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【Review】2019年J1第20節 川崎フロンターレVS.大分トリニータ「中村を軸に好転し始めた川崎、一方その頃家長は。」

はじめに

 2019年J1第20節の川崎フロンターレは、3-1で大分トリニータに勝ちました。
 チェルシー戦から1週間経って迎えた今節。多摩川クラシコで再確認した自分たちの強みが、チェルシー相手には上手く発揮できなかった事実と向き合い、相手よりも自分たちにフォーカスを当てて取り組んできた1週間だったのではないでしょうか。前回対戦時ほど大分に合わせた様子はなく、序盤の前線からのプレスにはそうした気合を感じました。
 そんな中流れを変えるきっかけは給水タイムでした。1分程度ですが集まって話し合えるこのルールは、通常は中断の無いサッカーというスポーツにとって影響が大きいものです。実は前回戦った時も給水タイムを境に流れが変わっていて、ある意味気候に助けられているといえます。

裏と横、に繋ぐ長谷川

 大分の特徴は勇気を持って後ろからビルドアップしていくことです。この試合でもプレスをかける川崎に動じず、さらりとスカしていました。高木を始め焦らないあのメンタリティこそ最大の強さで、それを選手に植えつけた片野坂監督の手腕に改めて感服しました。

中村「東京戦の僕らを見て、向こうも前から来ると思っていたし、僕らも行こうよという気概があった。その狙いが見事にスカされた15分、20分だった。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第20節 vs.大分トリニータ」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/20.html>)

 川崎をスカした大分の狙いは、相手を自陣に引き込むことで高くなった最終ラインの裏で、そこに前半はオナイウ、後半は藤本を走らせます。そのため川崎が前がかりになっていた序盤はやりやすかったでしょう。
 もう一つの狙いはWBの突破力を活かした攻撃です。新加入の田中達也のようにドリブルで単騎突破できる選手をサイドに配置しています。そして相手を片側に寄せてからのサイドチェンジによって仕掛けやすい状況を彼らに与えるのが大きな狙いです。こうした横の揺さぶりは効果的で、田中のカットインからのシュートや、WBからWBへのクロスのようにチャンスを作っていました。
 選手の配置で裏と横幅を活用しようとした大分ですが、この試合ではそこまでのルートの整備、前回対戦に比べてボールの運び方が今一つでした。その要因の一つが技術的なもので、裏と横に繋げるのが長谷川くらいでした。最終ラインの選手も試みるも精度が伴わず。逆に長谷川が前を向いて展開出来る時は決定機が多く、サイドチェンジではないものの得点シーンのスルーパスは彼によるものでした。大分は長谷川に前を向いてボールを持たせるのが今後の課題になるのではないでしょうか。

川崎の守備が大分の守備を苦しめた

 大分は川崎のボール保持に対して541のブロックを作って待ち構え、前から奪いにいくシーンは少なかったです。ビルドアップに制限をかける動き、たとえばワントップによるパスの誘導なども見られず、川崎に自由に回させていました。
 ブロックを作っての迎撃ですが前半は機能していて、特にボールを下げさせた後の作り直しが速かったです。しかし暑さの影響と攻守ともに川崎の圧力を受けたことで体力に陰りが見え始めた後半からは、ブロックが徐々に甘くなっていきます。各選手の担当エリアを跨いだカバーリング、特に横方向の動きが減っていきます。川崎の積極的な守備が、大分の守備に綻びを生みました

高木「今日に関しては、体力的な問題も大きかったと思うし、ブロックを組んでいてもこれだけ守備で動かされることはそうそうない。うちはしっかりブロックを作って間を狭めているのだが、それでも縦パスを入れてくるので、中に外にと追わなくてはならない。多分、他のチームとの対戦の倍は疲労したと思う。それに、やはり押し込まれ続けると、なかなか相手のゴールへ向かうのはしんどくなる。」
(引用元:大分トリニータ公式HP「闘う言葉:GK 1 高木駿」<https://www.oita-trinita.co.jp/entertainment/fight/show/?sid=53183>)

 大分は最終ラインと中盤の間のスペースへの意識は強く、そこで受ける川崎の選手にはCBが前に出てアタックにいきます。しかし動きが鈍くなっていくと前に出た選手の戻りが遅くなり、カバーリングも間に合わずというシーンが増えていきます。齋藤の得点はまさにそうした大分のエラーを突かれた場面でした。大分は守備時にそれぞれがどのエリアにいるべきか、に重点が置かれているように見えました。そのためセットした守備なら問題は表に出ないものの、誰かがズレた時の修正力に課題があるように感じました。
 大分はプレーを連続させることが難しいように見えました。それは攻守の切り替えに限らず、ボールを動かし直された時に定位置に戻るプレーや、攻撃でもシャドーへの縦パスが通せなかった時にどう次のプレーに移るのかなど。一つ目の狙いが外れた時の修正に時間がかかっていました。何度か見られたFWへの強引なパスも、一つ目のプレーをキャンセルした後に現れるプレーでした。1試合通して連続したプレーが続くと、厄介なチームになるでしょう。

中村と合わせられるか

 リーグ戦ここ2試合で抜擢されている下田と齋藤に共通するのが足をつるくらい走り切れること、そして中村との連携が良いことです。
 何人かの選手が足をつってしまうことは対策すべき課題ですが、それはともかく攻守ともに最後まで走り切ることが求められている現れでもあります。下田、齋藤、阿部と少し前までスタメンから外れていた選手たちが、走行距離の上位に名を連ねているのは偶然ではないはず。いま鬼木監督が求めているのは攻守ともに労を惜しまず走れる選手です。
 なぜかといえば、攻守の切り替えを豊富な運動量で繰り返せることがベースにあって2連覇できた、ということを再確認したからです。どれだけパスを回しても水を漏らせばやられてしまいます。その水を漏らさなくしたのが鬼木監督の最大の功績であり、そのために攻守の切り替えの意識を徹底させ、それが1試合通して続けられる選手を起用しました。そんな原点回帰がスタメン起用に表れています。
 もう一つが中村憲剛との相性です。怪我から帰ってきた中村はまたもパワーアップして帰ってきました。脇坂と田中が川崎のバトンを受け継いだかと思いきや奪い返す長老の姿に感じたのは図々しさ1割凄さ9割でした。
 良くも悪くも「俺がいないと寂しいんだろ?」的な相互依存に落ち着いた川崎は(メンヘラかな)、その影響力の大きさから中村がスタメン選定の一つの基準になっています。そこでスタメンを勝ち取ったのが下田と齋藤です。ひょっとするとサブ組で連携を磨いていたのかも、と思うと中村がサブに落ちることで選手層厚くなるのかも。
 下田と齋藤は中村の求めるものを理解してきているように見えます。下田はパスの基準が合ってきました。多摩川クラシコでもそうでしたが、狭くてもパスコースと認識するようになってきました(下田視点を再現した動画見てみるとその狭さがわかります)。元々パス技術が高いため(速いパスでかつ回転が綺麗なため味方に優しい)、目が揃ってきたことで中村との連携が醸成されてきました。

 齋藤は中村の動きの意味を掴めてきています。齋藤はタッチライン際を得意にしていましたが、最近は中央でも効果的なプレーを見せ始めていて、その結果が2試合連続ゴールに表れています。外から中に入り込む時に重要なのがいつどこにスペースが出来るか多くの場面でその基準になるのが中村の動きです。今節のゴールは岩田が中村に食いついたことでできたスペースに侵入したことで生まれました。
 このように中村との相性が良い、言いかえると中村がチームにもたらすメリットを最大限に享受できる選手がいまは選ばれています。この日アシストされた小林や登里などもそうでしょう。今後は中村経由の攻撃が増えるかもしれません。

家長の立ち位置

 脇坂の台頭もあって今年の家長の評価は分かれると思います。けれども今節の鬼木監督はトップ下スタメンには中村、ベンチに家長、そして脇坂をベンチ外に置きました。これはチームの方向性がまとまってきたタイミングでの評価という意味では重要でしょう。15分の出場だけで判断するのは難しいですが、鬼木監督の采配と交代時に中村が家長の背中を叩いたシーンからはトップ下としての強い期待を感じました。
 一方でもう中村と家長の共存は見られないような気もします。展開次第ではあるでしょうが、少なくとも今シーズンのスタメンで彼らが並ぶことはないように思います。スタメン、特にサイドの選手は献身的なランニングが求められることと、そしてエウシーニョ不在による影響、つまりサイドハーフの選手がSBと連携する必要があり稼働エリアの制限があることから家長のサイドハーフ起用が難しくなっています。
 家長が躍動する場が狭くなっているのはサポーターも鬼木監督も、何より本人が一番わかってるでしょう。それでも期待を持たせてくるのが家長です。「家長はどうすれば輝くか」というのを考えさせてしまうのが家長なのです。
 家長の途中交代は広島戦のスタメン出場を睨んだものだと思います。チェルシー戦のスタメンに起用したのもそのためです。つまり鬼木監督は家長のトップ下起用を上位の選択肢に考えているでしょう。今シーズン後半戦は家長と中村のスタメン争いになる予感がします。昨日の友は今日の敵かもしれません。

おわりに

 2試合連続同じ3人がゴールという珍事もありつつ、前回苦戦した大分相手に勝つことができました。3点目はもう解説とかできません。ダミアンすごい!阿部すごい!
 引き分けが増えて苦しんでいた時期を乗り越え、チームの目指す道が見えてきました。そんな苦しむチームを支えてきた最終ラインのラインコントロールは見事で、前半はオナイウの裏抜けを封殺しました。藤本は巧かった…。
 チームの調子が上がっている中、その波に乗れている選手と乗れていない選手がいそうな雰囲気ですが、直近の連戦や名古屋との対戦が決まったルヴァンなどまだまだ試合は残っているので、欠けずに総力戦で戦っていきたいところです。

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