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【Review】2021年J1第28節 川崎フロンターレVS.ヴィッセル神戸「振り子がどんどん振れていく」

はじめに

 2021年J1第28節の川崎フロンターレは、3-1でヴィッセル神戸に勝利しました。連戦で苦しい中でも、粘り強く戦って逆転勝利を手繰り寄せました。とはいえ先制点を許す展開は望ましくはないので、谷口のコメントの通り、引き締め直しを図りたいところです。

谷口「ここ最近、先に取られる展開が続いているので、チームとして個人として出来ることがあると思う。そこは気を引き締め直していきたい。」
(引用元:川崎フロンターレ「ゲーム記録:2021 J1リーグ 第28節 vs.ヴィッセル神戸」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2021/j_league1/28.html>)

谷口とジェジエウはまだまだ伸びる

 サポーターの贔屓目を抜いてもこの日CBで出場した谷口とジェジエウは半端ないです。しかしそんな彼らを手のひらに乗せてしまう大迫はもっと半端なかったです。自分が強いと信じていた選手が手玉に取られる光景は、中々に衝撃的でした。

 何度見ても惚れ惚れするのが大迫の2タッチ目。普通なら1タッチ目で正対することで落ち着く間が瞬間的に生まれますが、大迫はあの2タッチ目によってそれを許しません。止まる隙を与えず連続で仕掛けていくことでジェジエウのバランスを崩し、その後のキックフェイントがより活きる状況を生み出していました
 それ以降も大迫相手に何度もボールキープされることに衝撃でした。ただそれは恐らく谷口とジェジエウにとっても衝撃で、あまり味わえない経験だったのではないでしょうか。であるならば、彼らの中での守備期待値がまた一段階上がっており、まだまだ守備力が伸びていくのではないでしょうか

1点差を許さない威圧感

 鹿島、湘南に続いての逆転勝利でしたが、その要因の一つに川崎が纏い始めた1点差を許さない威圧感があります。あの1-0万歳の鹿島にさえ、今の川崎相手には1点差で逃げ切るという選択肢がありません。
 元々攻撃的な印象は強烈でしたが、今年は特に複数得点、1試合3得点を強調しています。何より実際に大半の試合で複数得点を達成しており、そうした実績の積み重ねがより強固なイメージを作っています。過去の自分たちが味方になっているのです。
 そうしたイメージを持った対戦相手は、先制点の効能がいつもより弱いです。この弱さの感じ方は人によってまちまちなので、ピッチ内の選手のプレー判断にもじわじわと影響を与えていきます。
 この日の神戸も先制点後の攻撃時のリスクマネジメントにばらつきがありました。特に顕著だったのがカウンターの強引さ。前半GK飯倉はボールキャッチ後もゆったりとプレーしていましたが、後半は川崎が前に出てきたこともあってか、速攻を選択することが増えました。2度目のPK献上は、飯倉の投げたボールが橘田にカットされたところが起点となっていました。直接の影響があるとは言えませんが、追加点に急がせるきっかけくらいには威圧できているのではないでしょうか。

 ちなみに、この試合に限って言えば、逆転に留まらずに3点目が取れたことは結果的に大きかったと思います。神戸との前回対戦時は、菊池の同点弾による劇的な幕切れで、この日の選手の脳裏をよぎったはずです。川崎は悪いイメージで、神戸は希望のイメージとして。そうした神戸の望みを断つことができたので、家長の3点目はチームにとって重要でした。

振り子を動かしていく神戸

 序盤の神戸は最後尾から丁寧に繋ぐことを志向しており、川崎のプレスをかわして精度高く前進することができていました。この時はまだ振り子は小さい幅で動いていました。
 ただ先制後は徐々にロングボールを多用し始めます。要因としては大迫の空中戦の強さ。苦し紛れでない限り、谷口とジェジエウに競り勝って収めてくれるので、下手に繋ぐよりも安全に運べます。まさに戦術兵器大迫。
 またボランチの大崎が川崎のプレスにはまり始めたあたりから、サイドに移動してボールを受けるようになり、それに合わせてイニエスタが下がり始めたのも一因でしょう。このまま全体の重心を無為に下げるよりは、高確率で勝てる大迫に直接届けた方が安全だと判断するのは妥当でしょう。

 こうした狙いの副作用として、ボール保持と非保持の往来が激しくなります。そしてそのような状況には、川崎のメンバーの方がこの日は適していたように思います。センターに位置する橘田、脇坂、旗手はプレーの連続性が非常に高く、シームレスに判断を繰り返すことができます。
 特にアンカーの橘田は、序盤イニエスタのポジショニングに邪魔されていた感じでしたが、ボールが動く展開になるにつれ、自身のプレーの連続性を高めていき、イニエスタを置き去りにするシーンが増えていきました

 神戸が難しかったのは、トランジションが多い展開でも戦える右サイドだったことでしょうか。武藤と酒井の2人だけで相手陣地深い位置まで運べる強引さは魅力的で、加えてCB菊池の広いカバーエリアと前に出る嗅覚の鋭さが後押しします。
 神戸としても悪くない戦い方だと考えていたこともあって、後半もどんどん振り子が大きく振れていきます。結果的には、右サイドで攻勢に出ようとした分、戻りが遅くなって空いた酒井のスペースからマルシーニョに突破を許されるなど、裏目に出てしまいます。あとはボランチ大崎の負傷交代も痛いアクシデントで、たらればですが山口が欲しかったところでしょう。

トランジション合戦に分があった川崎

 逆に川崎にとってはその流れが合っていました。この日のメンバーが適していたことに加えて、最近の試合設計の点でも良かったでしょう。
 最近は、前半慎重、後半勝負の展開で90分を捉えているように感じます。それは連戦を考慮して体力管理を優先していることもありますし、前からのプレスの精度が上がっていないことも理由に挙げられるでしょう。
 選手の入れ替わりが激しく、システムやポジションの組み合わせも様々試しているため、好調時のプレスの質の担保が難しくなっています。マルシーニョのプレーを見る限り、シンプルな指示に留めているのも、そうしたチーム事情からでしょう。
 こうした理由から後半に畳み掛ける方針の強いのがここ最近の川崎なので、徐々にトランジションが増えていく展開は合っていたと言えます。とはいえ厄介なのが、谷口と山村のダブルボランチに変更し、急に手堅い感じを出すあたりは、対戦相手としても緩急がキツく、やりにくかったのではないでしょうか。ちなみにCB4人の同時出場はオールスター感があってワクワクしていました

おわりに

 PK失敗を自らのゴールで取り返す家長には多くのサポーターが号泣したことでしょう。加えて個人的には小林よりも先に投入された知念に号泣しておりました。
 あと忘れてはいけないのがソンリョンの頼もしさ。イニエスタの決定機を2度も防いでおり、MOMにふさわしいでしょう。「一人で止めたという思いはない」との言葉にもグッときてしまいます。

「彰悟に当たって重心がずれましたけど、最後まで我慢してギリギリのところまで残せました。でも、一人で止めたという思いはないですし、勝っていても負けていてもそれ以上失点はしないという気持ちがつながったと思います」
(引用元:サッカーマガジン編集部「【川崎F】チョン・ソンリョンはお見通し。イニエスタ弾スーパーストップは「一人で止めた思いはない」」<https://soccermagazine.jp/j1/17485248/p2>)

 次節は多摩川クラシコ。右サイドの家長と長友による北京五輪世代のマッチアップは一つの注目ポイントになるでしょう。あとはマスコット同士の場外争いもあるみたいなので、ぜひそちらも(これから見ます)。


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