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【小説】フラッシュバックデイズ 36話

この小説は決して違法薬物を推奨するものではありません。
架空の話であり、小説、エンターテイメントとしてお楽しみください。

36話 種火

伝説と呼ぶに相応しいあの夜から何か心に穴が空いたような日々を送っていた。

バイト先で仲良くなったフジオ。家も近く、お互いの家を行き来するようなるのに時間はかからなかった。といっても、俺がフジオのマンションに遊びに行くことがほとんどだった。
フジオのマンションの住人のほとんどがフジオの友人らしく、大きな寮のようだった。フジと二人で一服していると、バイトや仕事を終えた隣人達が酒やつまみやドラッグを持ちより、フジの部屋に上がりこんで来る。
隣人達は何故か俺と同郷が多く、そのこともあってか、他所者の俺を暖かく受け入れてくれた。
フジオは幾つかのバンドを掛け持ちしているバンドマン。フジオの周りの友人たちも、仕事は別に「肩書」があった。絵描き、DJ、VJ、クラブスタッフ、ラッパー、、などなど大阪在住の若手アーティストだらけだった。
特に何の目的もない俺にとってはフジオのマンションは居心地が良く、毎日のように通った。
そのおかげで、俺の人脈は意図せずも広がった。
同世代のアーティスト達に刺激されたのか、俺はある事を思うようになった。
今の自分の同年代の知り合いを集めたら、イベントやパーティーができるのではないか?
たいして練習もしていない自称DJの俺だが、自分でパーティーを主催してみたい。
伝説の地下のクロージングパーティー以降、ポッカリと空いた穴の空いた心に種火がついたような気がした。

フジオにパーティーの相談した日は鮮明に覚えている。
フジオの家に行くと、初見の男、シー君がいた。
フジオの幼馴染らしく、爽やかな見た目に反して前歯が溶けてほぼなかった。おそらくシンナーの影響だろうとすぐわかったが、わざわざ口に出すことではない。相手が悪い気持ちになる可能性がある事をわざわざ口に出すやつとは仲良くなれない。シラフの時も決まっている時も関係なく、俺なりの人間関係の最低限のマナーだ。ここを理解できないやつとは仲良くなれない。

シー君とは最初こそお互いよそよそしくしていたが、フジオの家に集まるものの中では珍しく、シー君はシャブ好きだった。

シー君は数年前からシャブにハマり、風俗で働く彼女のヒモ、身分証明書も持たず、今まで「公的」に働いたことがないという、漫画や映画に出てくるような、なかなかの生い立ちながら、同い年で爽やかな見た目で憎めない感じのキャラクターだ。

俺とフジオがガンジャを吸っている時でも、シーくんは常にガラスパイプを手に持ち、俺の視線に気づいたのか、ガラスパイプを手渡してくれた。
初めてではないが、炙りとはいえど、シャブは少し緊張した。
ガラスパイプの球部分をライターで炙ると白い煙が立ち上がる。独特の味がする煙を吸い込み、ガンジャと同じく、肺に目一杯溜めてから吐き出す。
フジオにガラスパイプを渡してタバコに火をつけようとした辺りで、サーっと体全体に僅かな清涼感を感じた。
ガンジャでふわっとしていた脳みそがクリアになるような。
想像している嵌りそうな効きではなく、心地よい効きだ。
おかげで俺はこのあと定期的にシーくんシャブをお願いすることになり、俺がシャブにハマったきっかけになった日でもあった。


シャブの効きのおかげかはわからないが、俺はフジオに考えていたパーティーの事を打ち明けた。フジオもシャブが効いていたのかわからないが、意外にも俺の考えに好感触だった。シー君も面白がって話を聞いていた。
この日は希望が詰まったパーティー話で3人で明け方まで盛り上がった。
まさかこの日の計画が現実になるとはこの時は想像もしなかった。

つづく

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