#24 AIと羽生さんと奥田民生

たとえば将棋だとAIは悪手含めあらゆる局面で、つねにすべての選択肢を瞬時にはじき出し、そこから最適解を選び出す。いっぽうで羽生さんみたいな名人は経験から悪手は排除して最適解に近いものだけを即座に選べるようになる。だから「経験積めば積むほど選択肢は減る」という言い方を彼はしている。これがいわゆる職人技と呼ばれるもののこと。

だけど最適解だけでやってると進化はない。たまに悪手を打ってみることが大事で「羽生マジック」とか言われてるのは、たぶんそういう悪手からこそ新しい最適解が見つかることがあるっていう「カオス理論」みたいなことを人間である羽生さんが実践していて、それを凡人には理解できないから「マジック」と呼ぶ他ないということなんだろうと思う。

で、それは奥田民生さんがいってた「悪い曲も作れ」っていうのに似ている気がしていて、いわゆる「いい曲」というのはみんなか心地よいと思う曲で、売れ線と呼ばれるものだけど、つまりはそれにはある法則性があって将棋の最適解と同じようなことなんだと思う。ところがいわゆる支持されやすい曲ばかり作っていると「いい曲」というフレームに逆に自分が最適化され、スポイルされてしまうんだと思う。同じような曲しか作れないようになってしまうわけだ。歌は世につれ世は歌につれというけれど、世が変わるとその音楽家は不要になってしまう。ネット論壇にはそういう人がたくさんいるよね。

だから、あえて悪手も選択肢に入れておかないと、どんどん自分の手幅は狭まる。そうすると長い目で見たときにドラスティックな環境変化や社会や業界のフォーマットの進化に適応できなくなって死ぬということだ。

でもぼんやりとSNSなんかを眺めてると、いまだにネットやデバイスの進化といえば「効率化」「機能化」の面ばかりが目立っているように思えるし、それに合わせてネットサービスや人の思考そのものも端的に最適解ばかりを求めるようになっている気がするんだけど、もう少しAIが進化すると逆にAI自身が悪手から新しい最適解を発見するようなことまでやり始めるはず(もうしてる?)。

で、そうなると社会にはAIとあとは羽生さんみたいな超人が何人かいれば、その他大勢の人類いらないみたいなことになる。いらないと言っても別にいまよく言われている単純作業系の仕事が奪われるとかそういうことではなくて、むしろ逆に国家や行政における意思決定やビジネスなんかにおける複雑系の指示系統をAIと一部のエリートが担い、一般の人こそが単純な思考プログラムを走らせるための端末と化していく。そういう世界になっていくのではないか。

グーグルやSNSなんかをみているとそれは決してSF的な世界の話とは思えないし、実際にいま直線的な単純思考しかできない(したくない)人が増えてるというのが本当だとしたら、たぶんそれはそういう世界の到来する時代への前適応なのかもしれない、という恐ろしいことを考えてみた。終わり。

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