見出し画像

【Review】2021年J1第19節 川崎フロンターレVS.アビスパ福岡「鬼木監督が"新しい勝ち方"と評した試合運び」

はじめに

 2021年J1第19節の川崎フロンターレは、3-1でアビスパ福岡に勝利しました。一時は追いつかれて前半を折り返したものの、後半に隙をついて2得点でリードを許さない試合運びでした。

ベストコンディションではない3つ要因

 この試合の前提として、3つの要因から共にベストコンディションではありませんでした。その1つ目は今節の日程が最近決定したことです。新型コロナの影響によりACLのグループステージが6〜7月開催に延期となり、それに伴いリーグ戦の日程変更が3/31に発表されました。

 公式発表より前にクラブには通知されているとはいえ、それを含めても1ヶ月前くらいだと思います。対戦相手の分析やトレーニングプランの策定に加え、川崎は試合開催準備、福岡はアウェイ遠征に向けた準備も含めると、選手及びクラブスタッフの負荷は大きかったでしょう。
 2つ目は上記日程変更により連戦だったことです。川崎は中2日での試合となり、何名かスタメンを入れて臨んでいました。福岡も中3日とはいえ、アウェイ3連戦目ということでコンディション調整は難しかったでしょう。実際前節のスタメンから7名入れ替えていました。
 3つ目が悪天候だったこと。この日は雨風が強く、芝の状況含めプレーしにくい環境でした。福岡はエンドを入れ替えることで環境を味方に付けようと試みていましたが、風向きがコロコロ変わる中ではそれも難しかったと思います。さらには雷により試合が一時中断するなど、普段と異なる環境でのプレーを余儀なくされていました。
 これらの要因から共にベストコンディションではなかったため、いつも通りとはいかない中でどう勝ちをもぎ取るか、といった姿勢を感じる試合となりました。

ファンマ起点で設計された攻撃

 福岡はファンマを起点とした攻撃を綿密に設計されており、チームとしての実行力も高かったです。ボール奪取後はまず競り合いに長けたファンマに預けることが多いのですが、その際のファンマのポジショニングが正確で速いため、川崎はそこで奪い切ることが難しかったです。単にボールサイドに寄るだけでなくパスコースに入るため、どれだけ悪球であってもなんとか触ることができ、次に繋げる可能性がありました。
 またファンマのポジションが素早く決まるため、後ろの選手もサポートの動き出しが速く、近い位置でパスを繋げられる、もしくはこぼれ球を先に拾うことが可能です。特にサイドハーフの石津と吉岡が中央に寄ることで密集を作り、中央でセカンドボール争いを有利に進めていきます
 川崎としてはファンマに対して高いラインを保ってプレーエリアを限定したいところですが、裏を狙う渡への警戒や、ピッチコンディションの悪さからずるずると最終ラインを下げる時間帯がありました。鬼木監督から「下げるな」と指示があったあたりです。
 川崎のもう一つの対策として、この日アンカーに入った田中は、いつもほど縦横無尽に動き回ることはせず、CBと近い位置でプレーすることが多かったです。こうすることで、福岡との中央でのボール争いに勝とうとしたのだと思います。

二の矢としての前の展開力

 上記のように福岡はカウンターの速さと精度の高さが特徴ではありあましたが、そこが潰されても前の展開力という二の矢があるのが武器だと感じました。
 前は広い視野と高精度のキックを持っており、サイドを広く使った攻撃を可能にします。単にファンマ起点のカウンターだけでなく、前が緩急をつけることで、直線的な殴り合いにはなりにくいです。ノーガードの殴り合いになると個人能力の差がスコアに顕著に反映されてしまいますが、前がいることにより、そうした試合展開を避けることができているように見えました。
 惜しむらくは前は川崎IHの飛び出しのケアも担っていた分、守備時に低く位置することが多かったため、ことです。攻撃に力を割く時間が少なかったことです。攻撃に力を割く時間が少なかったことです。ダブルボランチでの役割を整理することで、前が前線に関与できる時間をもう少し増やせるように感じました。

直接FKでの失点は年に1、2回必ずある

 福岡はセットプレーからの得点比率が高く、今節開始前で40%がセットプレーからの得点です。そのためクイックリスタートの回数は少なく、ハーフラインあたりからも時間をかけてセットした上で再開します。おそらくどのエリアからのFKでも数パターン練習してきているのだと思います。
 そういった強みを発揮できたのが前半ロスタイム。若干距離はありましたが、サロモンソンが今季2本目となる直接FKを決め、同点で前半を折り返します。どんな展開でも1本のキックで試合を決められる武器は対戦する身としては恐ろしい限りです。
 とはいえ年に1、2回は直接FKを決められることはあります。もちろん際どいエリアでファールをしない、といった対策はありますが、こればかりはどれだけ警戒しても防げないものは防げません
 むしろこうした失点で下を向いて引きずってしまう方がチームにとって悪影響で、「敵ながら天晴れ」と切り替えることが重要です。その意味でこの試合は変に引きずることなく、後半から仕切り直して戦うことができていたように見えました。前半ロスタイムだったこと、そして落雷による中断があったことが良い方向に働いたのかもしれません。

「新しい勝ち方」と評した試合運び

 後半10分に2-1となった後、後半15分に福岡は湯澤とブルーノ・メンデスを投入し攻勢に出ます。連戦の疲れからか、パスミスもあって川崎は一時的に押し込まれる展開になりました。ただこの試合では大きな不安なく相手の攻撃を受け切ったように感じました

鬼木監督「ノーマルで3点目を取りにいければ良かったですが、今日の天候や中2日であること、そこを考慮しながら、守るべきところはそういう選手を入れて守る、やらせない。相手にリズムを与えないことをしながら、それで3点目を取りたかったです。結果論になりますが、選手たちは良い対応をしてくれたと思います。新しい勝ち方をしてくれました。選手たちは良い締め方をしてくれたと思います。」
*太字筆者
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第19節 vs.アビスパ福岡」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/19.html>)

 これまでであれば、2-1からも攻撃の手を緩めることなく続け様に3点目を取りに行っていたと思います。それで上手く行く時もあれば、神戸戦のように追加点を取れず、最終的に追いつかれることもありました。
 逆にこの試合では、意図的に一度相手の攻撃を受け止める時間帯を作ったと思います。シンプルに蹴り出すことや、カウンター時に全体を押し上げずに少数で攻め切るなど、ピッチ上での判断に違いが見られました。また監督の采配としても、普段は前線の選手を先に交代しますが、この日は塚川とジェジエウをまず投入して守備を固めていました
 おそらく鬼木監督の脳内にはACLでの戦いがよぎっていたのでしょう。強力なFWにシンプルにボールを入れてくる相手に対してどのように勝ち切るのか、にトライした後半だったように見えます。
 常に全力で守備し続けることはできません。相手のベスト時間帯を見極めて応戦することが勝利には必要です。この試合では相手チームの瞬間最大風力を受け切った後に攻撃へと転じようとする意図を感じました。そして見事勝利したことは、今後のACLに向けても大きな一勝になるはずです。

車屋と知念のスタメン奪取はあるか

 左CBでスタメン起用された車屋は攻守で期待以上のプレーを示していたと思います。守備ではファンマ・メンデスの強力2トップを、谷口・田中と封じ込めていました。攻撃でもドリブルで持ち運んでパスコースを作る動きは、ビルドアップの出口として機能していました。特にパスコースを作って直接長谷川に届けるパスは正確で速く、長谷川にスペースと余裕を与えていました。

車屋「ショウゴさん(谷口彰悟)やジェジエウのようにしっかりはね返せるようになればセンターバックとして重宝されると思うので、自分自身の課題としてやっていきたい。」
(引用元:同上)

 試合後にはCBとしても戦っていきたいことを感じるコメントを残しています。開幕時にはCBは谷口・ジェジエウ、SBでも旗手がスタメンを確保していましたし、登里は復帰後すぐにSBとしてスタメン復帰するなど、控えの時間が続いた車屋。しかし最近は好調なパフォーマンスを続けており、彼らとの間に明確な優劣は無いように見えます。本人としては常にスタメンで出ることを望んでいると思いますが、この日のように攻撃で一つアクセントを付けられれば、スタメン奪取も近いと思います。

 今季初スタメンだった知念ですが、待望の初ゴールを決めました。ゴール以外の場面でも、鬼木監督のコメントにあるように、悪天候でも体を張ってボールを収めてくれるプレーでチームに貢献していました。余談ですが、雨の日の知念を見ると、2017年の柏レイソル戦を思い出します(車屋も2アシストで活躍していましたね)。

鬼木監督「知念に関しては、チャンスがない中でも、こういう悪条件でも体を張ってプレーしてくれる。相手も嫌がったと思います。しっかりと走るところ、突破にかかるところ。キープをするところ、起点になるところ、いろんなところで彼の良さが出たと思います。あとはFWなので、どんな形でも点を取るところで良い仕事をしてくれたと思います。」
(引用元:同上)

 この日改めて感じた知念の特徴が強引にシュートまで持っていく力。多少雑なボールであっても、懐の深さから奪われずにシュートまで持っていけるのは、ダミアンや小林よりも優れていると思います。しかもこの日はそのシュートの多くが強く、そして枠内に飛ばしていたのでケチャドバする日は近いかもしれません
 今後の課題として気になったのが周囲との連携です。ダミアンが1トップとしてスタメン起用され続けている理由の一つに、既に6アシストを記録しているように、ポストプレーから周囲を活かしたプレーができることがあります。
 他方で知念はこの試合、遠野と動きが被ることがありました。三笘や知念、長谷川などのゴール前に飛び込む選手との連携が高まると、結果的に自身のゴールに繋がるはずです。少なくともダミアンはそれを示していると思います。

おわりに

 相手の攻勢に押し込まれたり、悪天候もあっていつも通りとはいかない試合でしたが、クロスを増やすなど得点の可能性が高い選択を続けることで3ゴールを奪い切った川崎。鬼木監督が「新しい勝ち方」と評した戦いは、ACLに繋がるはず。
 さて次節はリーグ戦12戦目。昨季は12戦目で初敗戦を喫しましたが、今季はその壁を乗り越えられるか注目です。

いつもありがとうございます。サポート頂いた資金は書籍代に充て、購入した書籍は書評で紹介させていただきます。