見出し画像

ブリしゃぶは、立って食す。

立って食べることは、行儀の悪いことではないと思う。立食パーティーといえば優雅な感じがするし、立ち食いそば屋さんには活気がある。ブリしゃぶも立って食べたら、うまいのだ!

******

こんにちは、こんばんは。くりたまきです。

いつも通っている鮮魚店がある。目利きはもちろん仕事が丁寧で、どんな魚介もうまい。竹を割ったような性格の店主もいい。

この前は、腰の高さほどのガラスケースみたいな冷蔵庫のなかに並んでいたブリの刺身をおすすめされた。

「今日はこれにしなよ。ブリの刺身。天然物で脂が乗ってるから、ブリしゃぶにしたら最高よ」

この口説き文句に逆らうなんてできない。ケースに近づくと、淡い色みの脂がうつくしいブリの刺身が誘惑してくる。680円。即決した。

さて。しゃぶしゃぶ。ひとり暮らしのわたしの家には、卓上コンロがない。ふだんは普通の煮込む鍋しかつくらない。しゃぶしゃぶ。グツグツと沸騰する鍋でしゃぶしゃぶするから、しゃぶしゃぶはおいしいのである。

とれる手段はひとつしかない。キッチンでの立ち食いだ。

かわいい土鍋(長谷園のみそ汁鍋)に水を入れて火にかけ、沸騰したらあごの粉末と清酒と水菜とネギをドバッと入れて準備OK。つけダレには醤油にレモンをがっつり絞ったものを用意。いそいそと冷蔵庫からブリのパックを取り出してくる。

キッチンで、立ち食いする準備は整った。

ブリをそっとやさしく箸でつまんで、グツグツの鍋のなかでふりふりする。表面の色が変わったら完全に火が通りきらないうちに、水菜とネギを巻いて、つけダレにワンバウンドさせて口のなかへ。

脂の乗った、やわらかくてふわふわのブリ。噛み締めると水菜とネギのシャキシャキした食感。酸味の効いたタレが後味をさわやかにしてくれる。

ああ、おいしい。

ひとり、キッチンでブリがなくなるまで、夢中でしゃぶしゃぶし続けた。コンロの火は弱火でつけっぱなし。いちばんよいしゃぶしゃぶ具合で最後まで食べることができた。

そして今日、また買い物に訪れた鮮魚店の店主にブリしゃぶの感想を聞かれたので、キッチンで立ち食いしたことを正直に話した。

「くり、そんな情緒もへったくれもない食べ方すんの〜?!」

おおらかに笑う店主に、胸を張るわたし。

「いちばんおいしい、食べ方です!」

ちょうどお店に入ってきたお客のおばさまが援護してくれる。

「そうよね、そうやって食べるのがおいしいのよね〜!」

おばさまも、立ち食いしゃぶしゃぶしたりするのだろうか。家族に隠れてのお楽しみだろうかと想像すると、なんだかそれもかわいい。いや、おばさまはそんなことしてないかもしれないけど。

いちばんおいしく。そのためには、立って食べることなんて、へっちゃらだ! でもよい子は真似しなくていいですからね。

30minutes note No.959

さいごまで読んでくださり、ありがとうございます! サポートしてくださったら、おいしいものを食べたり、すてきな道具をお迎えしたりして、それについてnoteを書いたりするかもしれません。