プールにて
深い眠りの暗闇に、少しずつ光が差し込んできた。
目の前にはプールがある。
どこかの屋内プールのようだ。
コースロープもコースラインもない、かといって華美な飾りや仕掛けもない、無垢の水面が美しくゆらめくプールだ。
ふいに視界の左下隅から奥に向かって泳ぐ人影が目に入る。
滑らかな動きで、余計な水飛沫は一切立てず、水中を滑るように遠ざかっていく。
泳いでいるのは女性で、何も身に着けていなかった。
その滑らかに起伏する背中はただただ美しく、背中にかかる黒髪はただただ艶やかで、水中で上下する脚の動きに合わせてわずかに収縮を繰り返す尻はチャーミングだった。
そこにあるのはエロチシズムではなく、神々しいまでの美であった。
対岸に着くと、女性はプールの壁に寄りかかるようにこちらへ振り返る。
やはり由実だった。
由実の裸体など見たことはないのに、水面を遠ざかる後姿は由実のそれとして疑わなかった。
由実がこちら向きになって微笑みかけている。
「いつまでそこにいるの?」
いたずらっぽくそう言う由実の身体は水中にあって、水面の反射のせいかはっきりとは見えなかった。
「もう」とひとこと言うと、水面に浮かぶ由実の微笑んだ顔が水中へと潜った。
由実の姿がだんだんと近づいてくる。
ただ見ることしかできないでいると、あっという間に由実は足元に着いていた。
プールサイドから顔を出した由実の微笑みは、対岸の時と比べて少し艶めかしい。
「ねぇ、早く来なよ」
そう言うと、由実は両手をプールサイドにかけた。
由実がプールから上がってくる。
由実の裸身が面前に現れることになる。
それまで感じていなかったエロチシズムが一気に湧き上がる。
由実の身体がプールから迫り上がる。
目を逸らすことができない。
見てはいけないという抑制と見たいという欲求がせめぎ合う。
そのとき、視界いっぱいに眩い光が満ちた。
由実の身体を覆う水の膜が反射した光かと思ったが違う。
由実の身体そのものが光を放っていた。
その神々しい光からも目を背けることができず、ただ一身にその光を浴びた。
光が引いた時、視界にはプールも由実の姿もなく、いつもの寝室の天井があった。
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