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女王陛下のお気に入り 感想 「愛に正解はない」ということを教えてくれる名作

メリークリスマス!
前回の投稿が年内最後じゃなかったのかよ、という突込みは受け付けておりません。ホリデー満喫(という名の暇人)しているので映画とか見てたら最後に素晴らしい作品に出会えたため、暇なので(繰り返し)感想書きます。

ちなみにXでやたら流れてくるゲゲ謎が気になりまくるからクリぼっちの私は今日映画館行ってくるわ。予習で、原作マンガ1話、「墓場鬼太郎」全11話、「ゲゲゲの鬼太郎」第6期3話まで一晩で予習するくらい私はまだ現役アニオタらしい。このオタ活に対する勤勉さを誰かほめてくれ。仕事の10倍は真剣なんすわ。予備知識いらないらしいけどね、一応ね。
この作品が神ってたらきっと感想書きますよ(笑)
ちなみに鬼太郎は妖怪だと思っていたけどなんと幽霊族だった。しらなかったぜ……。

女王陛下のお気に入り

さて原題「THE FAVORITE」、邦題「女王陛下のお気に入り」
英国女王アンと、その従者を描いた作品。
毎度のことながら言うけど原題のセンスの良さに対する邦題の”余計さ”はなんなんだろうね。
まあ、いいんだけどさぁ。蛇足っていうか……。ま、イングランドの歴史に関する知識の浅いだろう日本人は「THE FAVORITE」じゃ見ないだろうから、仕方ないよね。女王陛下と言われればわかるけれども、世界の認識に対して、女王の存在が定常的に頭にないっていうか。まあそんなことはいいでしょう。

史実に基づいた作品なのであまり期待していないですが、本作、正直めちゃくちゃ素晴らしい。。。

私がイギリスオタクなのを差し置いても、映画としての完成度が高すぎる。むしろ史実作品であるにもかかわらずこのメッセージ性を込められたのはさすがとしか言えない。

一言で説明すると、

愛に正解はない。愛とは与える側と受け取る側の解釈によって常に形を変えるものであり、正解なんて存在しない。

与える側と受け取る側の解釈に「齟齬」があっても、二人の希望が合致すればそれは幸せだし、対等かつ同等な考え方であっても希望が合致しなければ不幸となる。

というメッセージが込められている。

愛というテーマはいかなるエンタメ・アート作品でも避けては通れない命題。
女王アンとその寵愛を受ける側近サラ、アビゲイルの三角関係でこれを見事に表現。

正直、感服いたしました……。

簡単なあらすじから感想をかきます!

絶対的権力を持つイングランドのアン王女の寵愛を受けるサラ。実質当時のイングランドの政治権はサラにあるといっても過言ではない状況。
アン王女は10人以上の子供を失って心を患い、体力的にも痛風を患っており、政治に無関心。すべてをサラに任せている状態。
そこに現れるのが没落貴族でサラの親戚であるアビゲイル。強かな美女の彼女はサラの侍女からアン王女に取り入り、サラの立場を奪うほどに王女の愛を手に入れることになる。

初めは貴族やアン王女の贔屓を盾に、アビゲイルを相手にしないサラを私は不快に思ってみていました。

虐げられるが下克上して強かに動くアビゲイルを応援するような気持ち。私は手段を選ばない弱者が好きなのでね!
しかし、面白いことに途中から私の気持ちは逆転します。
本当に心からアン王女を愛して、イングランドの行く末を思って行動(政治的権力の行使)しているサラに対し、自分の身分や資産、幸せのために手段を選ばず他者を蹴落としていくアビゲイル。

アビゲイルを応援していたはずが、彼女の手段は裏切り&裏切り、そして美しい美貌を利用。目的はぶれず「自分の幸せ・平穏」。
私は自分の幸せ第一で手段を選ばない、というのはむしろ好きなはずなのですが…。自分が幸せになれば、他者に興味がないというのが私の考えであり、アビゲイルとの違いは他者を落とすというところでしょうかね。アン王女を利用するのも、サラを蹴落とすのもいいけれども必要以上に貶める必要はないと思うんですよ。徹底的に潰す必要があったのでサラを叩く分にはいいんですが、うーんなんと言ったらいいんだろう。

私の気持ちは一度置いておいて、この作品の描く、二つの愛について考察していきたいと思います。

サラの愛は、正直そして強さ。
アビゲイルの愛は、嘘そして優しさ。

2人とも王女の寵愛を受けるため、王女に取り入ります。

サラは醜く痛風で太ったアン王女に対してアナグマのようだ、と正直に話す。しかし、彼女は王女に対して嘘をつかないことを徹底していました。政治的には増税推進、戦争推進、という強行右派でアン王女の寵愛を盾に好き勝手しますが、それも旦那を前線に送り、「リスクを取っても母国イングランドを強国たらしめる」という強い信念のもとです。
彼女の愛には、リスクを背負せる精神的な強さと信念が強く見えます。つまり、相手にも同じ強さを信じているのです。素直で率直であること、ほして素顔であることは、他人にはできないこと。特別であるということ、その態度で愛を示します。

しかし精神的にも体力的にも貧弱な王女アンの精神は、彼女の強さとは対立していきます。

一方で、アン王女の欲しい言葉、慰め、優しさを与えたのはアビゲイルです。
彼女は太って醜い王女を可愛いと言った。欲しい言葉、慰めを汲み取り、並べ上げた。しかし彼女の根本には自分自身の平穏と幸せのみがあり、国やアン王女がどうなろうといい、という本音が巧みに描かれます。
精神的に弱いアン王女が求めていた言葉は確かにアビゲイルがすべて与えた。
しかし彼女は心からそう思っているわけではない。ほしいもの、求めるものをただ与えるのが彼女の愛でした。

それが嘘であろうが相手が求めているものを与えることこそがアビゲイルの愛。そして精神的弱者である王女アンはそんな優しい嘘に傾倒していく。

自分の幸せのために手段を選ばないアビゲイル。
アビゲイルを映画の視聴者が不快に思うのは私利私欲に満ちているからだと思います。多分私が若いころだったら、きっと単純にアビゲイルって不快だ、美しいのは見た目だけで、ちっとも道徳的でないし倫理観にかけると考えただろう。
しかし大人になった私は視野が少し広がったようで、アビゲイルを快くは思わないものの、否定しようとも思いませんでした。

彼女は没落貴族。ドイツ人のクズ野郎に養子に出され、性的に虐げらてきたような描写もあった。そんな恵まれないひ弱な彼女が自分の幸せを願うのは、当然のことではないか?と思うのです。一人で幼少期から大の男と対峙し、女の武器のみで戦い続けてきた彼女は、自身の幸せのために手段を選ばないのは、当然のことではないか?

国のため、王女のため、はたまた「ノブレス・オブリージュ」(貴族や上流階級などの財産・権力・地位を持つ者は、それ相応の社会的責任や義務を負うという欧米社会に浸透した道徳観)を持つ生粋の貴族のサラとは出自が違いすぎる。
恵まれた出自であるからこそ、つまり、余裕があるからこそ、周りに目を向け、慈悲を与え、倫理観が高尚になっていくのではないか?
と私は思ったのです。

これは私が社会に出て、それなりに給料を稼ぎ、自立して生きていけており、お金にも困っていない。ほしいものはそれなりに不自由せず手に入る。だから視野が広がって、二人どちらの考えの経験上理解できるから、そう思うのでしょう。
子供のころは、自分さえ幸せになれば、どうでもいいと思っていた。私一人が何をしようとこの大きな地球に何の影響もないしね。わたしだけわがままでも大丈夫でしょう。(ちなみに今もこの考えは変わっていない)

話は逸れましたが、二人はそれぞれのやり方でアン王女を愛するわけですが、はて、どちらが正しいのか?という命題が突き付けられます。

私が好きなのはサラの正直で強い愛。

けれども、それは私が家族に恵まれた環境で育ち、愛を知っていて、自分に自信があるから。正直に他人から「あなたのここが悪い」と指摘されることに、自尊心があるから傷つかないのです。

私は愛は特別であり、偏見であり、贔屓だと思っている。

他人との差があって初めてそこに愛が存在すると思っている。
親しくない他人にはお世辞を言うじゃないですか。
そんなお世辞をたとえ真摯な演技でいわれたとえ、満たされるか?というと私は満たされない。
親しき仲でなければ言えない意見をはっきりと伝えることができる、知人や他人と明らかに差がついた親密さ、そこに愛を感じるのです。

しかし精神的に弱いアン王女はきっと私やサラとは違う意見でしょう。だから最後アビゲイルはサラの地位(王女の寵愛)を奪うことに成功するのです。

私は精神的に弱いことはないと自負しているから、アン王女の気持ちはわからない。でもアビゲイルにはわかったんだと思う。後ろ暗く辛い彼女の出自、アビゲイルは強い精神を持っているけれど、社会的弱者の気持ちを汲み取れるくらい彼女は弱者だった過去があるから。

嘘でもいいから慰めてほしい。その気持ちを、たとえ本心からでなくても汲み取って与えたアビゲイルは愛ではないと否定できない。

つまり愛に正解などない。

他者から見て、当事者から見て、何が幸せかは違う。

私はサラの愛し方を好むけれども、アン王女はそうでないかもしれない。

周りから見てアン王女に嘘を言い続けるアビゲイルが滑稽だろうとも、二人がそれで満足していれば幸せなのだ。

結局映画の最後でアン王女は、アビゲイルのウソを見抜き逆に虐げ、そしてサラを遠ざけ失ってしまう。
アビゲイルは嘘がばれて結局侍女と同じような立場になり、サラは英国の政治から遠のくこととなる。

いやはや、愛は怖いですね。
権力、金と同じくらいに。

ここに並べた三つ、手に入れないのが一番幸せかもしれませんね、とアラサー独身がつぶやいておきます。

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