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【Review】2021年J1第38節 横浜F・マリノスVS.川崎フロンターレ「出来なきゃいけないことが山のようにあるわ」

はじめに

 2021年J1第38節の川崎フロンターレは、1-1で横浜F・マリノスに引き分けました。ダミアンの技ありヘディングシュートで先制するも、クイックリスタートから最後は前田が押し込みマリノスが追いつき痛み分け。2021年の得点王もこの二人で分け合う形となりました。

 マリノスは90分通して攻撃的なスタイルを貫き、シュート20本を浴びせる猛攻を見せました。シーズン82得点はチームとしてリーグトップの成績で、攻撃のマリノスのイメージが定着したと言えるでしょう。

クイックリスタートが弱点

 前半から違和感があったのが、マリノスがクイックリスタートを繰り返すことでした。CKやFKの際に間を置いて再開するのではなく、とにかく早く開始することを重視しているように見えました。さらに観察すると、空中戦が強いチアゴ・マルティンスはセットプレーの時に上がるそぶりすら見せていないことから、クイックリスタートはチーム全体の方針だったのだと思います。

 それが実を結んだのが後半の得点シーン。ピッチ中央からのFKの場面、川崎守備陣は壁の構築に集中しており、ボールに背を向けている選手もいました。そんな川崎の隙をついてマリノスはすぐに試合を再開し、左サイドにボールを運びます。不意をつかれた川崎は、クロスに対して準備が不十分だったため、クリアしきれず。最後は前田がこぼれ球を押し込むことに成功します。

 この日のマリノスから感じたのが、相手の戦い方から自チームの弱点を理解できるということです。もちろん自チームの反省で見える弱点もありますが、相手のお陰で見える弱点もあります。正直個人的には、今年はセットプレーからの失点が少ないので、だいぶ改善されたと思っています。ただそれは構えて守る意識によるもので、その意識の強さをこの日は逆に利用されたと言えるでしょう。

マリノスの遊び球

 マリノスのパスの質が変わったと感じました。ポジショナルプレーを重視し始めた頃は、パスの質が戦術とマッチしておらず、外から見ていてもどかしさを持っていた記憶があります。ですがこの日のマリノスからは、ようやく戦術に適したパスが増え、より有効な戦術になっているように見えました。

 1つがパスを通す感覚の変化です。ざっくり言うと、前よりもパスコースの判断基準が狭くなっています。相手選手の間が狭くてもパスコースとみなせるようになっています。つまりパスの選択肢が前よりも増えていると思います。
 それは相手の守備が密集している時だけでなく、相手が近くまで寄せてきていても同じです。股抜きパスが通常の選択肢に入っていたり、少しだけ浮かせて相手に触らせないパスなども、パスの一つとして共有されています。そのため出し手だけでなく、受け手もそれを前提に動くので、相手のプレスをギリギリでかわして前進するシーンが多くなったように感じます。

 もう1つが遊び球の活用。遊び球というのは、相手の立ち位置をほんの少しずらすことを目的とした短いパス(たいてい1往復する)のことです。相手ゴールに直接迫ろうとするものではなく、前進のための下準備のようなものです。
 前は遊び球を使う余裕がなかったように思います。パスを一つ挟むよりは、勢いよく前にボールを運んだ方が上手くいく、といったスタンスだった気がします。ですがこの日は喜田が遊び球を活用して、ちょっとずつ川崎守備陣をずらすプレーは、結果的にマリノスの前進への貢献度が高かったと思います。

サイドの攻防

 まず川崎の左サイドですが、前半のマルシーニョは抑えられていました。これは彼個人というよりは、チームとしての選択肢が狭まっていたことが大きな要因です。マリノスのハイプレスに対して背後を使うプレーの頻度を上げざるを得ず、そのためマリノスの小池はプレーを読みやすかったと思います。対するマルシーニョとしても、読まれてても勝ち切れる!ほどの精度はなく、崩し切るシーンはあまり多くありません。
 この対応として鬼木監督は旗手と大島で攻勢をかけます。前半のお返しとばかりにボールを握ることで、左サイドからの攻撃の際に選択肢が増えました。こうなると小池としても全てを封じることは難しく、徐々に守備に漏れが出始めました。

 一方の右サイドは、家長とティーラトンのノーガードの殴り合いだったと言えます。ティーラトンはボール保持時にポジションを大きく変えてプレーします。中央に入ってビルドアップをサポート、もしくは相手深くまで侵入してサイドチェンジを受けたりなど。いずれにせよ、カウンターを許すスペースが空きがちでした。
 対する家長も、攻撃の起点となることを求められており、ボール非保持時も前に残るため、守るべきスペースが空きがちです。家長としては下がって守備をすればボールは奪ったとしても、前に展開できないもどかしさを感じていたように思います。
 結果的に、川崎の得点は家長が前に残っていたことから生まれました。自陣でボールを奪ってからのカウンターの起点になったのが家長で、そこから手数をかけずにダミアンまでボールを繋げられたのが功を奏しました。

のびしろしかないわ

谷口「なかなか自分たちのペースで試合運びができなかった。特に前半は相手のスピーディーな展開、強度のところでプレッシャーを過度に感じすぎていた。意外と、プレッシャーが来ていないところで簡単にボールを下げてしまったり、そういうところの余裕がゲームの中でなかった。そこは、これからの成長、伸びしろというところで、次につなげていくポイントだと思う。」
(引用元:川崎フロンターレ「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第38節 vs.横浜F・マリノス」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/38.html>)

 谷口の上のコメントが、まさに今年の反省=来季に向けたのびしろです。今年はプレス耐性が低く、相手のハイプレスに苦しんだ一年でした。相手陣地でボール保持する手前の部分で躓くと、自分達の土俵で戦うことができません。(とはいえ、それでも勝ち切る力を付けたというのもまた事実ですが。)

 川崎は相手陣地でのネガトラ*時の守備強度の高さによってボール保持率を高めています。しかし相手陣地でプレーする下地を作る前に、ハイプレスをかけられた時の耐久力が低いです。(*ボール保持からボール非保持のタイミング)
 ただ鬼木監督がこれを課題としてみなしているかによって、対応は変わるでしょう。ダミアンのように強力な個で陣地を回復できれば問題ない、と捉えていれば、ハイプレスへの対応の優先度は下がります。一方でダミアン以外でも陣地を回復できるように、ビルドアップのトレーニングを重視するかもしれません。この辺りは来季の楽しみですかね。

おわりに

 多くの視聴者もそうだと思いますが、両チームの試合後コメントからもベストゲームだったことを感じます。90分間テンションの高い試合は珍しく、来季もヒリヒリする試合を期待したいですね。

マスカット監督「Jリーグにとって2つのチームが、質の高い内容を見せて、印象を与えたゲームだと思う。前半は、自分たちが素晴らしい試合を繰り広げ、前半が終わって自分たちがアドバンテージを持って後半に臨めると思ったが、川崎もそう簡単にはやらせてくれませんでした。90分を通してこの2チームが、Jリーグを盛り上げられる試合内容でやれたと思います。最後の締めくくりとしては、良いゲームが見せられたと思っています。」
(引用元:同上)
ダミアン「試合前からビッグゲームになると思っていた。最終戦ということで、決勝戦のようなゲーム展開になった。今シーズンは、フロンターレとマリノスがリーグを引っ張ってきた。すごく難しいゲームになったが、お互いの特徴を生かしながら良いゲームになったと思う。」
(引用元:同上)

 これで今シーズンのリーグ戦が全て終了しました。川崎は見事2連覇で終えることができました。来季はリーグ3連覇やACLのリベンジの1年となりますが、それに向けた反省を進めているところでしょう。谷口が述べたように、まだまだのびしろがあるチームです。出来なきゃいけないことが山のようにありますが、それを期待として持たせてくれるようなチームであってほしいですね。

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