川上弘美『某』レビュー「誰でもない誰か」であり続ける人生の集積
川上弘美は初期の頃から好きでよく読んでいる。女性作家の中では一番好きな小説家かもしれない。輪郭がぼやけてしまうような人間の世界からちょっとずれた不思議な感覚を描く。つねにあやふやで曖昧なのだ。それだけ人間が捉えどころのないものだという前提が彼女にはあるのだろう。そのふわふわとした現実と別の世界の間を行き来するような感覚になんとも惹かれる。男性作家では村上春樹が現実とは別のパラレルワールドをよく描くが、それとも違う。輪郭が滲んでしまってぼやけるような曖昧さをひょうひょうと生きる