「定期券内降りた事ない駅散歩DAY」後編 【日記ですら本当の事って書けない】


前編の続き。
新小岩を発車してしばらくすると、かいばしらさんは挙動を取り戻した。
話が上手いとはこういうことなんだろうなぁ。
話す順番の起承転結がうまいというよりも、言葉にのせている感情の起伏のちょうど良さ。

画面を見るのが疲れたのでイヤフォンをつけたまま目を瞑る。
相変わらず次の停車駅は決めていない。
この動画が終わったら、もしくは次の広告が挟まったら降りよう。

そうしてついた先は、「浅草橋」だった。

そういえば結構浅草寺が好きな僕である。
下町、がどんな事なのかはわからないけれど、ちょうど良い発展とちょうど良い古臭さが好きだった。
新小岩が「地元」を指すとしたら浅草は「親戚の家」って感じである。伝わるとは思っていない。

そんなこんなで浅草寺を目指しながら、浅草橋が浅草寺から遠過ぎることに気がついた。
僕が知らないだけはもちろんだけど、浅草って浅草寺周辺の事を言うんじゃないのかい?

「〇〇と言えば」から外された街を30分ほど歩くとようやくついた、雷門の前。

人が〇〇の様だった。ムスカならなんて例えるだろうか。僕には見当もつかない。

ゴールデンウィーク2日目の浅草寺は、浴衣を着た人々や外国人、学生や家族、カップルで溢れにあふれていた。何より天気もとっても良い。
ちょっとだけここまでよりも暑かった。

僕は人混みの隙間をするすると避けながらぐんぐんと前に進むことができた。
これはちょっとした特技で、昔から隙間をするすると移動するスキルに長けていた。

するすると、するすると。なんの目的もないのに人混みをどんどん進んでいく。

一歩進むごとにうわーと後悔してきた。
なんでこんな人混みにわざわざ、自分のばかたれ。
出店で売っているビールを見て急激にお酒を飲みたくなった。
しかし一つのお店の行列が、それぞれ3つ先のお店まで続いているぐらいの長蛇だ。

どこか一人で飲める店を探そう。
そうしてするする、するする、するするすると一軒のバルに辿り着いた。

席には僕以外に2組のお客さん。
おひとり様は僕だけだったけど。

喉が渇きすぎていたのでジンジャーハイボールを頼んだ。
外の人混みのざわざわは締め切っている店内にも聞こえてくるけれど、店内にはジャズが流れていて、良い感じにBGMに消化してくれていた。

頼んだのはポテトとアヒージョ。この2つがまずいお店ってないだろ。
グビグビグビと届いたハイボールを飲んで、昼からの長旅がやっと落ち着いたことを感じる。

最近一人で飲むのが好きになった。
仕方なくの一人のみが、楽しいことになれたので良かった。

一人で飲んでいる時は基本的に、今僕が書いているこの「note」を開いている。
他人の書いた文章が心地良い。
知らない人の日記とか、詩とか、エッセイだとか。
もしかしたら読んでくれているフォローしてくれているあなたの過去のnoteなんかも読んじゃったかもしれない。
人の文章の句読点の使い方が気になる。
良し悪しやうまさ下手さではなくて、この人の言葉の抑揚と気持ちの起伏は、結構句読点に現れる気がしているから。

改めて読もうとしてみると、最終更新が半年以上前の人がたくさんいることに気がついた。

いうて僕も何ヶ月ぶりにこれを書いてるっけ、なんだけれども。
文章が書けなくなる生活ってあるよね。

少し寂しい気がした。

そういえば色々な人の日記って、どれだけの本当で書かれているのだろうか。

「鳩の撃退法」という映画を見た。原作は未読である。
とんでもなく端折ると、現実での悲劇を、せめて小説の中だけでは救いのある様に、と実話をベースに書き起こしていた物語の結末にフィクションのハッピーエンドを選んだ小説家の話だった。

僕らは基本的に匿名だ。本名らしい名前をつけたって信憑性はないけれど。
なんだって本音を言って良い壁打ちの様な日記でも、全て本当と本音を書ける人ってどれだけいるのだろう。

誰に向けての脚色かも、誰に向けての丁寧な言葉遣いかもわからないけれど、出来るだけ出来の良い日常を書こうとしてしまう人はどれだけいるだろう。

当初僕は、本当のことが言えないからと文章を書きはじめたはずだった。
口に出せないモヤモヤを、そのままに吐き出せたらどんなに良いだろうと。

けれどそのモヤモヤの垂れ流しの結末には、いつだって綺麗な締め方を選んできた気がする。

日記の中でさえ文章の中でさえ、中身のある様なことを言おうとしてしまう。

現実のまま全て日記に書き起こせる人は、本当にいるんだろうか。それだけが気になりながらハイボールを飲み干した。


僕にしては、休日に良く動いたんじゃないかな。なんだか結構充実していた。

んでも鳩の撃退法てきにいうのなら。
案の定僕のこの前後編の日記にも、
一つだけ嘘を含ませておいた。

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