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【Review】2019年J1第32節 川崎フロンターレVS.浦和レッズ「脇坂、脱後継者へ」

はじめに

 2019年J1第32節の川崎フロンターレは、2-0で浦和レッズに勝ちました。後半難しい時間帯もありましたが、今季中々取れていない追加点を取っての完勝はチームに勢いをもたらしそうです。
 一方の浦和はACL決勝進出は喜ばしいものの、残留争い脱出とはならず。むしろ他チームに希望を与える結果となりました。ひとまずはJリーグ代表として頑張ってきてください!

中には誰がいくのか

 さてACL決勝とJ1残留争いの二足のわらじを履く浦和ですが、週末に備えるアウェイACLとを考慮してか、前節からスタメンを8人替えました。上野コーチによれば大幅に変わったスタメンにはカウンターの狙いが込められていたようです。

上野ヘッドコーチ「ボールを持たれる時間が多くなるのは予想していましたので、相手が前に出てきたところをカウンターで、サイドバックの背後を攻めていきたいというところでマルティノス選手を起用しました。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第32節 vs.浦和レッズ」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/32.html>)

 このnoteでもたびたび触れていますが、川崎の弱点は高い位置を取ったSBの背後のスペースで、ここへのカバーが芋づる式に全体のバランスを崩すきっかけになります。この試合でも浦和にこのスペースを使われカバーリングに追われていました。
 ただこの日の浦和の問題は最後に誰が仕留めるのか。先発の中で最も得点を決めているのが2得点の森脇で、1得点の宇賀神が続きます。どちらも最終ラインに起用されている選手でした。
 やはりチーム得点王興梠の不在は大きく、サイド突破止まりの攻撃の原因はここでしょう。山中、汰木、時にはマルティノスがサイド裏に抜け出してボールを引き出しますが、クロスを当てる選手が中にいないことがほとんどでした。試合を通しての一番の決定機はマルティノスの単騎突破によるクロスバー直撃のシュートでした。

山中「クロスの回数は多く上げられたと思う。中のターゲットのところで難しいところはありましたけど、危険なボールを入れていきたかった。点につながらなかったので、残念。」
(引用元:Jリーグ公式HP「試合結果・データ」<https://www.jleague.jp/match/j1/2019/110501/live/#player>)

 理想の形は上野コーチが試合後に述べていたように、シャドーかボランチがPA内まで顔を出すでしょう。しかしたとえば柏木はスルーパスを出せるポジションを探した末にボランチの位置まで落ちてしまうなど、前に選手を送り出すビルドアップを形成できません。
 浦和のビルドアップで気になったのが、もしかすると今季通してかもしれませんが、探り探りのパスが多かったことです。ゆっくりとした遊び玉は川崎でも見られますが、そうした意図を感じないゆったりとしたパスが多かったです。
 原因の一つは連携不足でしょう。スタメンを大きく替えたことにより、ビルドアップでのポジショニングに迷いがあり、緩めのパスを回しながら整えるシーンがありました。
 もう一つあげると挑戦に恐れていたと思います。この日のビルドアップの先にはサイドの裏へのスルーパスがありましたが、そこにトライする回数が少なかったです。ミスすれば奪われてしまうのはその通りですが、仕掛けるためのパス回しという認識が薄かったように感じました。その勇気が全体にもう少しあれば、柏木が必要以上に落ちることはなかったでしょう。

一人の交代で流れを変えた采配

 川崎はスタメンを見て右サイドを攻められることを最も警戒したと思います。山中や汰木といった前節出場していないフレッシュな選手で、かつサイド突破に強みのある選手を左に固めていたからです。
 この日の右サイドは家長とマギーニョのコンビ。マギーニョ起用の意図としては中盤の攻防中心で彼の走力が活きる展開を想定していた、もしくは登里の負担軽減あたりが考えられます。しかし思惑とは異なり、右サイドを起点に攻め込まれます
 さらに困難なことにこの日はアウェイだったこと。アウェイの試合では前半右SBがベンチの反対サイドでプレーすることになり、ベンチからの指示が届きにくく修正が難しいです。ましてマギーニョへの指示は通訳を通す必要があるので、前半の間での守備の修正が難しく、右サイドで浦和に攻勢を許す展開になりました。
 マギーニョの交代はそんな困難に対応するための判断でしょう。浦和が中のターゲットのところで苦しんではいたものの、山中の速いクロスを放置するとオウンゴールなどの可能性もあるため、そうした脅威への対応としてマギーニョを替えます。
 代わりの守田はポジションチェンジを苦にせず任務を全うします。G大阪戦では体調不良で前半交代となっていましたが、コンディションさえ上がれば今日のようなパフォーマンスを見せてくれるでしょう。
 守備での堅実さや、偽サイドバック的なポジショニング、さらにクロスでのアシストなど活躍を挙げればキリがないのですが、彼の最大の特徴はこの多彩さでしょう。そしてこの特徴は鬼木監督が求めています。
 鬼木監督は今年、采配で流れを変えようとしているように見えます。研究されたことで一の矢の効力が減っており、二の矢、三の矢をベンチの采配により放とうとしています。。その中で必要なのが多くのポジションをこなせる選手で、その役割を一番期待していたのが山村です。彼がいることで後方のベンチ要員を圧縮することができ、代わりに前線の選手を多くベンチに置けます
 ただ最近は山村をCBに起用せざるをえない状況になってしまい、ベンチの多様性を担保できなくなっていました。CBを試合中に動かすことをリスキーと捉えているとも思います。しかしここにきて守田が復調してくれるのであれば、鬼木監督も1試合の中でより状況に対応した采配を見せられます。今節のように一人の選手交代で大きく流れを変えられるようになると楽に進められるでしょう。

脇坂、脱後継者へ

 脇坂は磐田戦ぶりの得点。ゴール前密集地帯からのミドルシュートが代名詞になりつつあります。カウンター時には消極的な選択をする印象がある脇坂ですが、ああいった場面では迷い無く振り抜くあたり自信があるのでしょう。
 得点のシーン以外にもこの日の脇坂は好調で、中でも家長とのコンビネーションが良くなっていました。家長が基本的に狙うのはPA脇の部分で、浦和の宇賀神の背後のスペースです。ここにボールを斜めに入れて仕掛けるのが一つのパターンになっています。
 この仕掛けのイメージを合わせるのは難しいようで、2人の関係で見ても家長が出すのと受けるので2パターン、3人の関係になるとより複雑になります。マギーニョはそこをまだ実践できておらず、この試合でも早めに入りすぎてスペースやパスコースを潰してしまうことがありました。
 脇坂はこのイメージが、シーズン当初は合っていませんでしたが、終盤になって共有してきています。驚くことに守田はそのイメージを理解してプレーできています。後半から右サイドがスムーズになったのは守備の安定もありますが、守田が突っ込みすぎなかったというのも一因です。
 一方で脇坂にまだ物足りないと思うのが一か八かのトラップが多いことです。得点の場面では相手を置き去りにするターンができましたが、それ以外の場面ではターンで奪われてしまうことが多々ありました。
 脇坂はCBとボランチの間で受ける際に前を向く意識が強く、上手くいけば一気にチャンスになりますが(得点場面のように)、ミスってしまうとボールを掻っ攫われて、カウンターの起点にされます。特にカウンター耐性の弱い川崎にとってここは致命傷なので、修正が強く求められます。
 脇坂は中村の後継者的に扱われることが多いですが、中村よりもゴール前で輝く選手になりそうです。狭いエリアでフリーになる動きやパンチ力のあるシュートを武器に、アタッカーとしての魅力を見せ始めています。脱後継者への道が開き始めました。

おわりに

 浦和は難しい試合でした。残留争いとACLの平行は選手がモチベーションを維持しにくい状況です。スタッフとしても資源配分の基準に悩んだことでしょう。その意味で川崎としては日程変更に救われたなと感じます。
 敗北により残留争い勢に希望を与えた浦和に対し、川崎は優勝争い勢に少しはプレッシャーを与えることができたのではないでしょうか。現時点で鹿島があたふたすることはないでしょうが、次の直接対決に勝てば一時的に勝ち点差2になり、流石に焦るはずです。
 さあ最後尾から優勝争いを盛り上げましょう。

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