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旅行記 2019年ニース
ジェノヴァまでのつもりだった。それはイタリアに行きたかったからというだけの理由で。でもその感覚は正解だったと知る。イタリアで見えるものも聞こえる音も、フランスで得るものとはまるで違う。当然だけど。
まさかイタリアで雪が見られるなんて。もう正午すぎだというのに足跡ひとつない雪景色。東北の銀世界よりもあたたかくてやわらかい。
ヨーロッパはひこうき雲が多い。気温とか湿度とか緯度とか気圧とか、そんなようなものの都合で、残りやすいのかもしれない。交差するひこうき雲は縦横無尽に空に広がっていて、自由を感じさせた。無限に広いスケートリンクをのびのび滑ったあとのようだ。
日差しが雪を溶かす。雪の残る場所と雪の気配を消した場所が、同じ畑の中でもくっきりと分かれている。雪は大地に浸み込んだのだ。
落書き越しの海岸線。自由に溢れた列車。なんて贅沢なんだろう。
守るものが少ない方が生きやすい。スリに気をつけて行動して知ったこと。
Tete
黒い四角のようなもの。四角の組み合わせ。深い緑のフチ。隣は同じく黒の四角のようなものの上に、今度はピンクとクリーム色の四角のようなもの。その上に赤いハート。背景は薄い水色。全部切った紙を重ねている。
生きるってこういうことかなって思った。マティス博物館にて。作品数は少ないのに10€も取られた。
きっとハトの図々しさとふいに聞こえるiPhoneの着信音だけは、どこの国でも変わらない。
カーニバルに行った。艶やかな山車と着飾ったダンサーたちが沿道に集まる人々に花を投げながら進んでいく。人々は花を求めて手をかざしアピールする。ダンサーは花を撒く。平等に。それでいて不平等に。ミモザが宙を舞う。黄色に手を伸ばす。
「ぼんじゅ」と運転手に声をかける。はっきりと発音する「ジュ」ではなく、舌を軽く丸めて上顎には付けずに発音する「じゅ」。運転手は表情は変えないままに「Bonjour」と返してくる。
笑顔の有難みは増して、褒め言葉の有り難みは減る。
ニースのビーチは石浜だった。歩くたびに、ギュッギュッと石を固めていく感じがした。重力がかかるたびに石が噛み合って強固な浜になっていく。浜を造っている。そんな感じがした。石はすべて角がない。まん丸になっているものから角が取れただけのものまであった。でも決して刺さらない。傷つけられることはなかった。
波は絶えず打ちつける。ざばーん。ざばーん。その音は決して止むことはない。不思議なことに。だから寂しくない。ざばーん。ざばーん。
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2019年2月にニースに行ったときに書き留めていたもの。
また行きたいな。いろんなところに。
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