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【Review】2021年J1第31節 川崎フロンターレVS.FC東京「狙い通り作られた難易度高めな決定機」

はじめに

 2021年J1第31節の川崎フロンターレは、1-0でFC東京に勝利しました。5試合ぶりのクリーンシート、リーグ最小失点をキープしました。逆転勝利の爽快感だけでなく、僅差で逃げ切るヒリヒリ感まで、等々力劇場はいくつもの顔を持ちサポーターを飽きさせませんね

 一方のFC東京は3戦勝ち星なし。前半終了間際、一瞬の隙を突かれてカウンターで失点。攻撃では90分通して決定機は作ったものの、川崎の好守に防がれノーゴールで終了。ACL争いから一歩後退という結果になりました。

狙い通りだが難易度高めな決定機

 前回対戦同様、FC東京は狙い通りの戦いを展開できていたように見えます。実際シュート数は19本に上り、ゴールに迫る決定機を何度も生み出していました。ビルドアップからと、背後を突いた素早いカウンターからの両方から攻撃を展開できていました。

長谷川監督「ビルドアップする中でチャンスができた。プラス、相手の背後という、我々の武器を生かしながらチャンスを作ることができた。しっかりと自分たちの良さを作ることができたと思います。」
(引用元:川崎フロンターレ公式「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第31節 vs.FC東京」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/31.html>)

 特にカウンターは鋭く、何度も川崎ゴールに迫っており、得点に結びついてもおかしくありませんでした。このカウンターを支えているのが、ボール奪取後の前線選手の動き出しの早さ。アダイウトン、ディエゴ、田川の3選手のボールを引き出す動き出しの早さで、川崎相手に先手を奪うシーンが何度もあり、攻撃の生命線となっていました。
 前線の選手に対して早いタイミングでボールを渡すことが後ろの選手には求められます(1もしくは2タッチ)。これはテクニックが要求されるプレーになりますが、特にSB中村は上手く、前線で有利を作れているうちに的確にボールを届けることができます。裏へのスルーパスだけでなく、アリークロス気味に中央のディエゴに届けるプレーは、意外性が高く、川崎守備陣も手を焼いていたように見えます。

 ただトップスピードでシュートまで持っていくため、動きながら正確にプレーするテクニックが要求されます。こうした攻撃は中々に高度で、ある程度まで精度は上げられるため、この日のようにチャンスを作るまでは至るものの、最後の仕上げに困ることが多いです。その点は長谷川監督も認識している通りで、そのためにディエゴやレアンドロのような、難しい局面でもゴールを奪うことに長けたアタッカーが重宝されています。逆にいうと、彼ら以外はゴールを奪うことが難しいチャンスの作り方をしているとも言えるでしょう。

長谷川監督「もちろん、入っていくところではトップスピードでプレーしないと相手を振り切れないと思うので、あのスピード感で決め切ることができないとゴールは取れないと思っています。」
(引用元:同上)

孤立しても戦い抜いたダミアン

 この日のダミアンは1ゴールを挙げたものの、それ以外は辛い時間帯が続いていました。東京のプレスによってロングボールを蹴らされるため、空中戦で体を張る場面が多かったこと、そして森重とオマリの強力CBとのマッチアップの2点で苦しかったと思います。
 加えて、ダミアンの周囲に味方を配置することが難しかったです。旗手や脇坂がダミアンの近くでプレーできればボール保持率は上がるのですが、前半は彼らが低い位置にポジショニングすることが多かったです。
 要因の一つはカウンターへの警戒でしょう。東京のカウンターを意識してか、アンカー橘田が上がりを抑えているように見えました。サイドのカバーも任される橘田の位置が低いと、IH旗手と脇坂も距離感を保つために下がらざるを得ません。このように周囲に影響を与えるため、橘田のポジショニングは重要です。

 こうした状況で孤立しがちだったダミアンで、集中が切れてもおかしくない展開でしたが、しっかりと役割を果たしてくれたと思います。ロングボールを確保できずとも五分五分のボールにしたり、ボールを受けるために下がらずに高い位置をキープしたり。ダミアンのそうした地味な頑張りが前半終了間際のゴールにつながったと感じます。独りでも黙々と戦い続けるファイターは心強いですね。

引かなかった最終ライン

 それでもダミアンを孤立させずに全体をコンパクトに保てたのは、最終ラインを高く保てたからでしょう。高く保てた要因の一つは、車屋の勇気あるラインコントロール。スピードのある東京攻撃陣に対して引いて守る選択を取ってもおかしくないのですが、チームの攻撃を支えるために最終ラインを上げ続けていました。
 もちろんただ勇気があっただけではありません。DAZNでも車屋が細かく最終ラインに指示を出していたのが見えたので、試合中はもっと繊細にラインをコントロールしていたでしょう。CBで挑戦したい車屋は、今季ラインコントロールの面でも谷口に負けていないと思います。

 加えてGKとCBの連携の良さもラインを高く保てた理由に挙げられます。特にこの日は最終ラインの背後を突かれた時の対応。基本的に背後の広大なスペースはGKに任せていて、ここ最近のソンリョンはこのスペース管理能力が上がっているように感じます。それでもピンチを招く可能性は十分あり、そうしたリスクも含めて最終ラインを上げる守備設計をしています。
 この日はそんなピンチにおけるGKとCBの適切な意思決定が光りました。たとえばアダイウトンに突破を許したシーンは、車屋がソンリョンの飛び出しを手で制して、自らがシュートブロックに入る選択を取ります。あの場面は逆サイドに走り込んでいた選手のパスコースをカットすることで、アダイウトンに苦手な左足でのシュートを強いていたのもポイントです。
 一方で永井の突破のシーンは、ソンリョンが前に出て選択肢を狭めることでシュートを遅らせ、背後のゴールをジェジエウが守るといった分担ができていました。少しでもスピードを緩めればゴールを許していた紙一重の場面でした。

 先日、谷口に安心感を感じるといった話をしましたが、この日のジェジエウと車屋にも似たような安心感を感じました。今後もっとピンチを経験して蓄積することで、前線が後ろを気にせずにゴールを目指せるチームになっていく予感がしました。˜

おわりに

 ACL後の連戦を見事5連勝で終え、マリノスとの勝ち点差は12(マリノスは1試合未消化)。一時は失速との声もあったもののチーム全体で立て直しに成功して首位をキープ。焦らず巡航速度で優勝に突き進んでいきたいところです。

 さてこれでチームは10/24(日)清水戦まで少しのオフを挟みます。選手たちにはゆっくり休んでほしいですが、今回家長は鬼木監督に何連休を要求したのか気になりますね。

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