美しきパフェに浸る。
パフェほど、なんだか特別感があって心躍る食べ物はないと思う。
鮮やかな果物、クリーム、アイス、その他諸々。それらがぎゅっと集まった一杯には甘い物好きにとって、夢が詰まっているも同然だ。
昔はどんなパフェでも興奮に値するものであった。
しかし社会人10年目に近づき、悲しきかな、やたらと生クリームやコーンフレークが敷き詰められているパフェにはあまり魅力を感じなくなってしまった。
しかしコーンフレークの割合が多くない、趣向の凝らしたパフェほど、当たり前だが値段が可愛くない。
よってパフェはますます気軽に食べられるものではなくなり、以前よりもわたしにとってのパフェの特別感は増すばかりである。
今日は、久しぶりに食した、そんな至高のパフェについて書き綴ろうと思う。
〜*〜*〜*〜*〜*
一目見て、これは食べなければいけないと思ったパフェだと思った。
たくさんの苺と白鳥を模したホワイトチョコレートが乗ったパフェ。
お店自ら「美しすぎるパフェ」と自称するパフェである。
美しすぎるという冠詞の通り、運ばれてきて目の前に置かれると同時に「美しい…。」というそのまんまな感想を抱く。
メニューに「美しすぎる」という言葉がなくとも、きっとそう感じていただろう。
写真の通りホワイトチョコレートでできた、美しいフォルムの白鳥が静かに鎮座している。
さて問題は、どこから手をつけるかだ。
いつもなら写真に収めた後は、躊躇なくてっぺんからいただきにかかる。しかし頂上に白鳥。
お召し上がりのポイント、と称されたリーフレットに目をやる。
ふむふむ、いったんのけておくのね。
ひよこ饅頭だとかたい焼きだとかの頭をかじるに「可哀そう…。」なんて思う純真さはとっくに失くしてしまった。
が、美味しくいただくにしろ、完成された生き物の形はどうにか、少しでも長く残して愛でておきたい気持ちは分かる。
さすが、そこのところの心情をよく理解していらっしゃる…。
ほう、とうなづきかけて止まる。
スワンのボディ部分が、そのジャージーミルクアイスなのだ。
「スワンを休ませておきましょう。」
なんて優しい言い方をしておいて、速攻スワンを食せだと・・・?愛でるためにのけさせたのではなく?
なんたる矛盾・・・と小さく混乱する。
ここはまず説明書きの2は無視しておいて、艶やかな苺からいこうと思う。
乗っている苺は、苺の女王である「あまおう」だそう。
「あまおう」、あまい、まるい、おおきい、うまいの頭文字から命名されたというあまおう。
そんなあまおうなので、大きい苺というイメージだったのだが、こちらに乗っているは少し小ぶりなあまおう。
わたし、苺は果物の中でも5本の指に入るくらい好きなんだよなあ。
ぎゅむっと実が引き締まった弾力ある果実。甘酸っぱさが濃くて、とても美味しい。
苺シーズンにしては少し早いので小ぶりなのかもしれない。
続いて、バニラの華やかな甘さ。
はい、もう幸せ。
美味しいバニラアイスは、一瞬で幸福指数をぶち上げる、尊い食べ物である。
その後に苺アイスが続く。テイストの違うアイスが続くことで味の差が際立って、さらに美味しい。
アイスの甘さの後に、苺を食べるとより一層、きゅと詰まった甘酸っぱさが追いかけてくる。
苺ってつくづくパフェ向きの果物だなあと実感してしまう…。
そこまで食べ進めると、薄く丸いホワイトチョコレートが区切るよう置いてある。
なるほど、その下にひかえる味と混ざらないための工夫なのね、と少し感心する。
その下には、苺と生クリーム。
苺と生クリームの相性なんて太古の昔から証明されているもんね。
甘酸っぱさをなめらかなクリームが包み込む。
ほら、やっぱり素敵なマリアージュ。
さて次は・・・と説明書きを見ると、今の層に当たる箇所がクリームシャンティと記載されている。
クレームシャンティ?えっ生クリームじゃないの?
調べてみると、クレームシャンティは、フランス語でホィップクリームのことだった。やっぱり生クリームだった。良かった、あってた。
さらに続くのは、クッキーを細かくしたようなざくざくした食感。いや厳密にいうと、クッキーとも少し食感が違う。
一つ一つ小さい粒なのに、味と舌ざわりの存在が強い。
いつか食べたタルトの下の部分に近いような、アーモンドプードルが入っているような香ばしさ。
説明書きによるとこれは、シュトロイゼルというらしい。
シュトロイゼル、わたしの辞書にはない。
折角なので調べてみることにする。
これから、いつかまた君に出会ったら積極的に使っていこうかな。
誰かとスイーツを食べたときなんかに、
「美味しいね~!」
「うん、このケーキのシュトロイゼルがアクセントになっているね。」
・・・うわ、なんだかシュトロイゼル、使うだけでなんだか通っぽい響き。
ちょっとスイーツのうんちくを語り出しそうな雰囲気も醸し出してしまいそう。
シュトロイゼルはさておき、近くにいっしゃるのは、ヨーグルトアイス。
このほのかに酸味を含んだ、爽やかな甘さよ!こんなの待ってた。
苺とヨーグルトの組み合わせももこれまた相性ばっちりなのよ。
とここで、別皿に乗せておいたスワンを置き去りにしていたことに気づく。
別皿に置いて、眺めるつもりがパフェに夢中になって置いてけぼりにしてしまっていたスワン・・・。
ボディ部分のアイスが溶けかかっていることで、見目麗しかった形が崩れ、残念なことになっている。
ごめん、スワン。でも君の一番美しかったときは、写真に収めたよ・・・。
これ以上溶けてしまう前に、急いでスプーンを入れる。
このジャージーミルクアイス、バニラとはまた全然違う風味でとても美味しい。
軽やかなミルクの柔らかいコク・・・!これはお風呂上りに食べたいアイスNO.1かもしれない。
ここまで来たら、もうスワン部分を食べつくすことにする。
スワンの羽部分のホワイトチョコ、なだらかな弧を描いた、単なる薄い一枚もののホワイトチョコなのかと思えば、羽のような模様が入っていて芸の細やかさに驚く。
いうまでもなく、美味しいホワイトチョコ。スワンの首部分のホワイトチョコは、とても細長く作られているので同じホワイトチョコでもカリカリとしており、食感が違って楽しい。
綺麗すっかりスワンの姿が消したところで、またグラスのパフェに戻る。
悲しきかな、残りはパフェグラス三分の一くらいになっている。
ここでやってきたのは、ハーブジュレ。
ほのかにミントのようなすっきりした甘さの清涼感。また方向性の違う甘さを展開することで、飽きさせない。
パフェのラストである最下層は、苺ジャムと書かれている。
わたしはあれ、意外だな、と心中首を傾げた。途中じゃなくて最後に苺ジャムなんだ。さっきのハーブジュレですっきり爽やかに終わっても良さそうなものなのに。
ラストを惜しみつつ、スプーンですくう。
ルビーの如く真っ赤に煌めく一口。
口に含んで、思わずにやりとしてしまった。これは、苺ジャムなんてものじゃない、ほとんど果実、苺の甘さをそのまま閉じ込めたコンポートだ。
濃い一口。ぎゅっと苺の甘酸っぱさが濃縮された、一口。
このパフェのフィナーレはきっと、ああ美味しい苺パフェを食べた、と余韻を残すためのものだったのだ。
上質な素材とシェフの技術が織りなすパフェ。
視覚、食感、味覚をフルに動員して小さなパフェグラスのストーリーを読み解く、短い時間の甘美なファンタジー。
これだから、パフェってやつは。
〜ブライトンホテル東京ベイ
ロビーラウンジ シルフ〜
#パフェ #フードエッセイ
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