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#19 紺碧のトライアド
#19
BGMの再開とともにバーが雑多な音に包まれた。後ろから「よし準備をしよう」と渡辺さんが現れた。両手にいくつもの黒い楽器ケース抱えている。入り口でタイミングを伺っていたようだ。
「何を持ってこれました?ハイハットあります?」
「ある」と右手を少し上げる。とても重そうだ。私はそれを受け取りステージに運ぶ。
「ハイハットとスプラッシュ。それにカホンとボンゴ」
次々と楽器が取り出される。
「よし全体的にラテンフィールで行こう。セットリストも変えるから」と紫苑が告げる。
直前でアレンジと演目が変わることになった。
「バスドラムがないから、低音が怪しいぞ」
「そこは僕が受け持つ。ただ、ソロのときはできないから。上もので空間を埋めてください」
「ピアノにやってもらったら?」
「いや、彼女の自由度は制限したくない」
紫苑はこちらを見てうなずいた。――そうは言われても、頭と心の整理がついていない。重い黒ずんだ不安が胸の奥に溜まっていった。
渡辺さんは、それぞれの音色を教えるように、パーカッションを順に叩いてくれた。ドラムスティックを使わない素手での演奏になる。ハイハットがいつもと変わらないことが救いだ。
険しい顔をしてチューニングをしていた紫苑が「よし、やろう」と声をかけた。
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