【Review】2018年J1第24節 川崎フロンターレVS.ベガルタ仙台「対策しにくい臨機応変なチームになってきた」

 2018年J1第24節は、1-0で川崎フロンターレがベガルタ仙台に勝ちました。

きつい試合を勝ち切った
 今節で8月の連戦を終えましたが、8月1日の第19節浦和戦から25日間で6試合のリーグ戦を4勝1分1敗で乗り越えたことは評価したいです(天皇杯もあったため計7試合)。特に尋常ではない夏の暑さに負けず(以前中村憲剛もブログで指摘)、チームは大きく崩れず、むしろ夏男小林の勢いとともに、首位広島への追走のペースを上げています。とは言いつつ、広島もこのリーグ6試合を3勝2分1敗で乗り越えているため、まだ首位の背中は遠いです。
 連戦最後の試合、そして芝のコンディションもあってミスがいつもより目立ち、さらに全体的に体が重そうに感じる試合でした。試合後コメントでCBの二人の第一声が厳しい、きついという感想なのがこの試合のタフさを物語っているように、体力的にきつい試合だったが勝ててよかった、というのが今節の感想です。

タフな夏の連戦を支える奪い返す守備
 この夏を乗り越えた一因には体力の消耗を抑えるチームスタイルがあるでしょう。まずはポゼッション主体であるため、自分たちのペースで試合を進めることができ、運動量に関してもある程度コントロールが可能です。逆にいえば、ボールを握られるチームはボールの動きに対して常に守備陣形を整える必要がありますし、いつ相手が攻めてくるかもわからない中で臨戦態勢を取らなければいけないため、運動量が増える傾向にあります。
 しかしポゼッションが高ければ運動量が少なくて済むわけではなく、川崎は加えてボールを奪い返す効率が良いことも運動量が少ない要因だと考えられます。風間前監督から引き継いだ鬼木監督がチームにプラスした奪い返す守備は攻撃から守備に移行する際の運動量を減らしています。
谷口曰く、特に夏場は無駄な体力を使いたくない思いからボールを奪う局面の見極める力が研ぎ澄まされているようです。高いボール支配率に加えて、守備効率の高さが体力温存に寄与しているのではないでしょうか。

川崎の攻撃を支えた守備
 この試合の勝因の一つは仙台の攻撃を抑えたことです。まず仙台のカウンターはツートップが相手サイド裏とCBの前の二つの位置でそれぞれボールを受けることで起点を作ろうとします。その時にスピードのある選手が同時に二箇所を攻めるので、守備側は対応が難しいです。
 前回対戦と同様の仙台の攻撃に対して川崎は、裏のスペースを重点的に守り仙台の選択肢を削ることで、仙台の攻撃をシンプルにさせます。それによってスムーズに前線から守備を行えていました。加えてこの試合の仙台はツートップの一角にジャーメインを選択していましたが、いまひとつ連携が取れていなかったため、攻撃の起点になれていなかったことも仙台のカウンターを抑えられた要因です。
 一方で仙台のポゼッションに関しては、ゴールシーンにあるように前線からの守備が効果的でした。仙台はポゼッションの際にCBが開いてビルドアップをする分選手間の距離が広がり、中盤がパスコースを作るために動く距離が長くなるため、ポゼッションへの移行に難がありました。
 そこに対して川崎はタイミングよくプレスをかけます。特に中村のプレスでの同時に二人に睨みを利かせるコースと、相手のズレた瞬間を突くタイミングは絶妙でした。仙台は何度もロングキックに逃げるシーンが見られましたが、それだけ川崎の守備に苦戦していました。

多彩なビルドアップ
 この試合の勝因の一つが多彩なビルドアップです。仙台は川崎に対して二人のCBにプレッシャーをかけることでビルドアップを妨害、限定しようとしました。具体的には中央に追い込むように(サイドを使わせないように)川崎のパスルートを限定させようとします。
 対する川崎は中盤を一人下げて三人で回すことで数的優位を作ろうとしますが、この時の並びが様々だったため、仙台はプレスが困難になります。基本は守田がCBの間に位置しますが、時には谷口の右や車屋の左に動きます。さらには中村が車屋の左に下がるなど、様々なパターンを試すことで、仙台の守備陣形の乱れを観察していたのだと思います。そうした観察から守備の穴を見つけることで、仙台の守備を無効化して攻撃することができていました。
 この多彩なビルドアップで重要なのはCB二人の技術の高さです。この二人の能力の高さによってビルドアップの出口、つまり前線にパスを出す起点を多く作ることができました。後ろで回しながら最終的には大島から攻撃が始まる、のではなくビルドアップに参加する全ての選手から攻撃が始まる可能性があり、それを見せ続けることが仙台守備を混乱させていました。特にこの試合では車屋へのマークが空くことが多かったため、車屋が運んで攻撃に繋げるシーンが何度か見られたように、ビルドアップは基本数的有利でどこかが空くので、どこからでもビルドアップの出口を設定できることは大きな強みです。
 もう一つだけ加えると、登里のポジショニングの巧さも光っていました。車屋が持ち出すことが多かったのですが、小林と阿部の動きを見ながらパスの軌道が被らないポジションを確保することで、車屋に常に三つのパスコースを与えていました。他にもコーナーキックが跳ね返された後のビルドアップ時に中央で参加するなど、登里の器用なポジショニングは今やなくてはならないものになっていると思います。

臨機応変な選択とブレないゴール

中村憲剛「今は、自分たちがやるべきことが何かというのが染みついている。相手のボールの位置や、相手の位置をみて、今行くのか、行かないのかというのも冷静に判断できているし、得点場面もノボリ(登里享平)がアクセルを踏んで競りかってくれた。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2018 明治安田生命J1リーグ 第24節 vs.ベガルタ仙台」<http://www.frontale.co.jp/goto_game/2018/j_league1/24.html>)

 残り10節となったこのタイミングで、川崎は相当対策の難しいチームになっていると思います。ポゼッションをベースにしつつ相手の嫌がるポイントを探りながら攻撃し続けられることに加え、それを実行できるのが今の川崎の特徴です。前節の広島戦はまさにそれを実行した好ゲームでした。中村の言うような冷静な判断が、ここまでの試合の積み重ねによって洗練されてきていると思います。
 臨機応変と聞こえは良いですが、実際に行うのは難しく、多くは曖昧な行動に終わります。今の川崎ははっきりと「自分たちがやるべきこと」が見えているように思いますが、これは最終目的が共有できているからではないでしょうか。その目的とは小林に良いボールを供給することです。最終的な目的、出口がはっきりしているので、途中どんな道を通ってもブレないのです。
 中断明けにゴールを量産していることや、この試合もシュートを7本放つなど小林にチャンスが増えています。もちろん小林本人の調子もありますが、むしろチームとして目的を再確認できたのではないでしょうか。小林というブレないゴールにチームの目が揃っている、これこそが今の川崎を支えており、このまま残りのシーズンも走り続けられるのではと期待しています。

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