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#21 紺碧のトライアド

#21

 海のように広がった自己投影を、渡辺さんのソロが音楽としてまとめてくれた。民族的な打楽器が曲にあっていたが、予定より短い小節数だった。ドラムからパーカッションに変わった影響だろう。彼の繊細なドラムソロをたくさん披露できないことが、少し悔しい。しかし、終曲の提示としては十分だった。そのままルバートなリフレインをベースが奏でた。音楽が空にふわっと消えた。

 ――どうだ?これが私達の音楽だ。

 恐る恐る前を向いた私を、大音量の拍手が迎えてくれた。

 渡辺さんが小さくガッツポーズをした。紫苑は息を切らせながらも満足気だった――彼のそんな表情は初めて見れた。私も思わず笑みがこぼれる。

 会場のどよめきが収まるのを待ってから紫苑が挨拶をする。

「ありがとう――ありがとうございます。今夜のコンサートをこのメンバでお送りできたことを光栄に思う。そうだな。ここでメンバを紹介をさせてもらいます」

 一拍おいて続けた。「パーカッション。渡辺紅希」

 再び割れんばかりの拍手が起きる

「そして――」

 私が紹介される番だ。

「ピアノ。碧井七海」

 すっと立ち上がり、胸を張ってお辞儀をすることができた。会場の拍手が嬉しかった。中田先生もゆっくりと大きな拍手をしてくれた。

「では次の曲に行きたいと思います」

 息を揃え、三人で目を合わせる。ライブの夜は更けていった。


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