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「ポケットホールジグ」で作るブックシェルフ 

人気のDIYコンテンツからDIYを再考する


 ブックシェルフ(本棚)のDIYは、収納やインテリアの重要性から大変人気のあるDIYである。今回、我が家でも必要に駆られ久しぶりにDIYすることになった。デザインはこれまで何度か作ってきた合板を組み合わせたシンプルなものである。このような収納棚を作るにあたって、構造的にも重要になるのが「棚板」の固定。しっかりとかつ簡単に作るには「金具」などを受けとして使うのが一般的だと思う。もしくは、もっと簡単に作るなら外側から棚に向かって「ビスで固定」するのが考えられる方法ではないだろうか。かくいう私もこれまでこのような形でブックシェルフを作ってきた。

左:今回 右:前回 右のほうが2倍の幅があるが基本的には作りは同じ

 しかし、これ見よがしに「金具」や「ビス」が見えてくると、どうしても素人仕事の「安っぽさ」が出てしまう。かつ金具を使えば数もそれなりに使うので余計なコストも掛かる。一方外側から「ビス止め」すれば、金具は使わなくて済むが強度に不安が残り、またビス頭が見えてくるので、これまた「安っぽさ」を生み出す原因となる。

幕板の正面からビス止めしているので「ビス頭」が目立つ。

作る「楽しさ」から、使う「大切さ」のために


 そもそもDIYというものは、素人がやるものだから「素人仕事」であり「安っぽさ」が出て然るべきではある。がしかし、DIYにおいてその「安っぽさ」や「素人仕事」は、愛着を持って長く使っていくことへの「障壁」となるものである。これは昨今の「DIYの課題」でもある。作ることの「楽しさ」ばかりが注目され、長く使うことの「大切さ」を見失いがちなのである。キレイに見た目良く作れば「飽きること」なく、しっかりと頑丈に作れば「長く使うこと」ができる。作ったものが数ヶ月、数年でゴミになるようでは環境にも良いはずがない。少し前に流行っていた100円ショップの素材を使ったDIYしかり、長く使うことを念頭に「素材」、「デザイン」、「作り」を慎重に考える段階にDIYは来ているのではないだろうか。

DIYの課題解決ツール「ポケットホールジグ」


 そこで今回、我が家のブックシェルフを新たに作るにあたり、先程の課題を解決してくれたのがである。ポケットホールジグとは木材パーツにビス用の穴を斜めに開けるための補助工具だ。斜めに穴を開けることは、このような「ジグ」なしには難しく、何度も正確に「同じ箇所」に「同じ深さ」で開けるとなればほぼ不可能と言ってもいい。職人でさえこのジグを自前で作るほど重要なツールなのである。

穴の「深さ」や「位置」などの調整は簡単。

 この穴は、パーツの見えづらい「裏」や「下」に仕込むので表にビスが見えてくることはない。これにより目立つところに「ビス頭」が見えることがない。また、一度に大小「2つの穴」を開け、ビス頭を隠しつつパーツ同士をしっかりと引き寄せ結合する事ができるのである。このジグにより「見た目良く」「しっかりと頑丈に」を実現することができるのである。

大小2つの穴が空くことでビスがしっかりと効く

シンプルでコスパ良くするために


 私は何度か同じスタイルのブックシェルフを作ってきたとお伝えした。デザインというほどのものではないが、このブックシェルフは「見た目」と「作り」をシンプルにすることで結果「コストパフォーマンス」を考慮したものになっている。パーツは「天板」「脚」「棚板」「幕板」の4つ。横揺れに対する耐性は「幕板」と「背板」が担っている。

材料が少し余ったが今回は我が家に必要なサイズでデザイン。

 材料は厚み24mmのサブロク(910mmx1820mm)と呼ばれる針葉樹合板がたった「1枚」。ホームセンターで買うと5,000円ほど。そこから背板以外のパーツをすべて取ることができる。ちなみに背板は安価な9mmのラワンベニヤを使用した。サブロクの半分のサイズで1,000円ほど。「ポケットホールジグ」は、1本入りなら4,000円程度(送料別途)なので1万円程度で作る事ができる。サイズアレンジも可能だから、TVボードなど低いシェルフもサブロク1枚から作ることが可能である。

サブロクからのパーツ取りの図面。これをプリントアウトしホームセンターの
カットサービスで渡せば、現地での煩わしい図面描きを省略できる。

作業効率アップと時間短縮を可能にする


 「ポケットホールジグ」を使ってブックシェルフを作るのは初めてのことである。これまでの「棚受け」を使っていた頃に比べ「作業性」はどう異なるのかというのが気になるところであった。まず、ポケットホールジグを使っての穴あけは単純な作業で、前もってどの箇所にいくつ開けるのかを予定していれば作業はスムーズである。

これまで金具などを使っていた箇所に「ジグ」を固定し、深さを設定したドリルビットでひたすら穴を開けていく。
これまで金具などを使っていた箇所に「ジグ」を固定し、
深さを設定したドリルビットでひたすら穴を開けていく。

 「棚板」「幕板」「天板」に穴を開け、その総数は「24ヶ所」。驚いたことに金具などの棚受けを使っていた時に比べ、使用する「ビスの数」が圧倒的に少なくなったことだ。棚受けを使えば、棚受け自体をビスで止めないといけないのでビスの数が増えて当然である。よってビスを打つ「回数が減り」、棚受けという「パーツが減り」、今までよりも作業効率が良くなり、時間が短くなったということは言うまでもない。

棚受け代わりの木材は脚に向かってビスで止められている。

合板に有利な「ポケットホールジョイント」


 「コストパフォーマンス」と「作業性」を考えると「合板」という素材は大変使いやすいものである。合板は言わずもがな薄い板をミルフィーユのように積層して作られている。しかし、これが合板で家具を作るときの「耐久性」への不安要素となることもある。というのも積層になっていない面に打つビスは効きやすいのだが、一方「積層になっている面」にビスを打つと積層が剥がれるようにして板が割れる事があるのだ。それを回避するため慎重に「下穴」などを開ける必要が出てくるためひと仕事増えてしまう。私も棚受けに使った角材は積層に向かってビスを打つ必要性があり、割れてしまった箇所もあった。

左:棚板から脚に向かって開けた穴 中:脚から幕板に向かって開けた穴          右:脚から天板に向かって開けた穴

 このような懸念はポケットホールジグを使うことで心配がなくなる。先程もお伝えしたこのジグは、大小「2つの穴」を一度に開けることができる。まず大きい穴は「ビス頭」隠し、小さな穴はビス頭が止まりしっかりと結合できるようになっている。この小さな穴のほうが積層に対する下穴にもなり、割れや剥がれなどを回避してしっかりと結合してくれるのだ。最初はポケットホールジョイントだけで、重量の掛かる棚板を取り付けるのに少々不安を覚えたが、穴の数を増やすことで問題は無くなった。金具なら買い増さなければいけないところ、穴を増やすだけで良いところがこのジグの利点でもある。

これまでビス頭が見えていたところには見えない。
本も水(20L)も結構な重量ではあるが耐久性には問題なし。

まとめ


   意外だと思われるかもしれないが「ジグ」という言葉は英語で「JIG」と表記し、日本語でも同じ読み方で「治具」と書く。実は日本語の治具は英語のJIGの「当て字」である。木工といえば「日本」。というプライドを日本人であれば多くの方がお持ちなのではないか。かくいう私もそうである。それなのに英語の当て字から来たと知った時はいささかショックでもあった。世界最古の木造建築物「法隆寺五重の塔」や神社仏閣、町家などを見れば、日本が「木工の国」というのは明白だ。

  ジグは産業革命以降、生産効率などを重要視した西欧人が生み出したツールである。かくいうKreg社もアメリカ、アイオワ州に本社を置く木工のツールカンパニーである。上手い人でも、そうでない人でも等しく、合理的に作る事ができる道具を多く生み出して来た国である。このようなプロと素人の距離が近くなるツールは電動工具の出現により一気に発展していった。日本でも異なる名前でジグと同じようなツールが存在してきたと思う。しかし、それは職人のための道具であり一般的に商品化されるものではなかった。現在も「職人」と「素人」の距離はしっかりとあり、それはプロの仕事の「プライド」の大きさでもある。これは悪いことではない。しかし、DIY業界の発展に限って言えば難しいところである。日本のDIYが次のフェーズに行くためには、今回の「ポケットホールジグ」のように少しでもその距離が縮まるツールが必要になっていくのではないかと思っている。


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