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【Le Bistrot du Maquis】白ワイン1杯の重み

今宵はBistrot du Maquisへ。
モンマルトルの丘を越えた先にあるミシュラン掲載店。
Pottokaと並んで、カジュアルな店のなかでは、パリで最も素晴らしいレストランだと思っている。

初めての訪問についてはこちら。

2度目の訪問についてはこちら。

そして今宵は3度目の訪問。

入店すると、シェフの奥様でサービスを担当する中国人のShuquinさんがいつものように出迎えてくれる。
「ああ、あなたのこと覚えているわよ」。
どの席がいい?と聞いてくれるので、座り覚えのある席に座らせてもらう。

ああ、いつものこの感じ。
いつものこの景色。
戻ってきましたという喜び。

店を新たに開拓するときの緊張感も大好きなのだけれど、気に入った店に何度も訪問することも、それはそれでとても楽しいし、大事なことだ。

奥様の兄弟か親戚かと思われる、サービス担当の中国人男性もいる。
彼もこちらを覚えてくれていたようで、崩れた笑顔で会釈してくれる。
初めはとっつきにくいような印象だった彼が、こういう雰囲気に変わっていくのかと感心した。
店との関係が成熟していく、というとおおげさだけれど、見知らぬ店が少しずつ勝手知ったる店に変わっていく。

さて、メニューを選ばなければ。

前菜とメインで34ユーロ。
初めて来た2021年12月には30ユーロだから値上がりしている。
しかしパリのビストロでこの値段は圧倒的に安い。

ええっと前菜は何にしようかなとメニューを眺めて、オマールに目が留まる。
34ユーロのコースが、これを頼むと52ユーロにまで跳ね上がる。
相当な贅沢ということになるけれど、ここのシェフには心を委ねている。
オマールを食べるならここ。
贅沢するならこの店。
オマールのおいしさを教えてもらうつもりで心を決める。

白ワインとともに運ばれてきました。
ふむ。
これが「正しい」オマール料理か。
ジャガイモのマヨネーズ和えを土台に、オマールがどんと載せられている。
ジャガイモとオマールは個別に食べると美味しいのだけれど、コンビネーションとしては、あまりあわないような気がした。
皿として、全体として、残念ながらそそられるものがなかったかもしれない。

メインは仔牛のRagnonを注文してみる。
すると、奥様が「Ragnonって知っている?」と聞かれる。
ただ仔牛が食べたくて選んでいる。
「いいえ知らない」と答えると、スマホで調べて見せてくれる。
仔牛の腎臓だそうだ。
色々と調べると、とても臭くて、たいていの人は驚くレベルとのこと。
少し迷ったけど、やめた。

無難にいこう。
というわけで、牛肉の煮込みにする。

とっても上品で、親しみ深く、王道の、正しい料理。
上はトマトと玉ねぎが、まっすぐの旨味と心地よい酸味で食欲をそそる。
二種類の人参のつけあわせも、優しく、飽きさせないおいしさ。

今日はデザートまで頼もう。

イチゴのババロワ。
コーヒーという気分でもなかったので、調子に乗って食後酒まで注文する。

フランスの酒と書いてあるが、イタリアのグラッパみたいな味。
ふむ、思ったより強い酒だった。

最後はいつもの、最上のクッキーが運ばれてくる。
これを食べに、この店に来ていると言ってもよい。

会計をお願いすると、白ワイン1杯サービスしておいたから、と言われた。
えー。
うれしい。
3度来て、もうそういう扱いをしてもらえるのか。
1人で来る日本人というのが珍しいのかもしれない。

店にすればたかが白ワイン1杯なのだろう。
こちらとしては、客として受け入れられた証だ。

千鳥足になりながら、モンマルトルの街をあとにする。
陽気な気分は、グラッパのせいだけではないだろう。


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