番外・小説『罪の声』について
塩田武士の小説『罪の声』-正直な感想を言えば、新味はなく、がっかりであった。この本を読んだ理由は、事件当時、取材した新聞記者の端くれだったからだ。この本をベースにした映画が上映されると聞いて、上映前に、この本を読まずにはいられなかったのだ。多分、映画も見ることになるだろう。
一連の脅迫電話の録音テープに録音をした女の子1人、男の子2人から見た小説である。もう事件から長年経過しており、公訴時効も成立しているので仕方がないが、塩田氏も事件の取材には限界があったと思う。
この小説の前提になっているのは、過去の調査物の著作である感じを持った。特に①覆面作家・一橋文哉の『闇に消えた怪人 グリコ・森永事件の真相』(新潮社)②大谷昭宏と宮崎学共著の『グリコ・森永事件最重要参考人M』(幻冬舎アウトロー文庫)③NHKスペシャル取材班著『NHKスペシャル 未解決事件 グリコ・森永事件~捜査員300人の証言』(文芸春秋社)の3冊がネタ本になっている印象だ。
これらの本の中で最も事件の本質に迫っているのは、①の一橋本である。A、グループのリーダーが事件の途中で変わったのではないか、という仮説。B、犯人グループは元新左翼、暴力団、株の仕手屋、半島出身者、エセ同和団体、元警察官らの集合体という仮説。これらは全部、①と②が書いている。C、滋賀県警の元警察官が犯人グループに加わっていたという仮説も③がその根拠を詳しく書いている。これらの著作を土台にしていると強く感じた。
『罪の声』はあくまでも小説であって、事件の核心に迫ろうというルポルタージュではない。脅迫テープに自らの声を吹き込んだ子どもに焦点を当てた点が本質であり、作者がこだわった点だと言える。
その子どもたちはとっくに成人して30代くらいになっているだろう。どこでどう暮らしているのか。事件の事をどう思っているのか。子どもたちに焦点を当てざるを得なかったことや、作者が子どもたちに最大の関心を寄せたのも、事件から何十年も経過していることから、そうするしか手がなかったのだろう。公訴時効後には、新事実はそうそう、出てこやしない。
ただ、この映画を見たり、小説を読んだりした後は、①の一橋文哉の本を読むことをお勧めしたい。彼は、犯人グループに最接近した人物だと思う。読めば、分かる。
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