続けている。この『星の子』も芦田愛菜で映画化されたらしいが、未見だ。 旧統一教会の二世信者の話など、今やたらと話題になっている<カルト宗教>をめぐるある家族の物語だ。今村夏子は、カルト宗教に対して、否定も肯定もしていない。ちひろという少女が、赤ちゃんの頃から病気がちだったのが、父親の職場の落合さんに相談したところ、「水を変えてみては?」と勧められ、その「水」に