5歳児ちゃん

創作SSやら夢日記やら

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スペース・ベイビー

『本日、シュワシュワミント国立天文台などの研究チームが、銀河の出産に立ち会い、赤ちゃんを取り上げました。同研究チームが銀河の出産に立ち会うのはこれで三億五百十一回目となり、――』  午睡からの目覚めを助けるアラームとしては十分なニュースが、四六時中つけっぱなしのラジオから流れてきた。私は重たい体をなんとか起こして、この赤子の誕生を祝して気に入りの豆で珈琲を淹れようとキッチンへ向かった。天の河から引いている水道の蛇口をひねり、電気ケトルに宇宙水を溜める。スイッチを入れたのち、

    • 梅の雨と書いてツユと読ませるのは少し無理があると、思う。

       ぴっちぴっち、ちゃっぷちゃっぷ、らんらんらん。あの頃傘を傾けてくれていた母はおらず、学生時代に狭い折り畳み傘の下で身を寄せ合って笑った彼もおらず。私はひとり、傘をさしている。何故、しとしと、どうして、ぽつぽつ、誰のせいで、ぴちょぴちょ。私は今日もひとりで傘をさしている。気分でかけている音楽も、バラード調ばかりだ。死にたい、と口から溢れた露は私の唇から滴ってアスファルトに染み込んでいってしまった。随分ひりついた酸性雨だ。私の死にたいということばの露が大地に染み込み作物に行き渡

      • ねこがねころんだらいぬはどうなる?

         朝が来た。海で丸洗いされた太陽が、まだ洗剤の香りがする光をカーテン越しに私の部屋へ侵入させてくる。清潔な光を受けて、無菌状態になってしまった私は起きるほかなかった。この光を浴びるまで私が浸かっていた夜はどろどろに溶けて跡形もなくなっていた。匂いすら、残ってはくれない。  私をはじめとする人間というのは傲慢な生き物なので、朝が来たら当然昼が来て夜が来るものだと思い込んでいる。どこにもそんな保証は無いのに。おとなたちは偉そうにふんぞり返りながら、地球は丸くて自転してついでに太

        • 夢日記 大航海

           私の部屋のベッドで寝ていると、パタンと音を立てて部屋の壁がそれぞれ四方に倒れた。いつの間にか天井も無く、私はベッドの上で寝転びながら青空を眺めていた。すると、潮の香りがして海水が流れ込んできた。床に散らばる洋服や読みかけの本は沈んでいくのに、なぜか私が横たわるベッドは波に揺れながら浮かんでいった。私は心地いい潮風を感じながら、このままどこへ行くのだろうと考えた。  波に流されながら航海を続けていると、海からペンギンの群れが私のベッドに上がってきた。私は体を起こして、小さな

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        スペース・ベイビー

          夢日記 死後の世界

           何も無い白い空間に、何故かいる。夢を見ているのだという自覚がある。ここまでシンプルな空間を夢に見ることは珍しい。夢は大抵、街中や海辺など景色が作られている。ここからどうなるのだろうと暫く突っ立っていると、どこからか声がした。「貴方は死にました。」なるほど。今回の趣向がなんとなく分かった。 「ここは死後の世界です。風景や登場人物はすべて貴方の思うままになります。飛ぼうと思えば空だって飛べますし、100キロのダンベルを持とうと思えばいくらでも持てます。」  相変わらず何も無

          夢日記 死後の世界

          夢日記 水族館

           K県のS市に、少し変わった水族館ができたとネットニュースになっていた。来館する際は三日前までの事前予約が必須とされているそうだ。時勢に合わせての対策としてではなく、元からそのように来館者を限定することが想定として造られていたと記事に書いてあった。水族館好きの私としては是非とも訪れたいと思い記事の最後に添えられていたリンクへ飛び、その水族館の公式サイトから予約ページを開いた。偶然、明日の午後一時の枠が一人分だけ空いていたのですぐに申し込んだ。明日の予定は予約確定後に確認した。

          夢日記 水族館

          音程のずれたラブソング

           早まった。通勤電車に揺られながら、男は後悔していた。冷え性の彼は冬になるとまんまるになる。熱を逃さない素材の肌着、かための生地のシャツ、ジャケットの裏に貼り付けたカイロ。彼はそれらを裏生地の上等なコートで覆う。寒い日の定番装備である。しかし、今朝のお天気お兄さんがにこやかに告げた予報を彼は知らなかった。『日中は晴れ間が続き、本日はとても暖かくなるでしょう。』  駅に着いたらトイレに直行してカイロを剥がそう。せめてもの抵抗に彼はネクタイを緩めシャツのボタンを一つ外した。 「

          音程のずれたラブソング

          恋とか愛とかいう死に関する考察

           人は恋をすると馬鹿になると誰かが言った。出典元は不明である。私はそうは思わない。人は恋をすると死ぬのだ。  本記事では人は恋をすると死ぬという仮説に基づき、以下の三点について考察する。誰が死ぬのか。恋をすると死ぬと言うのなら、いま私とすれ違った恋人たちはゾンビなのか。なぜ恋をすることが死に繋がるのか。  まず、誰が死ぬのかという第一の問について考える。恋をすると死ぬのは恋をする前の自分である。恋をする前の自分が死ぬと、恋をした後の自分が“自分”という存在を無意識下で引き

          恋とか愛とかいう死に関する考察

          海になる

           昨今の交通手段が海亀などの海洋生物に統一されてから、四百年が経ったと今朝の食卓で母が言っていた。大方ニュースでやっていたのを見てそのまま僕に伝えているのだろう。返事もそこそこに朝ごはんを食べ終えると食器を流しの中に置いて学校へと飛び出した。  今から五百年程前、相次ぐ異常気象により地球の海に対する陸地の比率が大幅に低下した。人間の数よりも海洋生物の数が増え、食物連鎖の圧倒的頂点とされていた人類の地位は低下し、海洋生物が人間を襲う事件が頻発した。海洋生物としては他にも食べる

          夢日記 八百比丘尼

           八百比丘尼。人魚の肉を喰べて不老不死となった尼が、とある寺にいるらしい。特に信心深いわけでもなく、ただ趣味を寺社仏閣巡りとしているだけの私がその話を人伝いに聞いて新幹線のチケットを取るまで、多くの時間は要しなかった。新幹線の中で、その寺は有名な観光地にあるものだからついでに様々なものを見て回ろうとスマートフォンで周辺情報を調べることにした。  寺は波の荒い海辺の崖上にあり、寺の敷地内に足を踏み入れると一層磯が香った。どうやらちょうど八百比丘尼による説教が始まるらしく私と同

          夢日記 八百比丘尼