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読書レビュー

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読んだ本に関するレビューをまとめています。
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記事一覧

『なにごともなく、晴天。』吉田篤弘(中公文庫)~荒野のベーコン醤油ライスが食べた…

吉田篤弘の小説はこれまでに好きで何作か読んでいる。『つむじ風食堂の夜』(本作は篠原哲雄に…

「小川洋子と読む内田百閒アンソロジー」内田百閒(ちくま文庫)レビュー

小川洋子が選んだ内田百閒の幻想小説集。随筆も短編も織り交ぜて並べている。小川洋子がそれぞ…

「雨が空から降れば」別役実

「雨が空から降れば」という歌がある。小室等の歌である。フォークグループの六文銭だ。子供の…

「人新世の『資本論』」を読んでみた

話題の書である。かなり踏み込んだ過激な提言だ。気候変動問題に危機意識をもって対峙し、マル…

コミュニティの作り方「WE ARE LONELY、BUT NOT ALONE.     現代の孤独と持続…

 普段は読まないような本だが、今どきのネット世代とコミュニティ作りについて興味があって読…

切なく哀しい「こちらあみこ」

第26回太宰治賞、第24回三島由紀夫賞受賞の今村夏子のデビュー作。「こちらあみこ」は、切なく…

川上弘美『某』レビュー「誰でもない誰か」であり続ける人生の集積

川上弘美は初期の頃から好きでよく読んでいる。女性作家の中では一番好きな小説家かもしれない。輪郭がぼやけてしまうような人間の世界からちょっとずれた不思議な感覚を描く。つねにあやふやで曖昧なのだ。それだけ人間が捉えどころのないものだという前提が彼女にはあるのだろう。そのふわふわとした現実と別の世界の間を行き来するような感覚になんとも惹かれる。男性作家では村上春樹が現実とは別のパラレルワールドをよく描くが、それとも違う。輪郭が滲んでしまってぼやけるような曖昧さをひょうひょうと生きる

『くらしのアナキズム』松村圭一郎(ミシマ社)「他人に迷惑かけない」を否定

「アナキズム」という過激な言葉が入っているが、決して「国家を解体せよ」というような政治的…

『向田邦子ベスト・エッセイ』向田和子編  「手袋をさがし」続けた好奇心

1981年に飛行機事故で亡くなった向田邦子没後40年で、いくつかの向田邦子本が出されているが、…

「現代思想入門」千葉雅也(講談社現代新書)より 差異=ズレを肯定せよ!

若い人向けの現代思想入門書である。さらっと浅く解説しているので、入門書として分かりやすい…

「あひる」(角川文庫)今村夏子の唯一無二なピュアな世界観

今村夏子を読むのは『こちらあみ子』に続いて二冊目だ。『こちらあみ子』も凄いと思ったが、こ…

今村夏子『星の子』レビュー。新興宗教の家族の物語の居心地の良さと不気味さ

今年の夏に『こちらあみ子』が映画化された。評判がいいみたいだが、『こちらあみ子』を読んで…

北海道の厳しい自然と人間が対峙する小説『鯨の岬』河﨑秋子

北海道の別海町出身、酪農を営む実家で働き、羊飼いになる。『颶風の王』(2015年)で三浦綾子…

「猫を棄てる 父親について語るとき」村上春樹(文春文庫)偶然の積み重なりとしての人生

村上春樹の新刊が話題になっているが、まだ読んでいなかった『猫を棄てる 父親について語るとき』が文庫になっていたので読んだ。村上春樹が実の父親のことで記憶していること、父親の戦争体験なども調べて、考えたことをエッセイにしてまとめたものだ。 「ある夏の午後、僕は父と一緒に自転車に乗り、猫を海岸に棄てに行った。家の玄関で先回りした猫に迎えられたときは、二人で呆然とした……。」 この父親と自転車に乗って猫を棄てに行ったエピソードを思い出して書き始めてから、スラスラと父親についての