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かつてサロンだった京都の老舗喫茶店。

京都といえば、歴史と文化の町だが、それと同時に喫茶店・カフェ天国でもあると思う。

先日京都の老舗喫茶店「フランソア喫茶室」を訪れた。喫茶店好きな方々の中には、耳にされたことがあるかもしれない。


30分ほど店の前で並んでから、わくわくしながら足を踏み入れた。
重厚なつくりの内装に、老舗と呼ばれるのにふさわしい風格を感じ、気持ちが上がる。

珈琲を頼むつもりだったけれど、一軒目で珈琲を飲んだばかりだったので、ここでは紅茶とレアチーズケーキを頼んだ。

老舗喫茶店なら、珈琲だけでなく紅茶もこだわっているはず…。

ほどなくして運ばれてきたのは、注いだミルクのように真っ白なレアチーズケーキ。

あ、美味しい。
最近食べたケーキたちの中で、最もひと口目
の感動が大きいケーキだった。

コクのある甘さと爽やかな酸味。

レアチーズケーキは、確固たるレアチーズケーキという存在を確立していて、見た目、味共に何者にも似つかないところが良い。

すっきり冴え渡るような甘さの輪郭を持ちながら、しゅるりと舌先でほどけていく。
添えられていたブルーベリージャムと一緒に口へ運ぶと、その甘酸っぱさがより、まろやかさを引き立てる。

そういえば、レアチーズケーキを食べたのはいつぶりだろう。喫茶店・カフェにあるチーズケーキといえば、レアチーズケーキよりも優しい黄色をしたベイクドチーズケーキの方が多い気がする。


しばらく記憶の海を泳いだけれど、どこそこのレアチーズケーキ、と浮かびあがってこなかった。
なので、ここのレアチーズケーキを、
今のところ1番のレアチーズケーキ、という名誉ある勲章を授けることにしよう。

3つは食べれる自信がある…。


昭和9年(1934年)に開店したこの「フランソア 喫茶室」は、単なる珈琲を楽しむ場だけでなく、別の意図もあった。

戦時色が深まり、自由な言論が困難になっていく時代。
フランソア喫茶室の創業者である立野正一さんはそんな時代に反戦や前衛的な芸術、文学を議論する場として、このフランソアを提供しようとしたのだ。


豪華客船のような真っ赤なビロードの絨毯とモナリザの絵画。(複製)
それから薫り高い珈琲とクラシック。

ここで、きっと数々の議論が飛び交い、混じり合い、ときに化学変化を起こし、さらなる思考の深まり生み出したに違いない。


そこから半世紀を経た今、そのような文化的なサロンとしての役目はなくなってしまった。

しかし今なお、どことなく文化的雰囲気の漂うフランソアで珈琲や紅茶とケーキを味わうと、どこか特別な気持ちになれる気がする。

そもそも、わたしはなんだか、サロン、という響きに憧れを抱いてしまう。
許されたものだけが集える、知的で洗練されていて秘密めいたサロン。

今でも、最近読んだ本や心の琴線に触れた言葉を交流し合うサロン、なんてあったら素敵だろうに。

もし、あったとしたら、どんな場が相応しいだろうか。

落ち着いた照明、ちょっと重厚感のある内装。
流れるのは、旋律が空間に溶け込むように小さな音のジャズ。
それから、ゆったり過ごすのに必須な豆や茶葉が選べる数種類の珈琲と紅茶。
それから、テーブルに華やぎを添える可愛いらしいケーキも欲しい。

そこでは、来店するのは、お1人様のお客さんが殆ど。

けれどもその空間に足を踏み入れるだけで 本や言葉を愛する人たちの緩やかなつながりが感じられる。


一人で文章と向き合っても良いし、そこに来ていたお客さん同士で本や言葉について交流し合うのも良い。

そんな、サロンみたいな喫茶店、どこかにないかなあ。

もしもそんな場所があるならば、わたしもそのサロンの一員として仲間に入れてもらえるよう、それまでにたくさんの本や文章に触れておこうと思う。


#喫茶店
#フードエッセイ
#京都


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